(第1報告) 「自治労の人権政策」
本報告では、1991年から自治労が策定している政策集の内、特に人権に関連する項目について、その概要が示された。この政策集では、地方行政に対応して、10本の柱が立てられており、その内人権については、特に第9の柱(平和、人権、国際協力)で提言が行われている。ただし、個別の政策分野にも(例えば社会保障、男女平等参画、情報政策など)、人権の観点からの提言がちりばめられている。
(1)平和、人権、国際協力(第9章)
自治労の性格上、国と自治体とに分けて、政策提言を行っているが、自治体に対しては、その改革を提唱する趣旨である。まず、人権基本条例の制定を求め、また自治体自身を人権政策実施機構とすることを目指している。さらに職員研修と人権教育の実施、行動計画の策定を求めている。国に対しては、様々な人権条約の早期批准、差別禁止法(仮称)の制定を要請している。また、外国籍市民については特に別途節をもうけ、「外国籍市民も住民です」と題し、様々な施策の実施を求めている。特に、外国籍市民の参政権や、通訳ボランティアの確保、入居差別撤廃の取り組みといった自由権的な施策、また、年金や健康保険などの社会保障的な施策を含めて、多彩な政策を提言している。
(2)社会保障(第4章)
社会保障に関しては、すべての人を対象としたユニバーサル・サービスとしての制度改革と機能拡充をはかる必要があるとし、安心のための生活設計と安定のための年金制度・健康保険制度の拡充を求めている。また、高齢者のくらしと介護サービスについては、自治体の権限をフルに活用すべく、総合的な基盤整備を求め、サービスの提供者であり、かつチェック者たるべきことを提言している。子育て・子育ち支援についても、子どもを権利主体とする立場から、子どもの権利条例策定を求め、家庭・地域社会の支援体制構築を目指している。
(3)男女平等政策(第10章)
男女平等政策については、まず男女平等基本条例・行動計画の策定を求め、自治体内部での男女平等参画を推進するよう求めている。また、条例に基づいて、地域にも平等参画を進めるという趣旨から、雇用分野での施策を取り組むことが重要だとしている。仕事と生活の両立支援に関しては、情報提供や普及啓発活動を総合的に推進するよう求めている。
概要は以上であるが、部落問題に関しては、当政策集では簡潔にしか述べられていないものの、自治労の大会方針や三ヶ月毎の政策において、人権のまちづくりや「宣言」「条例」策定、人権擁護法案抜本修正といった項目を採択している。
質疑応答では、やはり部落問題に関する政策が不十分であるとの意見があった。とりわけ、条例策定に関しては、「基本条例」と表現され、枠組的なものに留まってしまいかねないというもの、また、人権部局の設置や苦情処理システムの構築といった制度的な裏づけを求めるべきだという意見が出された。
(第2報告) 「兵庫県龍野市の人権行政」
龍野市では、きわめて早い段階から同和問題・同和教育についての取り組みが開始しており、現在にいたるまで、コミュニティ・草の根での取り組みが盛んである。市レベルでの条例は策定されてはいないものの、きわめて積極的な実践が展開されている。
市内部の担当部局としては、人権推進課と、人権教育推進課とが設置されており、それぞれ人権推進の総合調整、人権教育に係る施策の企画及び連絡調整に勤めている。また、各地区に、「人づくり・まちづくり委員会」(周辺住民も含めた委員会)を設置し、要望提示と事業受託を行っている。現在は、法期限切れを見据えて取りまとめられた五地区人権協議会の提言(2002年)を受けて、人権施策推進指針の策定に取り組んでいる。
同和教育の取り組みに関しては、1973年に従前の民主化事業協議会が民主化推進協議会(民推協)へと発展的に改称され、翌年から「差別をなくそう市民運動」が開始され、年一回中央大会が開催されている。民推協の体制としては、校区ごとに支部が設置されており(6支部)、また専門部会が計18設けられている。理事構成についても、あらゆる団体からの代表が理事として割り当てられており、重層的な活動体制が構築されている。
教育集会所・公民館での人権教育に関しては、構(かまえ)教育集会所についての報告があったが、集会所活動はあくまで部落問題の解決を目指すものであるというスタンスを堅持した上で、基本方針として、部落問題解決に向けた社会同和教育推進の拠点施設へと発展させるとし、四つの役割(格差拡大防止、社会教育支援、教育力向上に向けたネットワーク拠点、部落問題解決・人権文化創造の担い手育成)と四つの機能(地区教育事業機能、生涯学習支援機能、人権教育総合相談機能、人権教育、人権情報発信機能)をになうとしている。
さらに、自治・まちづくりについては、1976年に「龍野市民憲章」、1994年に「部落差別解消」宣言が策定され、部落差別の解消をめざし努力するとし、現在、第4次龍野市総合計画が策定されている。
(第3報告) 「『人権のまちづくり』に関するコメント」
前回の谷元中執による「人権のまちづくり」運動についての報告をうけて、若干のコメントが寄せられた。
現在の日本は、モデルを喪失しており、少量多品種化、苦情処理・相談の重視、さらに情報の双方向化へと変動している。この状況に照らしていえば、同和行政は、戦後日本において、いくつかの貴重な意義を有していたといえる。
第一に、総合的・一元的な行政の取組体制(組織、権限、人員、予算)を確立させた点である。第二に、下からの積み上げを重視し、外国に先例がないことを理由とする行政側の消極姿勢に対して、実態調査を通じて突き上げ、総合的な対策を、総合的な対応体制で取り組んだ点である。さらに、人権の非対称性を確認させ、マイノリティの権利を確立させた点である。
この点に照らして、今後の人権行政への視点としては、次の四点が挙げられよう。すなわち、(1)当事者の立場にたった苦情申し立て・相談の重視、(2)総合的解決への展望(横断・横串的行政システム構築など)、(3)分節的構造への展望(上からの人権保障ではなく、地域作りやまちづくり、自治体、さらに民間の力を活用した人権保障へ)、(4)当事者参画(NGOではなく、まさに住んでいる当事者、生活者が参画し、政策立案にあたっても、市場原理ではなく、生活を基準にすべき)、であろう。