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20003.08.11
<部落解放・人権教育啓発プロジェクト>
 
部落解放・人権教育啓発プロジェクト
2003年7月14日
「ユネスコ反人種主義教育国際会議」の意義と課題

(報告) ジェファーソン・R・プランテリア(ヒューライツおおさか)

「ユネスコ反人種主義教育国際会議」(6月4、5日、於:大阪)は、2001年に南アフリカで開催されたダーバン会議(国連反人種主義・差別撤廃世界会議)におけるユネスコへの勧告を受けて開催されたものである。本会議で報告された「反人種主義・反差別に関する戦略案」では、次のような3つの「目標」と6つの「優先課題」が提起された。

<目標>

  1. 人種主義と闘うための啓発、研究、教育、コミュニケーションなどの能力を高めてユネスコの行動を再構築していく。

  2. 国連システムにおける他の機関との連携を強める。

  3. 市民社会との連携を強化する。

<優先事項>

  1. 人種主義や外国人排斥に関する科学的調査を深めていく。

  2. 1960年の教育差別禁止条約の再活性化および人種差別撤廃条約の実施を監視するとともに、外国人排斥に対する新たな国際文書の整備に向けた研究に取り組む。

  3. とりわけ、人種主義に関する教科書の作成や歴史教科書の改訂のための基準やガイドラインを設定するなど教育的アプローチを図る。

  4. 政策立案者、アーティスト、若者、スポーツ選手、ジャーナリスト、科学者、教員、宗教者などを巻き込んでいく。

  5. 多民族、多文化社会における多様性を尊重する民主的市民社会を構築していく。

  6. インターネットに関わる倫理憲章を策定するなど、サイバースペースでの差別扇動と闘うこと。

また、アジア・太平洋地域に対して「勧告された活動」として、子どもや女性の人身売買の問題や新たに台頭する反イスラム主義の問題に取り組むことが勧告された。その一方で、カーストによるダリッド差別がこの地域の重要な人種主義の問題であるにもかかわらず、取り上げられていない点について、報告者より指摘がなされた。

続いて「一般的な活動」として提起された中から、いくつかの項目の紹介があったが、紙数の関係上ここでは省略する。

以上、「戦略案」の概略の報告の後、報告者より次のようなコメントがなされた。

  • 私たちの地域(アジア・太平洋地域)には、こうした分野での様々な経験があるが、十分に認識されてはいない。この「人権教育のための国連10年」(以下、国連10年)と新しいユネスコの戦略を地域レベルでどのようにつなげていくのか、どのように人種主義と向き合うのか、この地域でおこなわれてきたものを情報として提供していく必要がある。

  • その一方で、ユネスコのほうは特に研究として非常に優れた資源を蓄積している。例えば、平等に関して、全ての人が生物学的になぜ平等なのかということを立証するような調査が行われている。しかし残念ながら、実際に現場で人権教育と携わっている人とこうした重要な研究の成果が共有されていないことが問題だ。

  • ユネスコはほぼすべての国でユネスコ国内委員会を持っており、すばらしいネットワークを持っている。しかし、すべての国内委員会が必ずしも人権教育のことを取り上げているのかというとそうではない。アジア・太平洋地域では、韓国、タイ、フィリピンの3つぐらいの国内委員会しか人権教育に取り組んでいない。

  • この「戦略案」において、ユネスコがその提携校とのネットワーク、パートナーシップをさらに拡大・強化すると言っているが、提携校が人種主義を具体的に意識して、人権や差別について明確な問題としてとらえてくれるように期待している。

  • 日本の国内委員会にも、新「戦略」が出たら(今年10月のユネスコ総会で提案される予定)、そのもとで、もっと人権に関して活発になってもらいたいと考えている。

  • 「国連人権教育の10年」との関連で言えば、この「戦略案」は、単に人種主義、差別だけではなくて、まさに人権教育という幅広い視点で取り上げても、私たちに大きな示唆を与えてくれている。教科書の改訂や新しい教材の開発、新しい教育方法の編み出しについても述べているし、ネットワークを強化し広げるという点においても、非常に示唆に富んだものが含まれている。

  • ユネスコのこの「戦略案」も、国連の他の人権教育に関する戦略と補完し合うものになってもらわなければならない。また、同じ国連人権高等弁務官事務所の「反人種主義ユニット」と「人権教育グループ」との間のギャップをなくし、補完性を高めることが必要である。

  • この新しい「戦略案」が出るというのは、同時に新たに第2次「国連10年」をおこなううえでも、これが最終的に正式な文書になったときには、おおいに活用できるであろう。

(文責:事務局)