第4章「生育家族から見た若年失業者・フリーターの析出―社会的不平等の世代間再生産」では、40人の調査対象者の内、相対的に低い社会階層の出身である者に焦点を当て、彼/彼女の生かされた状況と行為を過程として描くことによって、低い社会階層的背景を持つ人々が、その直接的な結果として、あるいはそれが学歴に変換されることによって、若年失業者・フリーターとして析出される姿、つまり、下層が世代を越えて再生産されるプロセスを描き出すことを試みている。
本調査対象者においては、保護者の学歴・職業あるいは家計状況など相対的に低い社会階層的背景を持った者が半数以上を占めた。その中には、親の死亡や病気、また近年の不況により経済的困難に陥ったというケースもあったが、そのようなある出来事を契機に困難に陥ったというより常態的に不安定・貧困状態にあったのではないかと考えられるケースも少なくなかった。
また、これら低い社会階層的背景を持つ層(具体的には生育家族において経済的困難があったと調査対象者自身に語られている層)においては、両親の離婚経験、ひとり親世帯が非常に多く見られ、その他、近代家族モデルから大きく外れる家族構成も頻繁に見られた。さらに、DVなど様々な家族生活における「困難」「しんどさ」も経済的困難が語られているケースでより頻繁に見られた。
このような経済的困難、さらに経済的なものに還元できない様々な困難を内包する家族に育った者において、ごく初期の段階から授業内容が分からなかったという経験や、「不登校」経験などが多く語られた。生育家族における困難が低い学力達成へと変換されている状況を見出すことができる。それは、中卒後の学歴達成をストレートに規定する。経済的困難が語られた層においては、中卒を初めとする「低学歴少数者」となる者が少なくない。
「低学歴少数者」として析出された者(とりわけ中卒層)は、その学歴の低さが大きく影響することで、職業世界への参入のスタート時点で、低賃金の非正規雇用に、つまり階層化された労働市場の下層部分に有無を言わさず組み込まれがちである。その後、転職を重ねながらも、安定した雇用の獲得が極めて困難な状況を滞留している。
このように、生育家族における様々な困難が、不利が不利を呼ぶ形で、彼/彼女らを不安定就労層としてのフリーターへと押し出しているプロセスが描かれた。調査対象者のきょうだいの学歴、職業を検討すると、同様の傾向が指摘できることは、ここで取り上げるプロセスが個人の選好などを超えた力を持っていることを示している。
しばしば「フリーター」という言葉は、「夢の追求」や「自分探し」のためにあえてそのような働き方を選択する若者を指す言葉として用いられる。また、「フラフラして定職に就かない若者」をバッシングするためのカテゴリーとして用いられる。本章が描いたのは、不安定・貧困階層に生まれ育った若者が「夢を追求する」わけでも、「自分探しをする」わけでもなく、またそう意味づけるわけでもなく、ただ労働市場の底辺へと自動的に、選択の余地もないまま送り出されている現実、下層が世代を超えて再生産されている現実である。