第6章「強い紐帯の弱さと強さ―部落出身の若者の失業・フリーター問題に関する考察」では、部落出身の若者に焦点化し、彼・彼女らが失業・フリーター状況に至る過程における、部落問題との関係について分析が行われている。
第一に、部落差別との関連については、差別の存在を認識することによって、進路選択に重大な影響を与える事例が見られた。他にも差別に対する不安が語られる事例は多く、彼・彼女らにとって部落出身であることは様々な契機において行為に影響を与えるような意味づけがなされていることが示唆される。主に就労との関連に焦点化して検討を行っている本分析枠組みでは取り上げきれなかった部分も多く、マイノリティのアイデンティティ論を用いた再検討が必要とされる。
第二に、相対的に強固であるとされるムラ(部落)ネットワークとの関連では、ムラネットワークは部落出身の若者の就労に大きな影響を与えていることが明らかとなった。そしてそのネットワークに依拠した入職は、結果的にフリーターなどの不安定就労に帰結する、すなわちフリーターの析出要因となっていた。しかしそのことは正規職に就業できないからフリーターになるというネガティブな意味合いではなく、そもそも低学歴などにより労働市場において極めて不利な立場におかれている若者を、フリーターなど不安定就労ではあるものの就業に向けて包摂する機能を果たしていた。
もちろん、強い紐帯による就業のための情報が、同質的な人々からの情報に限られることは疑いない。部落内にサラリーマンの姿をあまり見かけないという地域の職業事情は、結果的に学校から排除され、学校から就職という達成アスピレーションを奪われた子どもたちの進路選択・職業達成モデルに、著しく影響を与えてきたと考えられる。しかし、そのような情報に対するアクセスの機会が「低学歴」「低階層」または「差別」によって剥奪されている状況において重要となるのは「強い紐帯」、すなわち地縁や血縁などの「何とかやっていく」ためのネットワークである。彼・彼女らの多くは中卒・高校中退者など、現在の労働市場においては極端に不利な立場におかれている存在である。そうした学校から排除された「しんどい」層に対して、それが非正規労働であれ肉体労働であれ、就業へのチャンスを与えることが可能なのは、コミュニティにおける若年層へのまなざし、「強い紐帯」が存在しているからこそなのである。
調査対象地域に見られるような子育てを中心としたネットワークは、同様に不利な立場におかれている層が集住する地域においてモデルとなりうる。学校から排除され、就業へのチャンスを奪われた若者にとって、家族・親族や地域ネットワーク、すなわち「何とかやっていく」ためのネットワークは大きな資源であり続けている。彼・彼女らにとっての資源をいかに維持・再編・創造していくのか、今後の政策が問われている。