近年、児童虐待の実態は年々深刻化し、児童相談所に寄せられた相談件数だけでも年間約4万件近いものとなっています。大阪府においても状況は同様で、2008年2月には岬町で虐待による死亡事件が発覚しマスコミでも大きく報道されたところです。そしてこの社会的背景には、戦後、家庭が担ってきた教育や福祉の機能が大きく低下してきているにもかかわらず、社会的養護の機能がそれに十分対応できていない今日の社会状況があります。
こうした中、貧困・病気・虐待などの理由で親から分離され児童養護施設に措置された子ども達の課題への関心も次第に高まってきています。2007年6月13日から21回にも及ぶ「朝日新聞」「ルポ虐待 児童養護施設」はその象徴的な取組みであったといえます。
しかし、2008年2月時点で全国で施設数563(大阪府内26、大阪市内10)、子ども数約3万1千人(原則18歳まで)という「少数性」と「親の自己責任論」などもあり、関心や認識そして取り組みは極めて弱いと言わざるを得ません。
2007年度、「児童養護施設経験者の権利保障と人権啓発の課題」をテーマに、大阪府人権教育啓発事業推進協議会(大阪府・大阪市・堺市より構成)より「児童養護施設経験者に関する調査研究事業」を受託しました。そして13名に及ぶ施設経験者の方々の聞き取り調査と全国の学校を中心とした教育実践報告会を行ってきました。その中で、当事者でありながらもこれまで十分に意見表明できなかった施設経験者の方々から、家庭・学校・施設・就職・差別など多岐にわたるお話を伺うことができました。また、そうした声に応えようと、児童養護施設と連携を図りながら子どもたちの権利保障に向けて取り組まれている学校教育実践を報告いただきました。いずれも貴重な内容であり、改めて厚くお礼申し上げる次第です。
本報告書では、そうした体験や学校実践の特徴をまとめるとともに、それに基づく施設経験者の権利保障の課題をまとめていきました。今後も、本報告書を出発点にさらなる取組みを深めていきたいと考えております。 |