調査研究

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2005.04.05
<部落解放・人権教育啓発プロジェクト>
 
部落解放・人権教育啓発プロジェクト
2005年3月24日
教育基本法改正を考える

大内 裕和(松山大学教員)

  本プロジェクトの学習会に先立っておこなわれた国際人権規約連続学習会における講演を補足する形でまず大内さんから問題提起を受け、続けて意見交流をおこなった。大内さんのお話の概要は以下の通り。

  教育基本法「改正」への批判を行おうとするとき、二つの困難な課題に直面する。一つは、すでに教育基本法「改正」が教育現場で次々と先取りされていること(例えば、2003年10月23日に東京都教委が出した『入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施について』など)。もう一点、さらに深刻なのは、現在教育に関わる多くの人々にとって、教育基本法の中心理念である<教育の権利>というものを意識することが困難になっているということである。その歴史的な背景には、1950年代からの政府の教育政策の転換による教育内容への中央集権的統制強化がある。

  一方、戦後、高校・大学への進学率は急上昇したが、<教育の権利>獲得と結びつかず、逆にそれは強固な学歴社会を生み出した。「進学はできる」というレベルでの「権利の平等化」は進んだが、教育の「権利の実質化」という面ではとても不徹底に終わったということだ。

  <教育の権利>を奪われ、「受動的」であることに慣らされたことによって、多くの人びとは<教育の権利>を自らが持っているということを想像することができなくなってしまっている。権利はそれを行使することによってしか守れないとよくいわれるが、「権利が存在する」ということを意識することすらできない状況が生まれているといえるだろう。

  教育基本法「改正」はその目的を国益=「国家戦略としての教育」としていることからもわかるように、「教育は国家のものである」という考えを明確に打ち出し、愛国心=「郷土や国を愛する心」や「公共の精神」を教育によって定着させることを目指している。

  今必要とされているのは、「国益」に教育を従属させる教育基本法「改正」に反対する実践を通じて、これまで奪われてきた<教育の権利>を我々が自覚化することだ。教育基本法が国家権力に対して強い拘束力を持つ法である事、個人の尊厳や機会の平等、教育行政に対する自立性が奪われている教育現場の現状に対して、有効な批判をおこなう武器となりうることなどが切実な意味を持ってくる。それは現行の教育基本法を新たに「獲得する」実践であるといった方が適切である。

  それは現場の教職員、子ども、親、地域住民が、これまで奪われてきた<教育の権利>を自覚し、日常の教育における様々な場面で、その権利を行使することを意味するだろう。

  その後の意見交換では、昨年6月に「与党教育基本法改正に関する検討会」より出された「中間報告」に議論が集中した。与党「中間報告」では、第3条「教育の機会均等」規定において「社会的身分、経済的地位または門地」による差別禁止という文言が削除されたり、第10条「教育は不当な支配に服することなく…」が「教育行政は不当な支配に…」に変更されるなどの法の性格を一変させてしまうようなきわめて重大な問題点が多々、含まれていることに出席者一同、あらためて危機感を強くした。

  元来、憲法と教育基本法は不離一体のものと考えられ、教育基本法だけの「改正」を画策すること自体が大きな問題である。これらの動向は明らかに憲法「改正」への一里塚であり、その反動性を広く訴えていくことの必要性を参加者一同で確認したところである。

(文責・事務局)