今回の人権教育啓発プロジェクトの学習会では、大阪大学の平沢安政さんを講師に迎え、「人権教育世界プログラムについて〜いくつかの問題提起〜」というタイトルで学習会を持ちました。
「人権教育のための国連10年」のとりくみやその行動計画によって、人権教育は、国内外を問わず大きく推進されました。平沢さんは、その成果を<1>差別をしない・させない教育(本来的な同和教育実践)のひろがり、<2>参加体験型学習のひろがり、<3>自尊感情、エンパワメント(個)、多文化共生(個と社会関係)、社会参加、市民性といったキーワードによる人権への間口のひろがり、<4>「知識・スキル・態度」といった尺度の定着、<5>学校体制、カリキュラム編成、地域教育コミュニティによる組織的・体系的な人権教育の在り方の定着、<6>国際理解教育、環境教育、多文化共生教育といった国際的な人権教育との連携と、端的にまとめてくれました。
しかしながら、現実には、人権状況が悪化し、子どもたちの命や安全さえ脅かされるような一面もあります。そんな状況に対峙すべき人権教育も、同和教育の培ってきたエッセンスが薄れるのではという懸念も否定できません。
こうした人権教育や子どもたちを巡る状況に対して、人権教育の一層の推進をめざす「人権教育のための世界プログラム」が誕生しましたが、国連は、世界人権宣言や子どもの権利条約など、脈々と人権教育を進化(深化)させてきた経緯があります。今回の学習会では、人権教育の進化過程にこの「世界プログラム」をどう位置づけ、活用していくのかが中心テーマとなりました。
今回の「世界プログラム」では、これまで私たちが進めてきた人権教育活動を9つの原則で整理し、今後のとりくみの尺度を示されています。
- 人権の相互依存性、付加分性、普遍性
- 違いの尊重と理解、反差別
- 貧困や紛争と人権を結合する視点
- 地域社会や個人など、当事者の人権上のニーズ把握とエンパワメント
- 異なった文化背景や歴史をふまえる視点
- 人権文書や機構についての知識、活用するためのスキル
- 参加型教育手法の活用
- 人権的な教授、学習環境といった「人権をとおした教育」の強調
- 日常に根ざしながら、現実の変革につながるような参加の力の育成
従来、人権教育の構成要素として、<1>知識およびスキル(skill)、<2>価値観、態度および振る舞い(behavior)、<3>行動(action)といった枠組みが言われてきましたが、とりわけ初等、中等教育における人権教育の内実が、日常生活の隅々まで人権を大切にし、人権を根付かせる文化を創造する大きな要素になるということ、そして、何よりもその「なかみ」が問われていると感じました。
現在進行中の文科省による「人権教育の第一次とりまとめ」についても、子どもたちが身近な人間関係から考えるローカルな視点はもちろん、民主的な社会、世界を創るためのグローバルな視点が必要です。私たちは、これからもめざす子どもの姿を明確にしながら具体的で有効な人権教育の実践を積み上げていくために、教育現場のニーズと課題を探りながら研究を深めていくことが確認されました。