20世紀は、国家を中心に物事が動いていた世紀であった。これに対して、21世紀は、国家の役割はなくなりはしないにしても、国際的には、国連を中心とした国際機関、さらにはEUに代表されるような地域的国家連合の果たす比重は大きくなってくるし、国内においては自治体の果たす役割が大きくなってくる。
日本においても、2000年4月から地方分権一括法が施行され、様々な問題を解決していく上で、自治体の果たす役割は大きくなってきている。
一方、部落差別の撤廃も、1969年以来33年間続いてきた「特別措置法」に基づく同和行政の時代が、2002年3月末に終了した。しかしながら、このことは部落差別が撤廃されたことを意味するものではない。被差別部落の人びとのおかれている教育や産業・労働面の実態は依然として課題が残されているし、悪質な差別落書きや差別投書、さらにはインターネットを悪用した差別情報の流布は増大してきている。
かくして部落差別の撤廃は、引き続き日本において重大な課題であるが、その際、上記に述べた時代の大きな転換を踏まえていくことが必要である。その点では、国際人権規約や人種差別撤廃条約など、日本が締結した国際人権諸条約を活用した取り組みが重要になってくるとともに、2003年7月時点で758に及んでいる部落差別撤廃・人権条例を活用していくことが極めて重要な課題となってきている。
この条例の活用という課題は、予算の確保や人員の配置等の面で明確な根拠付けが求められてくる情報公開というもう一つの時代の流れを考慮したとき、とりわけ重要な課題となってきている。
しかしながら、せっかく制定された部落差別撤廃・人権条例が十分活用されていない現状があるし、条例が制定されていない自治体も少なくないと言う問題がある。さらには、一口に部落差別撤廃・人権条例といってもその内容は多様である。
そこで、2001年4月より2年間にわたって、法政大学の江橋崇教授を代表に、各方面からの参画を得て部落解放・人権研究所が事務局を担当し、「人権条例等の収集と比較研究及び提言プロジェクト」を立ち上げ、条例の収集、訪問調査、会合の開催による比較研究に取り組んだ。
この結果、人権条例等の収集については、長野県(117)、三重県(26)、滋賀県(35)、奈良県(26)、大阪府(35)、鳥取県(40)、香川県(43)、徳島県(50)、愛媛県(35)、福岡県(82)、熊本県(58)、大分県(掲載準備中)の条例を収集し、研究所のホームページに掲載した。(カッコ内は条例数)
また、大阪府堺市、鳥取県、鳥取県倉吉市、兵庫県龍野市、長野県御代田町、滋賀県甲良町、大阪府、三重県については、プロジェクトメンバーで分担し、訪問調査を行った。 これらの基礎作業と平行して、13回に及ぶプロジェクト会合を開催し、多面的な角度から報告と討議を重ねた。本報告書は、13回に及ぶプロジェクト会合での報告と討議の要約である。この報告書が部落差別撤廃・人権条例の制定と活用を願う各方面で活用されることを期待したい。
最後になったが、プロジェクトに参加し報告や討議、調査にかかわって頂いた皆さん、人権条例に関する資料提供や訪問調査にご協力頂いた自治体の関係者の皆さん、このプロジェクトに物心両面からの援助と参画を頂いた部落解放同盟中央本部と関係府県連の皆さん、さらには全日本自治団体労働組合(自治労)の皆さんに心からの感謝を申し上げる次第である。
なお、2年間に及ぶ研究成果を基に、本年9月を目途に単行本を編集中であるが、発刊された暁には各方面で活用していただければ幸甚である。