調査研究

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2005.04.05
部会・研究会活動 <若年未就労者問題(小中高のキャリア教育/労働市場問題)>
 
若年未就労者問題
(小中高のキャリア教育/労働市場問題)
社会的養護のもとにいる子ども・若者の背景

長瀬 正子(大阪府立大学大学院)

  「社会的養護」とは、「親の死亡や行方不明、離婚、長期入院、貧困、そして遺棄や養育拒否、虐待・ネグレクトなど、保護者の身体的、経済的、社会的、心理的要因による児童の養育環境の破綻や児童本人の心身状況から保護者による家庭での養育に限界をきたすなど、保護者・児童の一方または双方の理由により、生来の家族の養育ではなく、施設、里親により養育を行うこと」である。日本では里親制度が十分発達しておらず、多くの子どもたちが児童養護施設などの施設で生活することになる。

  児童養護施設とは、児童福祉法第41条に規定される「乳児(2歳未満)を除いて、保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせてその自立を支援することを目的とする施設」である。親がいない場合に入所するケースが多かったが、現在は虐待が社会問題化されていることもあり、親がいても入所するケースが増えている。虐待による入所も増加している。入所施設は社会福祉法人による運営がほとんどであり、府県に1つないし2つ程度公立の施設がある。好景気時には養護児童が減少し、当時は養護施設の経営難が問題だったが、1990年代に入って虐待が社会問題化されたことにより、現在では100%を超えるほど充足率が高まっている。その他、窃盗・万引き・援助交際など、問題行動を起こした場合に移される施設として、児童自立支援施設(1997年児童福祉法改正以前は「教護院」)がある。日本では欧米のように里親を点々とすることは少ないが、児童養護施設職員と折り合いが悪かったり、親の居住地によっても措置変更として施設を変更したり、児童自立支援施設に変更されることもある。移動が都道府県をまたぐ場合、その子どもがどのような状況で生きてきたかという情報の伝達がうまくなされないこともある。

  現在の児童養護のキーワードは「権利擁護」と「自立支援」である。その背景には1994年に批准された子どもの権利条約がある。これまでの児童福祉の理念は「保護」であり、養育の対象であったが、それ以降は子どもの権利を保障し、成長発達を支援していくべきだとの認識が広まった。1990年代後半には、施設内虐待の問題や体罰が子どもの人権侵害と認知されるようになる。また、現在では児童養護施設を出た後の社会的自立支援も目指されるようになっている。

  施設で暮らす子ども・若者の(抱えさせられている)課題として、施設入所理由の認知度の低さによるアイデンティティの問題があげられる。施設入所の際には、『子どもの権利ノート』が手渡され、入所理由を問うたりすることができるはずだが、実際にはその認知率は低い状態に置かれている。また、入所中の暴力・体罰の問題もある。さらに、進路の問題は深刻である。高校進学率は上昇しつつあるものの、2002年段階で82.8%(大学進学率は約8%)と、全国平均の97.0%と比較して著しく低い状況にある。また、高校卒業後の就職についても、卒業した場合には施設を出ないといけないために、住み込み可能な就職先を探したり、アパートなどを借りる際にも保証人を頼める人がなかなかいないなどの問題がある。そのため、就職したとしても、失敗することができない、転職することができないなどの困難な状況に置かれる。

  児童養護施設出身者の自助グループも存在するが、現在施設で暮らしている子どもへの情報提供が難しいなどのさまざまな困難さのため、発展が難しい状況であることも課題である。

(内田 龍史)