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2009.02.19
<部落解放・人権教育啓発プロジェクト>
 
部落解放・人権教育啓発プロジェクト
2008年09月29日

これからの同和教育に求められているもの

田中欣和(関西大学名誉教授)

 関西大学名誉教授の田中欣和先生から、「これからの同和教育に求められているもの」というタイトルでご報告いただいた。内容は主に2つの柱から構成され、1)「人権教育の指導方法等のありかたについて〔第三次とりまとめ〕」の評価、および2)人権教育の3つの層について、であった。

 まず「第三次とりまとめ」については、自治体との交渉や管理職への説得、また一般市民や無関心層への説得に役立つ文書である一方、教育現場が過度に依存すると自主的創造力を弱めてしまうので、せいぜい「参考資料」として受け止めるべきであるとの評価が示された。またこの文書は、「人権教育の共通基礎」を耕す上で内容的に妥当なものが多く含まれているものの、これまで積み上げられてきた同和教育・人権教育の現場における課題水準に追いついているとはいえず、人権の各論に関わる実践指針としてもあまりに弱いとして、その限界が指摘された。

 続いて、人権教育の三層構造について、田中先生のお考えを詳しく述べていただいた。三つの層とは、それぞれ<1>共通基礎(人権教育の下地)、<2>各論(部落問題学習等)、<3>原論(人権とは何か、その理念、運動、政策の歴史、人権理念実現のための取り組み方等)、であり、「人はなぜ差別するのか」「その克服のために何が必要か」を考える力を育てることがこれまでの取り組みにおいて弱かったのではないか、との問題提起がなされた。

 この視点は「第三次とりまとめ」が強調する「人権感覚の育成」とも重なり合うものであり、従来の実践がしばしば「同情融和的な心情形成」にとどまったり、時に「部落問題への忌避感」すら生み出してしまった弱さを批判的に振り返りながら、「差別そのものをなくせる青少年を育成する」ことをめざした人権教育の推進が求められていることが強調された。

 報告に続く参加者との意見交換では、さまざまなテーマが論じられたが、とくに2点にしぼって紹介しておきたい。ひとつは、高校段階における人権教育の取り組みを前進させる必要性である。田中先生は「高校段階での取り組みは、ごく一部を除いて決定的に弱い」との認識を示され、議論においても「高校生だからこそ人権の共通基礎、各論、原論のそれぞれに対して正面から取り組めるはずなのに現状はそうなっていない」、「何故なのか」とさまざまな意見交換が行われた。また、田中先生が「私のゼミに参加した近年の学生はどういうわけか体育会系の学生が多かった」とエピソードを紹介されたことをきっかけに、「現状は自分たちにはどうしようもない」と無力感を持っている学生が多い中で、体育会系の学生には「○○できるかもしれない」という感覚をもち、課題に挑戦しようとする姿勢をもった学生がいるからではないか、と話が盛り上がった。これは「自己効力感」と人権感覚の間に、重要な関係性がある可能性を示唆するものであり、今後の人権教育において留意する必要性があると思われる。

(文責:平沢安政)

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