第51回プロジェクト会合は、3月24日(月)午後4時から6時までの2時間、文科省の「人権教育の指導方法等の在り方[第3次とりまとめ]」に関する意見交換を行った。調査研究会議の座長をつとめられた福田弘先生(筑波大学教授)の報告に続き、参加者との間で活発な質疑が展開され、実り多い会合となった。以下、報告の概要を紹介する。
1.[第3次とりまとめ]の背景
2002年3月の「人権教育・啓発に関する基本計画」(以下「基本計画」)に基づいて、文科省は2003年5月に「人権教育における指導方法等に関する調査研究会議」を設置した。同会議は2004年6月に「人権教育の指導方法等について〔第1次とりまとめ〕」を、また2006年1月に〔第2次とりまとめ〕を公表したが、最終の[第3次とりまとめ]は2008年3月末に公表されることになっている。(注:その後、4月4日に公表された)
2.人権に関する知的理解について
人権に関する知的理解の在り方には多くの問題がある。人権は法的な権利であるとともに道徳的な権利でもあり、だれもが自己の尊厳と価値が尊重されることを要求して当然である。人権に関する知的理解を深化させるには、人権に関わる知識内容を構造的にとらえ、学習者の発達段階等を考慮して、効果的な指導を行うことが必要である。
3.人権感覚の育成について
人権感覚について、〔第3次とりまとめ〕は「人権の価値やその重要性に鑑み、人権が擁護され、実現されている状態を感知して、これを望ましいものと感じ、反対に、これが侵害されている状態を感知して、それを許せないとするような、価値志向的な感覚」と定義し、人権教育の究極目標を、「自分の人権を守り、他者の人権を守るための実践行動」がとれるようになることだとしている。そのような実践行動が生み出されるためには、「自分の人権を守り、他者の人権を守ろうとする意識・意欲・態度」が育つ必要がある。こうした諸要素は、「知的理解の深化」と「人権感覚」の育成とが相補的に進展するときに、学習者の内面に生まれ、育つことが期待される。
4.価値・態度・技能
自他の人権尊重に不可欠な価値や態度には、人間の尊厳・自己価値・他者の価値等を感知する感覚、自己に対する肯定的態度、自他の価値を尊重しようとする意志や態度、多様性への開かれた心と肯定的評価、などが挙げられる。また、育てられるべき諸技能としては、他人の意見を能動的に傾聴し、自らの意見を主体的に表現できるコミュニケーション技能、関連情報を収集して批判的・分析的に考察し、先入観や偏見に惑わされずに合理的判断を行う判断的技能、協力的に活動し、問題解決に建設的に取り組める社会的技能、等々が考えられる。[第3次とりまとめ]は、知的理解と人権感覚について、知識的側面、価値的・態度的側面、技能的側面との関係も含めてわかりやすい図式で示している。
こうした価値・態度及び諸技能は、単に言葉で教えられるものではなく、学習者が主体的に関与し、参加し、体験することを通して、はじめて習得される。つまり、自分で「感じ、考え、行動する」という主体的・実践的な学習が必要なのである。そこで学習者の協力的、参加的、体験的活動を基本とする学習方法・指導方法が求められる。
5.人権教育に必要な学習環境整備
人権教育の成否を決するのは、教育内容や指導方法の工夫だけではない。学校や学級という学習の場の在り方や雰囲気の質が決定的な重要性をもっている。したがって、人権教育においては、学校や学級、家庭や地域社会そのものを人権尊重が具体的に実現されている場に変えることが何よりも重要である。