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人権条例等の収集と比較研究および提言プロジェクト・学習会報告
2002年12月21日
三重県における人権行政に関する調査報告

友永 健三(部落解放・人権研究所所長)

法失効後の同和行政と『人権のまちづくり』運動

谷元 昭信(部落解放同盟中央執行委員)

 (第1報告) 「三重県における人権行政に関する調査報告」

条例制定の経過
県議会における人権宣言決議(1991年)の後に「人権が尊重される三重をつくる条例」が制定された(1997年)が、その間に部落解放同盟三重県連をはじめとする各方面からの働きかけがあった。

条例の内容
(1)条例の基本理念
条例は、県の責務として、人権施策を積極的に推進することとし(第2条)、その具体的施策に関しては、条例に基づいて設置される人権施策審議会の意見等を踏まえて基本方針を定めることとしている(第5条)。また、別途策定された県の総合計画(三重のくにづくり宣言)でも、基本計画の第一に「人権の尊重」が掲げられており、県全体の取り組みの一環として位置付けられている。

なお、現在、基本方針に基づいて、第二次推進計画が策定され、実施されている。この推進計画には、数値目標が設定されており、評価が容易になる利点がある反面、数値化になじまないものにも設定されている。

(2)責務規定
県は、県行政のあらゆる分野において人権の視点に立って取り組むとともに、人権施策を推進するが、その実施にあたって、国、市町村及び関連団体と連携協力し(第2条2)、市町村に対して助言・支援を行う(第4条2)。

また、市民の協力義務も規定しており(第3条2)、人権侵害をしない義務もあわせて規定している(第3条1)。

(3)推進体制
ここに三重の取り組みの特徴がある。
まず、各部局に人権特命担当監を専任で一名ずつ配置し、生活部人権・同和チームと定期的に会合をおこなう。また、各県民局では、人権啓発特命担当監を中心に、人権・同和行政の総合的調整を図っている。人権施設としては、三重県人権センターが1ヶ所設置されている。研修体制としては、人権啓発研修プロジェクトチームが、課長補佐級全職員を対象に一日研修を開催している。さらに、各チームに人権啓発推進員を設置して、事業実施に直結した人権啓発を行っているが、県人権センターのアクセスがやや困難である。

他の人権関連機関(人権擁護委員等)との連携は未だ発展途上でであるが、弁護士会や人権NGO等との連携については進展が見られる。

(4)啓発・教育
教育委員会の体制として、人権・同和教育チーム(23人)が設置され、社会教育、学校教育を担当するグループがあり、それぞれ企画・調整・推進に当たっている。人権センターには人権・同和教育センターが設けられ、人権・同和教育のための調査研究などを行っている。

また、人権教育推進特命担当監(1名)と人権啓発推進員(5分野17名)が設置され、人権教育推進と研修とを担当している。教員に対しては、2年間かけて全教員対象の研修を実施しているが、その一環として、部落解放・人権研究所の部落解放・人権解放大学講座等への派遣を行い、その修了者に対するネットワーク活動推進事業も行っている。

(5)相談・救済
基本的には、人権センターにおいて相談窓口を設け、人権相談と通報により対処している。しかし、その窓口は一ヶ所しかなく、現在配置されているのは相談員2名という体制である。研修と人材養成を行い、各機関との連携・ネットワーク化がはかられているものの、NGOの参画は現段階では行われておらず、また、調査権の規定がなく、非協力者への制裁もない。

(6)個別人権行政領域との関連
福祉、教育、医療、労働、住宅、環境、男女共同参画、その他の分野で、施策を実施しているが、改良住宅建替えに際して、入居者が高齢化しており、家賃値上げが困難という問題を抱えている。

(7)調査・研究
差別事象の分析・検討や、人権関係資料調査研究などを、継続的に実施しており、さらに同和地区実態調査や県民意識調査結果をデータ化している。

また、一般対策として効果的な取り組みを検討するために、個別データの収集が計画されたり、第二次推進計画で、県民満足度等のデータをまとめている。

(8)評価
人権条例に基づく施策は、それぞれ人権施策審議会において成果と課題について議論され、また県議会への報告も行われている。

 報告者の評価としては、推進体制が充実している点は評価すべきだとしつつも、相談体制の弱さ、及び数値目標の問題、拠点を設定した人権のまちづくりなどは、今後発展と工夫が必要であるとのことである。

(第2報告) 「法失効後の同和行政と『人権のまちづくり』運動」

 本報告では、法失効後の同和行政と「人権のまちづくり」運動について、解放理論の再編という観点から、問題提起が行われた。

現状の特徴
 法失効後、一般対策への移行(手法的転換)と、これまでの欠陥の克服(発展的転換)が進んでいるが、各地区においては、後退、維持、模索、発展という四つの現象が生じている。
このような混乱は、同和行政総括の不十分さ、一般施策活用方策の未確立、人権行政の方向性の不明確さに起因すると思われ、その克服のために既存の解放理論の再編が求められている。

「特措法」時代の同和行政の総括
 これまでの同和行政は、確かに一定の成果を収めてきたものの、逆差別意識やねたみ意識を生み、また当事者の間に行政依存の傾向を生ぜしめ、さらに、行政の側にも惰性的な施策実施に堕していた。
その原因を掘り下げたとき、次の三つの限界が見受けられる。

すなわち、(1)「格差是正」への矮小化、(2)「同和地区」への限定、(3)「特別対策」への偏重である。既存の解放理論に、その限界を生む根拠があったといえる。

人権行政としての同和行政の方向
 それでは、どのような方向性を示すべきか。そもそも「人権行政」という表現自体が、一見形容矛盾であるので、その内容を具現化するにあたり、(1)自立支援、(2)住民参加、(3)総合対策という3つの機能を前提として、(1)差別撤廃、(2)自己実現支援、(3)風習・慣行の改善、(4)人権規範の実施といった四つの内容に集約する必要がある。

人権行政推進力としての「人権のまちづくり」運動
 人権行政の基本的な前提として、住民参加の要素は欠かせない。その点で、既存の同和行政は、先駆性を持っていたといえる。また、住民自治という観点から、行政依存からの脱却を図りうる。

人権のまちづくり運動は、第二次部落解放総合計画の推進として、部落の外をも視野に入れ、複合差別にも目を向けるものと位置付けられる。そこでは、「ひとづくり」、住民自治、住民参加、人権社会、安心・安全の環境づくりという視点が含まれるべきであり、そこから、福祉、教育、産業・労働、環境、情報といった各方面での基本構想が引き出されていく。

さらに人権のまちづくり運動は部落解放運動にとって、同和行政の継承発展や限界の克服、人権条例・宣言の具体化、地域共同体における人権文化の創造、部落内外の共同闘争、地方分権における市民の参画、さらに国際人権基準を地域社会で独自性のある形で活用するといった意義が挙げられる。

 これらのことをふまえて、今後、具体的な方策についての政策研究が焦眉の課題である。