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2007.08.30
<部落解放・人権教育啓発プロジェクト>
 
部落解放・人権教育啓発プロジェクト
2007年7月5日
日教組人権教育指針(案)について

高橋睦子(日本教職員組合副委員長)

 日教組が91年に人権教育指針を作成してから15年が経過し、今年人権教育指針素案という形でその改訂の中間報告を行うことになった。

 まず指針に関する経過についてだが、日教組は90年6月の第72回日教組定期大会において、組織内に「人権教育推進委員会」を設置し、「人権教育指針」を策定することを運動方針として決定した。それ以前は、人権教育、とりわけ同和教育、障害児教育、政治的闘争等をめぐって、組織内で意見が激しく対立する状況があった。しかし、考え方の違う人々が日教組を出ていき全教という組織を結成した後、日教組が人権教育を教育の基本とする位置づけを打ち出したのが、この90年だったのである。以来、我々教職員が社会構造の中でどの位置にあるのか、つまり自らの立場性の問い直しも含む大論議が行なわれ、91年1月に人権教育指針(案)を日教組職場討議資料として作成して組織討議を行った。その後、春闘討論集会、全国教研、各単組での討議や意見集約を経て、同年3月の第120回中央委員会で「日教組人権教育指針」が承認されて現在に至っている。この指針にもとづいて、全ての単組で人権教育推進委員会の設置や計画策定を行うことにより、全ての学校で人権教育が実践できるようにするための取り組みを全国展開していった。

 しかし03年7月の第91回日教組定期大会において「見直し」を求める意見が出され、人権教育をとりまく国内外における社会情勢等の変化、新たな課題等を踏まえた人権教育指針の見直しについて論議された。それを受けて日教組は、05年7月の第93回日教組定期大会において、日教組人権教育指針について「人権教育指針素案作成委員会」を設置し、見直しを行うことを決定した。これによって05年10月から07年3月8日までに日教組人権教育指針素案作成委員会が13回開催された。委員会のメンバーは私が委員長で、副委員長に奈良教組で人権教育推進委員長の竹平さん。その他に日教組の委員や、全国の単組を東西に分けてそれぞれの代表。さらに全同教や部落解放同盟、或いは全国教研共同研究者や弁護士の方々に参加していただいた。主な議論の内容としては、まず現在の指針内容・作成された経過の確認と、見直しの方向について討議。またそれぞれの立場から見た人権教育をめぐる現状と課題や、新たに指針に盛り込むべき内容。見直しの基本的な考え方や新たな指針の構成等が議論されてきた結果、07年3月8日に人権教育指針素案作成委員会「中間報告」が出されたのである。

 次に見直しに関する論議についてだが、91年版の指針から新しい指針へ引き継ぐべき課題として以下の点が上げられる。まず91年版で確認共有してきた社会構造の中での自らへの問い直し等の基本的な認識の踏襲と、人権教育は平和・民主教育の柱であるということの再確認。教職員自身が子どもたちとともに人権意識を確立し、自他の権利を守ることの大切さを自覚することの重要性や、差別問題にかかわって教職員がどんな認識をもっているのかといった自己とのかかわりが91年当時と同様に現在も問われていること。しかし他方では人権教育の重要性が全ての教職員の課題となっていない現実があることも引き継ぐべき課題として論議された。また子どもに寄り添い、子ども・保護者・地域とのかかわりの中から差別の現実に学び、それを許さないとする姿勢、同時に社会構造的な差別の本質を見抜くとともに教育活動の課題を見出し、教育実践を積み重ねていくこと、教職員の協力・協働が必要であること。そして人権の確立・拡充のために民主勢力を結集し、教育条件整備をはじめ、様々な政策要求の実現にむけて当局、あらゆる諸機関へ絶えず働きかけていくこと等が引き継ぐべき課題として論議されてきた。

 一方見直す課題として、まず人権教育をめぐる国際的な潮流等といった状況と動きは15年前と大きく変わっているが、それが必ずしも反映されていない国内状況等を踏まえた人権教育の今日的課題が論議された。また格差社会という言葉に象徴されるように、子どもたちが置かれている社会状況とその背景にあるものは以前とは大きく変わっていること、それらを見直すとともに、地域や学校の状況を踏まえた教育課題の確立。さらに小泉・安倍政権の新保守主義を背景にした教育基本法・教育関連法改正の動きや教育再生会議の動き等を踏まえた、教育政策の動向と課題についての議論が行われた。そして組織状況については、以前に比べて組織率がかなり下がってしまっているために、人権教育推進委員会どころか分会すらない単組がある現状において、全ての単組で人権教育を実践するにはどうすればいいか。教職員評価制度の導入や多忙を極めることで職員が孤立化してしまい、協力・協働が難しくなった職場をめぐる状況をどうすればいいのか。公教育や子どもの人権が差別の社会的構造の中で危機にされている点や、これまで人権教育が行なわれてきたが外へ発信する力が非常に弱かった点等が見直す課題として論議された。

 以上のような論議を経て作成された日教組人権教育指針(案)は大きく分けて1.人権教育をめぐる状況と課題、2.人権教育指針(案)、3.人権教育指針を教育実践に活かすために、4.人権教育にかかわる諸課題という構成になっている。1.の部分で全体の状況説明を行い、2.が人権教育を実践する上での指針。3.では指針を実践に活かすための解説とし、4.で特に重点的に取り組むべき個別課題として部落問題、男女平等、障害児、在日コリアンと民族的マイノリティ、アイヌ民族、子ども虐待及び児童養護施設の子どもの教育保障、ハンセン病患者への偏見・差別、HIV感染者への偏見・差別を提起している。そしてこのうち2.の部分に関して組織決定をする。それ以外の部分については流動的であったり、今後も見直しや付け加えが必要であるので組織決定は必要としていない。皆さんにも一度お読みいただき、意見をいただきたい。そういった「出会い」と「つながり」を通じて、子ども・保護者・地域とのかかわりを大切にした具体的な実践によって課題を明らかにし、全国各地で人権教育の実践を展開していきたいと思っている。

(文責:事務局)