調査研究

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07.10.26
部会・研究会活動 < 児童養護施設経験者に関する調査研究事業>
 
「児童養護施設の子どもと学校」研究会
2007年8月19日

1.「島本町立第二中学校、第二小学校、児童養護施設・遥学園、児童心理療育施設「ひびき」の取り組み」(仮)

島本町立第二中学校、第二小学校
児童養護施設・遥学園
児童心理療育施設「ひびき」

 大阪府島本町立第二中学校区の関係者5名の方より報告を受けた。最初に、阪野学さん(児童養護施設 遙学園)から報告をいただいた。遙学園は、1931年、キリスト教精神に基づき大阪市港区の水上生活者・湾岸労働者の子弟を対象に創設された(社福)大阪水上隣保館が経営主体で、現在158名(かつては約202名)の子どもが生活をしている。大きな特徴としては、2005年に立て替えられた児童棟は、遙学園、情緒障害児短期治療施設「ひびき」、乳児院「大阪水上隣保館乳児院」が合築されたことである。遙学園では、職員が住み込んでいた従来の小舎制から、中高生が中心の大舎制と未就学児が中心の6ホーム、そして地域小規模児童養護施設に変え、子どものニーズに応じた多様な生活形態が提供できるようにしている。そして、野球をはじめ様々なクラブ活動、心理的ケアのための「ひびき」との連携・協力、法人の付属診療所のバックアップによる医療ケアの充実等も特徴的な取組みである。しかし、近年、虐待により入所して来る子どもや軽度発達障害等障害を持つ子どもが増え、「心の傷」が大きく、大人との愛着関係の再形成や信頼関係の再構築に大変な困難をもたらしている。結果として、施設職員がバーンアウトしてしまう場合や子ども同士が傷つけあったり、さらには施設の子ども達が通う学校でのさまざまな課題(「朝日新聞」2007年6月19日-7月13日連載記事参照)があり、対応に苦慮する面もある。

 続いて、岸本泰幸さん(児童心理療育施設「ひびき」)より報告をいただいた。法的な名称は情緒障害児短期治療施設だが、「ひびき」では現在47名の子どもが男女各2ホームで生活している。子ども達の7割は被虐待経験者であり、5割は障害を持っていることもあり、1対1のきめ細かな丁寧な対応が重要で、国基準以上のケアワーカーの配置やより専門的なケアのためにセラピスト、医師、看護師等を配置している。子ども達の26名は施設内学校・分教室(小学生3クラス、中学生2クラスで、教員は8名)に通っている。児童養護施設との違いは、2003年2月の厚生労働省調査結果にも現れているが、10-15歳の年齢層が多く、在所期間も児童養護施設4.4年に比べ1.7年と短い等さまざまな違いがある。

 次に島本町立第二小学校の甘利治さんより報告をいただいた。第二小学校は児童数約560名で、施設より来ている児童は約80名(約14%)で、養護学級在籍児童数28名の内約54%を占めている。虐待等の経験から来る他者への不信感・対人関係の未成熟さ、入所までの養育環境等が影響し、学習指導や生活指導でさまざまな課題が存在しており、学校としては、1人ひとりの心理的な安定と自尊感情の高まりを重要な基礎的課題と位置づけている。具体的な取組みとしては、1.新転任者の施設見学会や学習会、2.校内研修でクラスの集団づくりと施設児童の様子を報告し教職員全員が施設児童の実態の共有化、3.学力保障では算数に重点をおき「算数クリニック」を実施、4.施設学習は、1年:落ち葉拾い、2年:焼き芋作り、3年:校区めぐり、4年:町内めぐり、5年:「卒園生(施設児童)の作文」、6年:子どもの権利条約、と関連づけて実施、5.体制的には各学年から代表を出し毎月委員会活動を実施、⑥連携としては学校の連携担当職員と担任・各学年代表、施設の連携担当等の密な連携、を実施している。

 続いて「ひびき」の分教室「みゅーず」担当の池田恭子さん(島本町立第二小学校)から報告を受けた。分教室「みゅーず」では、4名の小学校教員が担当し、基本は5時間授業で、1・2時間目に国・算の座学的教科をし3時間目以降は活動を伴う他の教科を持ってきている、内容によっては中学生と一緒に授業を行うなど縦のつながり作りをしている、新しい子どもの受け入れの際はケース会議を施設と一緒にしている、子どもの自信や信頼関係それらを通じた安心感作りを、クラスの集団づくり・ルール作り・個別の子どもを誉めてそれが形に見えるようにする工夫、等を通じて取組んでいる。分教室「みゅーず」に来るまで1年以上も学校に通えていない子どももいるが、分教室「みゅーず」には全員毎日登校してきている。その中で、本校に通う子どもたちもでてきている。「ひびき」との引継ぎを重視し、登校直後と放課後は毎日行い、放課後には1時間余り行っている。

 続いて島本町立第二中学校の久島光弘さんより報告を受けた。第二中学校は生徒数約440名で、施設より通う生徒は約40名、養護学級在籍児童数16名の内約40%を占めている。学習面では、早い段階からの中学卒業後の「進路」を意識した取組み、生活面では、近年校内での問題行動や、家出・エスケープ・不登校気味な生徒等学校に来ない生徒が増えている事への丁寧な対話を大事にしている。日常の取組みとしては、1.遙学園や「ひびき」の生徒の学力実態と個別課題の把握、2.定期テスト前の施設での学習会、3.「連絡用紙」を通じた施設児童の欠席・遅刻・早退などの実態把握と教職員の共通認識化、4.遙学園や「ひびき」との連携として、定期的な情報交換、桜バザー・お月見会・運動会・クリスマス会・卒園式等の施設行事に教職員の積極的参加、学年別に年度当初の交流会(3年生は2学期)、等を実施している。分教室「みゅーず」では、4名の中学校教員で9教科を担当し、年齢の高さもあるので1対1に留意している。また、小学生もそうであったが、日常活動に関わっての詳細な「ルール」作りが必要で、これは縛るためのものではなく集団生活を営んでいく上で気付いていく必要があるルールを意識化しやすいようにしていくためである。昨年は2クラスを1クラス(9名)にし生徒に効果的な対応ができるようにした。また、1・2年生の時は不登校気味だった3年生の生徒が頑張って公立高校へ入学できたことは大きな意味があった。

 この後の質疑では、1.情緒障害児短期治療施設「ひびき」の設備状況(設備関係は社会福祉法人が100%負担のため各施設で設備の違いがある)、2.「ひびき」の分教室のルールの必要性、3.施設児童への地域社会の反応、4.中学の追指導の実態、等について意見交換された。

(文責・中村清二)

2.「児童養護施設内に設置された公立小中学校の現状」

金尾誠可(広島市立似島学園小学校)

 第2報告として、金尾誠可さん(広島市立似島学園小学校)より「児童養護施設内に設置された公立小中学校の現状」が以下の概要で報告された。自身の体験として、担任をしていたクラスが学級崩壊し行き詰まった自分を救ってくれたのが同和教育に携わっていたメンバーであり、同和教育の持つ意味を強く感じた。そのことが児童養護施設の子ども達と関わってきた原点にある。広島市立似島学園小中学校は、1周およそ10キロメートルの似島にある児童養護施設・似島学園(定員114名)の中にある公立小中学校で、現在,小学校は47名、中学校は35名の規模である。子どもたちは県内約30校から来園している。県内には11の児童養護施設があるが、施設相互・学校どうしの横の連携の場がないのが現実である。

 施設内に設置された学校の長所としては、学校や社会になじめなかった子どもたちにとって、小集団で安心できる面がある反面、狭い世界の中で「内弁慶」「すねやすい」「他人のせいにしやすい」といった弱さを克服しにくいという面もある。そこで学校では、「やり切る」事を通して自信をつけることを重視し、7月遠泳、10月運動会とそれに向けた1ヶ月に及ぶグランド整備、12月駅伝大会などの体育的行事を大切にしている。また、放課後のクラブ活動としてテニスクラブが盛んで、県大会で優勝したこともある。

 今後の課題として、1.「いつかは自宅に帰れる」=「今は仮の生活」という思いがもたらす現実逃避の克服、2.学習する意味と学力保障、3.島の施設からしか通えないという制約の中での進路保障、などが挙げられた。質疑では、1.進路実態、2.送り出している学校との連携、3.特別支援学級在籍の割合の高さ、4.進路追跡に対する児童相談所の責務、5.施設入所後の成功体験の重要性、などが意見交換された。

(文責・中村清二)