法(関連)教育とは法学教育ではなく、法律の専門家でない人が、法や司法制度の基礎になっている価値を理解することを重視し、法的なものの考え方を子どもたちに身につけさせ、法的な参加を促進する教育である。法(関連)教育には大きく二つの柱がある。一つは「法を知る」という法認識形成を重視する側面であり、教科では社会科が主に扱っている。もう一つは「法を使う」という市民性形成を重視する側面であり、道徳や総合的な学習の時間、学級活動で主に取り組まれている。
一つめの柱の「法を知る」側面を重視する法(関連)教育の構造として、<1>法の原理や原則を知るもの、<2>法律・条例・三権など法制度を知るもの、<3>法機能として法の運用の実態を知るものがあり、それに加えて<4>他国や自国の過去の法制度と現在の自国の法制度を比較、吟味、検討するもの、そして<5>他国の法制度と自国の過去の法制度に基づき自国の現在の問題視される法制度を批判的に検討するもの、以上の五つの構造がある。日本では<2>や<3>は部分的に小・中学校で公民などの授業ではなされているものの、<1>の最も基礎的・基本的な法の価値の学習や<4>や<5>法制度の比較検討などはほとんどされていないのが現状である。
次に「法を使う」側面を重視する法(関連)教育の構造については、<1>法システムに参加する側面、<2>社会に参加する側面、<3>紛争を解決する側面がある。三つの側面は学級、学校、地域、国レヴェルにその問題領域を設定し、小・中・高とそれぞれの発達段階に応じて実施することができる。報告では高校で実践された紛争解決学習の事例が紹介され、参加者で実際の授業を体験した。その中で紛争を解決するに当たっての法的な考え方「知的ツール」を使った観点を理解し、その「知的ツール」を用いての合理的意思決定及び合意形成のプロセスについて学んだ。
報告後の質疑応答では、主に人権教育と法(関連)教育の関係について議論がされた。その中では基本的人権と憲法の関係、憲法における立憲主義の原則について、人権教育におけるマイノリティ尊重の観点と法(関連)教育における合意形成の課題、人権の普遍性と文化の固有性の関係などが議論された。法(関連)教育については日本においてその研究が始まってわずか10年余りである。「公正」の重要性が一人ひとりに定着し、差別や抑圧のない人権が尊重された社会を形成するためにも、人権教育と法(関連)教育の協働の必要性を学ぶことができた研究会であった。