第8章「若者に対する就業支援政策の現状・課題とそのニーズ―社会政策・同和対策事業・地域就労支援事業」では、若者に対する就業支援政策の現状や課題、または若者自身から出されたニーズが分析されている。
1990年代前半までの日本における若者の失業率は、諸外国と比べると非常に低い水準であった。しかし、それは景気の良さと、新規学卒者を採用するという日本企業独自の雇用慣行に依拠していたところが大きく、求職そのものについて特別何らかの政策が実施されていたというわけではない。そうしたことは、社会的、経済的に不利益をこうむりやすい「マイノリティ」と呼ばれる人々の、戦後からの動向に注目すれば容易に理解できる。というのは、「マイノリティ」の人々の就業が安定するのは相対的に遅れたからだ。
ところが、バブル経済の崩壊をきっかけに、日本経済は長期にわたる景気後退期に入り、とくに若者への労働需要が減退した。これに、若者の職業観の変化も相まって、その失業率は大幅に上昇したのである。
一方で、政策に関する大きな改革が実施されている。地方分権化の推進がそれであり、これまで国や都道府県だけが取り組むものとされてきた労働行政は、労働者にとってより身近な市町村レベルにおいても実施されることになった。こうした市町村レベルでの就業支援として注目されるのが、大阪府の地域就労支援事業である。この事業には、ある程度のコストが必要となるが、若者たちがこうした支援事業によって将来的に自立した市民となるのであれば、結果的には回収可能なものといえるだろう。
地域就労支援事業の中核となるのは、地域就労支援センターを拠点として活動するコーディネーターである。コーディネーターは、相談者に対してハローワークで得られた求人情報を提供するが、事前の相談活動で相談者の状況を把握していることから、適切な情報提供が可能となる。また、相談者のスキルアップを図るため、委託訓練への誘導、資格取得に関する相談などにも応じている。つまり、地域就労支援センターは、支援を必要とする者が、その場へいくだけで様々なサービスを受けることができる、いわば「ワン・ストップ・サービス」提供の場なのである。こうしたサービスは、コーディネーターと行政、学校など様々な機関とのネットワークによって実施されている。
また、マイノリティ問題に関しては、本章で取り上げた事例が部落を含む地域を中心とした地域就労支援事業であった点から考えることができよう。この事例では、地域就労支援事業が部落内の既存の人的ネットワークを活かして、実にうまく機能していた。それに加えて、部落では、上述のような様々な機関とのネットワークが、長年にわたって形成されていたという点もプラスに作用していた。また、コーディネーターは、相談者に心をひらいてもらえるように尽力していた。というのは、相談者との信頼関係が、有効な支援事業を実施するためには欠かせないからである。
ただし、このことは、地域就労支援事業が部落内の者にしか有益でないということを示さない。コーディネーターは、それぞれの市町村全域を担当するために、当然のことながら、部落外の者からも相談を受けている。その場合には、コーディネーターが相談者のことをほとんど知らないという現実から出発するが、これについてもメンタル面での支援が有効であり、信頼関係を築きながらサポートが重要であった。
しかし、このように重要な役割を果たすコーディネーターの労働条件は、非常に深刻なものであり、改善に向けての課題が複数見出された。