調査研究

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2005.12.14
<部落解放・人権教育啓発プロジェクト>
 
部落解放・人権教育啓発プロジェクト
2005年11月16日
人権教育の指導方法等の在り方について[第二次とりまとめ]

平沢安政(大阪大学大学院人間科学研究科教授)
友永健三(部落解放・人権研究所所長)
山本弘(大阪府立学校人権教育研究会)

 「人権教育の指導方法等の在り方について〔第二次とりまとめ〕」について、三名の方から報告をいただいた後、討議を行った。

平沢 安政さん

この〔第二次とりまとめ〕は、以下の点において評価できる。

1)わかりやすく具体的に書かれている。2)人権教育の概念的構造がしっかりしている。3)組織的、体系的な取り組みのあり方が示されている。4)教科、総合的な学習、道徳、特別活動、および生徒指導における指導事例が具体的に紹介されている。5)人権感覚育成のための方法が示されている。6)法教育や人権の実践的知識の必要性を指摘している。 7)発達段階の考慮がなされている。8)「正義が貫かれるような学校・学級」「人権教育はすべての基本」という理念や原則が示されている。9)効果のある学校や教育コミュニティに言及している。10)人権教育のための国連10年や世界計画(プログラム)にも言及している。

ただし、<1>「他の人」の定義が身近に限定されており、広がりに欠け、グローバルな人権問題や持続可能な開発の10年に関わる視点がないこと、<2>教科のとりくみに偏りがある(音楽、理科、体育などは登場しない)こと、<3>中立性・プライバシーの確保を強調していること、が課題と言える。

友永 健三さん

 文部科学省のとりまとめとして出されたこの〔第二次とりまとめ〕は、基本的には評価できる内容である。しかし、以下の問題点をパブリック・コメントとして提起したい。

1)「人権教育のための世界計画」についての言及がなされているが、その意義、積極的な活用性についての言及がない。2)人権教育に必要とされる資質や能力は、<1>知識的側面、<2>価値・態度的側面、<3>技術的側面の3つからなっていると記されているが、この<1>に「自らが差別や人権侵害を受けた場合、どのようにしてそれが差別や人権侵害であると指摘し、どこに相談すればよいのか」等を、<3>に「差別や人権侵害であると指摘する技能、これらを窓口へ相談する技能」等を、盛り込むことが必要である。3)人権感覚を育てていく取組が示されているが、あまりにも抽象的であり具体的な方策を指摘する必要がある。3)「他人を思いやる心」が重要な資質や能力としてあげられている。しかし、それが「思いやる人」「思いやられる人」という上下関係を前提とするものであると考えたとき、人権教育の視点からすれば、「他の人の尊厳を理解する」というものでなければならない。4)マイノリティの人権に関わっている民間団体の積極的な関与を求めていく必要があることを明記すべきである。5)日本国憲法や教育基本法、日本が締結した人権諸条約を根拠として主体的に人権教育を推進していくことを強調し、差別や人権侵害の被害者の人権を守るための自発的な民間団体との連携を保つことを、「教育の中立性」ということで排除してはならない。

山本 弘さん

 この〔第二次とりまとめ〕は、人権教育の重要性を以下の4点について具体的に示しており、各校が人権教育を推進するための指針となりうる。<1>学校としての組織的な取組が重要であること。<2>学校・学級のあり方そのものが持つ重要性に言及していること。<3>家庭・地域との連携や校種間の連携が重要であること。<4>知的理解だけでなく、「人権感覚」が重要であること。

 ただ、1)「人権感覚」の育成が具体的に何をすれば身につくのかが、充分には書かれていない。2)学校で人権教育に関する系統的なプログラムを実施するための「枠組み」が示されていない。3)教員の資質および人権意識や力量を高める方策が示されていない。4)高校現場の実態が十分に把握され、反映されているとは言えない。

 この後、討議の中でも、「『人権感覚』は、人権ホームルームや総合学習ではなく、むしろ日々の教科授業の中でその基礎が形づくられていく」という意見や「この〔第二次とりまとめ〕は、小・中学校の取組にはかなり具体的に言及しているが、高校の取組が充分には示されていない」等の意見が出たが、「不充分点・課題を指摘することは大切だが、内容的には充分評価できるものであり、むしろこの『人権教育の指導方法等の在り方について』を現場でどう生かしていけるのかが、われわれに問われている」ということを確認した。

(文責:桝谷 佳彦)