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「児童養護施設の子どもと学校」研究会
2007年6月17日

兵庫県西宮市立船坂小学校、西宮市立山口幼稚園、西宮市立山口中学校の取り組み

兵庫県西宮市立船坂小学校
西宮市立山口幼稚園
西宮市立山口中学校

 第1回「児童養護施設の子どもと学校」研究会が開催され、最初に研究会趣旨の報告を中村清二(研究所)から、そしてこのテーマの重要性や思いを森実さん(大阪教育大学)から報告された。
 続いて、兵庫県西宮市立船坂小学校、西宮市立山口幼稚園、西宮市立山口中学校より具体的な実践報告がされた。

船坂小学校の取組み

 第1に、学校での施設の子ども達の現状だが、船坂小学校自体、全校47名の小規模校で、施設の子どもはその約7割を越している。多くの施設の子どもは、被虐待経験があり、そのため心理面での不安定さや対人関係作りでの弱さがある。また、一斉授業(集団行動)を前提とした学校の学習活動に参加しにくい面があり、教員に1対1の関係を求める思いが強い。こうしたことを十分踏まえて、学校での安心感、自尊感情の育みを重視している。

 第2に、具体的な取組みを、1.学力保障、2.生徒指導・進路指導・人権教育、3.校内連携・研修、の3点について触れたい。学力保障では、施設の子どもの個人カルテとそれに基づく個別の指導計画を作成、複数指導の実施(1・2・3年:算数、3・4年:体育、5年:理科)、放課後の学力補充、等に取組んでいる。

 生徒指導等の取組みでは、個人カルテをもとに個別指導を重視する一方、学級担任と施設職員との意思疎通を深めるため「連絡ノート」を活用、また地域から借り受けた農園での活動や焼き芋大会、プールでの釣り大会、そうめん流し大会、PTA主催のサマーキャンプ等を通じた生活体験・社会体験の育み、全校での時期を集中しての人権作文の取組み、1年生からのクラブ活動、等がある。

 校内連携・研修では、児童生徒支援加配が配置され、教員間で「子どもを語る会」(毎週月水金は授業時間の間に、月は放課後)、授業改善を主目的とした研究全体会(毎週火曜日)、教育委員会も参加した配慮を要する子どもの打合せ会(6・12月)、精神科医が参加した「コンサルテーション」(6・2月)等を実施して、教員全体で取組めるようにしている。

山口幼稚園の取組み

 2002年の兵庫県教研集会での山口中学校の実践報告もあって、2004年度から施設の子どもが5歳児として通い始めたが、施設と園はかなり離れているので、昨年までは市の予算で、今年からは施設の予算でタクシーで送迎をしている。精神面での不安定さが様々な形で現れてくるがスキンシップを重視すると共に、笑顔をカメラで撮り、それを本人に見せ自身の良さを感じられる機会を作ったり、施設の子どもの良さの面に気付く子ども同士の関係作りを大事にしている。また施設の子どもだけでなく最近の幼児全体の傾向として言語力の弱さを感じるので、絵本の読み聞かせを丁寧にし、施設の先生の参加も始まりだしている。年度末の2月の生活(作品)発表会は大事な行事として取組むと共に、施設にも協力をいただき始めている。特に幼児なので、子どもの健康状況については施設との連携・情報交換に留意している。夏休み、施設訪問をしたが、子どもの反応はとても大きく、子どもをしっかり受け止めていくことの大切さを改めて感じた。

山口中学校の取組み

 本格的な取組みを始めてから7年目を迎えているが、全校約550名の規模(各学年5クラス)で、施設からの生徒は約20名ほどで、小学校と比べて少数派となり、その落差は大きい。主な取組みとして、1.関係機関との連携、2.心のケア、3.進路保障、4.人権学習、5.職員研修、の5点が報告された。

 関係機関との連携では、第1に、施設との懇談会を学年ごとに全教員参加で、1学期は生育暦・支援計画、2・3学期は休暇中の生活を中心に、各学期始め(年3回)に行なう。第2に、各学年担当者と施設との連絡会を6・8・10・11・12月に持つ。第3に、4者懇談会(幼・小・中・教育委員会)、6者懇談会(幼・小・中・施設・教育委員会・子どもセンター)がある。第4に、小・中・施設の担当者連絡会がある。

 心のケアの取組みとしては、第1に、教育相談を施設・学校・学校カウンセラーが連携を取り実施し、第2に、夏休み中の2泊3日のサマーキャンプ、第3に、長期休業中をはじめ随時施設を訪問している。

 進路保障の取組みは、施設・子どもセンター・保護者と連携して進めている。第1に、毎週水・金、施設の自習室で学習会を開き生徒は自主参加、教員はボランティアで参加し、施設の先生も参加し、学力保障に努めている。第2に、進路懇談会を2年生の3学期末と早期に実施し、生徒に将来への思いを作文を書かせるとともに、進学や就職あるいは親元へ帰る場合の相談をしている。また、3年の2学期には、奨学金の説明を行なう。第3に、「3年生を送る会」を施設の生徒1・2年生主催で行ない、3年生の決意表明を行なったりしている。第4に、進路追跡調査を施設の生徒は3年間(他の生徒は1年間)、実施している。

 人権学習は、道徳の時間を使い、1年1学期に「善照学園から学ぶ」として、施設の卒業生の手紙を提供いただきそれを活用して施設学習を行なう。実施前には、施設の先生との学習会や生徒との話し合いを持ち、事後も話合いをしている。

 職員研修会は、1学期に校内研修会を開き、施設への理解やこれまでの教育実践への理解を深めている。

 さらに、こうした取組みを進めらた背景の1つに、西宮市教組が市への働きかけ等を支援してくれたこと、さらには県教組のさまざまな支援などがあることが報告された。

質疑応答

 2004年度から通園が始まった背景、大学進学者の実態、施設等への地域住民の反応、施設学習に対する施設の子ども等の反応や指導、学校や施設の中での取組みの広がりをどうして作っていけるか、クラブ活動や地域のスポーツ活動への参加の際の経済的・人的負担の問題、等が質問された。

 最後に、森実さんの方から研究会での個人情報等の取扱い等について提案があり、1.報告内容の文字化は報告者の了解を得ること、2.研究会参加者の録音は控えること、等が確認された。

(文責・中村清二)