調査研究

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2004.08.13
<部落解放・人権教育啓発プロジェクト>
 
部落解放・人権教育啓発プロジェクト
2004年7月13日
『平成15年度版人権教育・啓発白書』について

阿久澤 麻理子(兵庫県立大学)

  報告にあった「白書」の詳細な検討はここでは省略せざるを得ない。以下、「白書」全体を通じての評価と課題について阿久沢さんのコメントを中心に掲載する。

  基本的に昨年度と同じ文章が多い点が気になる。白書の性質からして行政分野の現状と施策の進捗状況を書いていくものだが、同時に統計分析、調査研究をおこない、今後の課題を示すものである。ところが、今回、意識調査はおこなってはいるが、各分野の実態というのは基本的にわからないまま書かれているのがこの白書である。

  そのため、「あれもやった、これもやった」という施策の寄せ集めになってしまい、非常に総花的なものになっている。一般に、何が人権教育として必要かということは、課題を分析して、取るべき人権施策を決めるわけだが、その実態分析がない。どんな人権侵害が起きているのかという実態の把握がなく、「あれもこれもいい、人権だ」としてしまっているのではないか。

  日本は、人権教育の制度化については非常に進んでいると言える。しかし、今回、「白書」を読んで思うのは、人権とは生活課題のすべてに関わるあらゆる要求課題が入ってくる非常に包括的な領域であるということ。「人権」「人権教育」という名称の付く法律があり、施策が実施されているということだけでは安心できない。つまり、非常に広い領域であるがゆえに、そこで何が行われていてどんな効果があり、そのことによって実際に課題が解決しているのかどうかということをきちっとモニターする役割を誰が果たしていくのかということが今日的な課題である。

  人権委員会がある国ではいいが、日本はそれがまだないわけだから、これは市民活動や人権運動がモニターする活動をきちっと組んでいかなければならない。

  法律に基づいて白書が出ているわけだが、白書が出たからいいわけではなく、白書の中味を読んで何が問題なのかをきちっと言っていく必要がある。これがないと国連に報告された場合、日本は法律もあるし、実にたくさんのプログラムをやっているで終わってしまう。

  「白書」では、いろんな人権課題はあげられているのだが、国際社会の中で繰り返し確認されている人権教育の原則としての「権利に根ざしたアプローチ」というのが欠けている。○○問題についてやりましたというだけで、いろんな権利侵害に遭遇したときに、自分や他の人をしっかり守っていくためにも、自分自身の権利が何かということをまず、知ることが大切である。こういう権利に根ざしたアプローチが少しでも見えるのは「女性」に関する項目ぐらいで、あとは、こういう当事者を中心に据えて主体を形成し、権利を中心に見ていくアプローチが含まれていない。

  教育や啓発が制度化され、その文言が法律やシステムの中に入るだけではだめであって、その中身を、何をやっているのかということを意識して見て行く市民集団の形成が必要である。(文責・事務局)