調査研究

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2005.02.24
部会・研究会活動 <国際身分研究会研究会>
 
人権条例等の収集と比較研究および提言プロジェクト報告書
「自治体女性行政の比較研究」の調査方法

大西 祥世(法政大学大学院)

 レジュメが、「『自治体女性行政の比較研究』の調査手法」2枚のものと、資料として『法学志林98巻3号』をお配りしております。

 最初に簡単に自己紹介をさせていただきます。私は江橋先生のご指導の下、憲法を勉強しております。これまで、憲法14条の「法の下の平等」という理念を、性差別についてどのように効果的に実現するかという観点から、自治体の女性行政やオンブスパーソン等を研究してきました。自治体とのかかわりでは、財団法人横浜市女性協会の運営協議会の委員等をしています。

 さて、江橋先生と私は、1999年度に財団法人東京女性財団から支援を得まして、全国の先進自治体の女性行政の調査・研究をおこないました。本日は、この研究をどのようにおこなったか、その手法について調査の経験を報告させていただきます。

 私は、まだまだ若輩者で、先生方を前に僭越ではございますが、よろしくお願いいたします。

《調査の概要》

 まず、はじめに調査の概要について、申し上げます。調査・研究の詳細は、お手元の『法学志林』の論文をご覧になっていただければ幸いです。

 調査をおこなった自治体は、この『志林』の192ページに一覧表があります。北海道地域、首都圏地域、関西圏地域、九州北部地域の都道府県・政令市の女性行政担当部局と女性センターならびに国です。具体的に、自治体では、北海道、札幌市、埼玉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、京都府、京都市、大阪府、大阪市、福岡県、福岡市、北九州市、国では総理府男女共同参画室(当時)、国立婦人教育会館(当時)の合計14自治体、30カ所です。

 それぞれの自治体で女性行政のキーパーソンになっている審議会等委員の方にも、お話をうかがいました。そして女性行政の発足時から、これまでの行動計画や審議会等での提言といった資料を収集しました。また現在の施策や課題については、実際に現地で聞き取り調査をおこないました。

 自治体女性行政は、約4半世紀の歴史をもちます。調査の時期は、ちょうど男女共同参画社会基本法の成立・施行と重なりまして、女性行政とは何かが問われた時期でもありました。また、男女平等・男女共同参画に関する条例は、埼玉県と東京都で制定が検討されていました。

 女性行政を、簡単に定義しますと、性差別を解消し男女平等を実現するための行政となります。東京大学の大沢真理先生は、女性行政には広い意味の女性行政と、狭い意味での女性行政とがあるとおっしゃっています。広い意味での女性行政とは、女性行政のおもな理念であるジェンダーの視点を行政全体に反映させることで、狭い意味での女性行政とは、女性や男女平等に関する行政のこと、とされています。私どもの調査では、狭い意味の女性行政に焦点を当てました。

《調査の準備》

 この調査の準備についてです。まず、調査を実施するきっかけですが、1997年の年末頃から、首都圏のいくつかの自治体で男女平等に関する条例制定の機運が高まってきました。1997年10月には、埼玉県の女性問題協議会のなかに、男女平等条例を検討するための研究会、「男女共同参画推進条例(仮称)研究会」が設置されました。

 東京都も、条例を制定する構想がありました。そのメンバーの方が、どういったことを条例に盛り込んだらいいか、そのポイントは何かについて、埼玉県だけでなく首都圏の他の自治体の行政担当者、審議会等の委員、NGOのメンバーと一緒に考えようということになりました。そこで、「首都圏男女平等条例市民ネットワーク」が、1997年12月に立ち上がりました。

 また国では、1998年に男女共同参画審議会から「男女参画社会基本法について」が答申されました。

 したがって、女性行政に関する法律や条例の整備に向けた議論が活発にされた時期に、これからの女性行政の展望を考える上でも、これまでの女性行政で何が考えられ、どんな実績があったのか、ということをまとめてみようと思い、調査を開始しました。

 調査には多額の費用がかかるため、財団等の財政的支援が不可欠でした。そこで、東京女性財団の自主研究活動助成に、江橋先生と私の共同研究として応募し、支援を得ることができたので、計画を実行に移すことができました。財団の助成は、調査費用総額の費用の2分の1でした。

 私どもの前に、これまでどういった調査があったかは、参考文献にもあげております。これらには、大別して第三者による調査と、担当者や関係者による論文や報告があります。第三者による調査には、アンケート方式と実地調査方式の2つがあります。それぞれの特色を考えてみます。第一にアンケート方式では、たくさんの対象の自治体に対して、安価で同時期におこなうことができます。一方、調査項目が、計画、推進体制、審議会、女性センター等、女性行政の枠組みはわかりますけれども、実態にまで踏み込んでまでは、なかなか調査できないという限界があるように思います。また施策については、すでに実施されたいくつかのアンケートがありますので、担当者がアンケート疲れをしている印象がありました。

 第二に、実地調査方式では、総理府婦人問題有識者会議状況改善委員会による当時の国の女性行政の諮問機関が、一部の自治体にヒアリングを実施していました。これは、ヒアリング先の実状を把握するには有意義でしたけれども、その成果がヒアリングをした委員に留まり、この段階では各自治体の特徴がよくわかりません。

 また、担当者や関係者による研究ですが、これらの成果は担当者ならではの視点として、経験的に獲得したノウハウを提供して、また実際の苦労話などをまじえ、現場の職員の参考になると思われます。しかし、これもまた各自治体の実状を把握するには有意義ですけれども、複数の自治体間で比較して検討するというのは、やや困難であるように思います。

 これらの調査に共通することは、各自治体の女性行政の仕組みや施策の実態を把握するには高く評価でき、実務にも貢献したと思われます。しかし、基本的な視点が政策論であるため、女性行政に共通する理念の抽出や、位置づけについての考察が弱かったように思われます。

 つづいて、調査先を選ぶ段階についてです。調査先は、先ほども申し上げましたが、先進的な女性行政を展開していると思われる都道府県と政令市に限定しました。地域を限定したのは、自治体女性行政に、地域の特性が反映しているかどうかを調べたかったからです。都道府県と政令市にしたのは、私どもの調査の限界から、調査先の数を限定せざるを得なかったからです。先進的かどうかの判断は、条例制定の動きがあるころユニークな施策を展開しているところ、女性センターの活動が活発なところ、女性のNGOの元気なところなどを基準にして判断しました。

《調査の方法》

 女性行政の経緯については、資料に散逸が著しく、以前の事情を把握することが困難になっています。それだけでなく、1970年代に新しく誕生した女性行政は、その発足と定着にさまざまなやり取りがあったと想像できます。けれども、これらは文章に表現されていない行間の部分に落ちています。そこで、調査には資料をできるだけ収集するとともに、担当者や関係者の聞き取り調査をおこないました。

 この調査は1年間かけておこないましたけれども、資料の収集については、1999年4月から9月の間におこないました。そして、6月から7月の間に、各自治体の行政の担当者と女性センターの担当者を訪問し、調査の趣旨を説明するとともに、資料の提供をお願いしました。また、地域のキーパーソンについても、うかがいました。これをおこなうことによって、実際の聞き取り調査をスムーズにおこなうことができたように思います。資料の提供をお願いするときは、当然のことですけれども、計画や計画策定の前に公表される審議会等の提言など、ありそうな資料のおおまかなめぼしをつけて、訪問前に、「こういった資料を参考にしたいので提供してください」とお願いしました。各自治体のみなさまには、快くご協力をいただきました。そして、資料を持ち帰って読んでみると、手元にない調査報告書等の資料がでてきますので、後日に追加して提供をお願いしたり、聞き取り調査のときにうかがったりしました。

 聞き取り調査は、10月から12月におこないました。事前調査で浮かびあがった論点を中心にうかがいました。すでに実施されていた他のアンケート等も参考にしました。調査事項を項目化して、他の自治体とばらつきがでないような配慮をしました。また、文章には書かれていない、実際の自慢話や苦労話もうかがうようにしました。

 そして、報告書の作成は2000年1月から3月までの間におこないました。資料の収集、事前調査、聞き取り調査を論点ごとにまとめ、2000年3月末までの内容を盛り込み、財団提出用の報告書を作成し、発行しました。

 その後、2000年度前半の状況を加え、この『法学志林』に収めました。

《調査のテーマ》

 実際に調査をしてわかったことは、自治体女性行政では、「自治」と「人権」が柱になっていることです。実際、女性行政を考える際には、この2つを基本的姿勢として検証する点が必要だと思います。

 これは、調査の前からも、計画や審議会等の方針と提言の中でも、くり返し述べられていたことです。しかし、これらがどうして基本的な視点となるのか、これまでどのように取り組まれてきたのか、それについては、曖昧なままでした。

 これらについては、詳細は、論文の方に紹介していますので、簡単にご紹介いたします。

 まず、人権についてです。女性に関する行政の施策は、戦後では大きく3つの分野で取り組まれてきました。働く権利の保障、福祉の向上、先ほど中川先生のご報告にもございました教育の分野でした。働く権利は労働省、福祉の向上については厚生省、教育については文部省が担当し、各省庁別にわかれて施策が展開されていました。

 そうした施策について、1975年に開催された国際婦人年世界会議が契機となりまして、国で国際婦人年世界会議における決定事項を国内施策に取り入れることになりました。婦人に対する施策について、関係行政機関の相互間の事務の緊密な連絡をはかるとともに、総合的かつ効果的な対策を推進するため、つまり各省庁別ではなく、総合的に女性をとらえた施策が展開されるようになりました。

 これによって策定された国内行動計画は、憲法の定める男女平等の原則および女性差別撤廃条約をはじめとする国際文書の趣旨にもとづき、政治、教育、労働、家族生活等に関して、憲法が保障するいっさいの国民的権利を、婦人が実際に男性と等しく享受し、国民生活のあらゆる領域に、男女両性がともに参加、貢献することが必要であるという基本的考え方に立って、これを可能とする社会環境を形成することを全体的な目標としています。国のこうした方針は、自治体女性行政にも大きな影響を与えています。

 総合的な女性行政を展開する上で確認されたことは、性別役割分業の克服でした。しかし、これらの目的が女性の人権問題として把握されるようになったのは、1993年の世界人権会議、そして1995年の北京女性会議以降でした。また、1990年代後半からは、女性行政の目的達成のため、行政の行動計画だけでなく実際に権利を侵害された人を救済する苦情処理機関の設置が検討されるようになりました。1995年に、川崎市で「男女平等委員会(仮称)」の設置が協議会から提出されました。こうした議論は、だんだん現実化しまして、実際に埼玉県や川崎市の条例に、苦情処理機関の設置が盛り込まれました。

 現在では、男女共同参画、男女平等の条例の制定にあたっては、救済機関をどのように位置づけるか、最重要のポイントとなっています。

 つづいて、自治についてです。女性行政では、はじめから女性の政策方針決定過程への参加の重要性が認識されていました。女性行政は、地域の女性団体の要望から設立された自治体が多かったため、発足後も行政だけで展開するのではなく、民間の団体と連携してすすめていく手法がとられました。今日では、NGOと連携、ネットワークを築いています。また、女性行政は、その理念を行政全体へ浸透させること、つまり総合調整の権限をもつことが目的の一つとされています。そのため、推進体制の強化が求められてきました。この点は、自治体よりも国の方が進んでいます。

 最後に、自治体女性行政と条例について簡単に述べます。男女平等・男女共同参画条例についてですが、女性行政は、はじめは法律的な根拠がない行政として取り組まれていたため、基盤も権限も、とても弱いものでした。そこで、法律的な根拠をもつ行政としてしっかり取り組んでほしい、と審議会等の委員から強く要望されていました。私どもが、調査していたときには、埼玉県と東京都で、実際に作業が進んでいました。しかし、これは調査をするというよりは、調査時期との関連で周りの方々に進捗状況をうかがうような感じでした。

 男女共同参画社会基本法の制定後では、基本法の理念を自治体でも実現するという意味で、条例の制定が求められているように思います。しかし、女性行政はこれまで、自治体の方が実践的に取り組んできたものですから、国の音頭で上から言われて作成するというよりも、これまでの成果を踏まえて、地域の特性に応じた条例を制定する「自治」の考え方のほうが先決だと思います。

 なお、人権条例とのかかわりについてですが、私どもの調査のときには、大阪府ですでに人権条例が制定されていました。行政の担当者や女性団体には、人権条例があるのに、男女共同参画条例が必要か、という疑問が提起され、議論がなされたと聞いています。計画や行政の段階では、女性行政は残念ながら予算も削減されまして、衰退していると言われています。そういった状況の今日では、人権行政に女性行政が、埋没してしまうのではないか、と心配している人が多いようです。

 そこで、条例について考えてみますと、人権条例には女性の人権についても、盛り込まれています。男女共同参画条例には、いままで制成されたものを見ますと、男女の人権という項目が盛り込まれています。これは、むしろ人権条例か、男女共同参画条例か、の二社択一ではなくて両方が必要です。

 これまでの、アンケート、論文、条例に関する研究はレジュメや『志林』にあげているようなものがございます。

 以上、短くて、雑駁ではこざいますが、報告を終わらせていただきます。

2001.08.20に報告されたものです。