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2005.02.24
部会・研究会活動 <国際身分研究会研究会>
 
人権条例等の収集と比較研究および提言プロジェクト報告書
大阪府の人権条例に基づく取り組みについて

岡先 雅史(大阪府企画調整部人権室)

 大阪府企画調整部人権室の岡先ともうします。

 レジュメにございますように「大阪府の人権条例に基づく取り組みについて」、説明させていただきます。

 レジュメの方を、ごらんください。ご承知の通り、大阪府では、1998(平10)年11月、人権条例を施行しました。条例制定に至るまでの、近年の人権をめぐる動き、あるいは人権条例の取り組みや今後の課題などについて、ご説明させていただきます。

 私は、人権企画グループに属しています。このグループは、「人権条例」や、「基本方針」を所管しており、おもに条例・基本方針の進行管理を担当しております。教育・啓発事業あるいは人権擁護に関する施策は、他のグループで所管しておりますので、十分説明できない点があるかとも思いますが、よろしくお願いします。

《1.大阪府における人権をめぐる近年の状況》

 では、レジュメにあります「1 大阪府における人権をめぐる近年の状況」から、はじめます。みなさん、十分承知のことと思いますが、人権条例の背景として、特に近年の動きを、ご説明します。

 平成8(1996)年に地対協意見具申(地域改善対策協議議会意見具申)が、ございました。ここでは、これまで特別対策に基づいて行われてきた教育・就労・産業等については一般対策を工夫して対応するとされました。また、差別意識については今後とも教育や啓発の推進が必要であること、さらに人権侵害の救済が必要であることが指摘されました。

 同じ年に大阪府の同和対策審議会も「大阪府における今後の同和行政について」ということで、答申をしています。これは一般施策の有効かつ適切な活用、教育・啓発の推進等といったことを基本施策に掲げています。

 平成9(1997)年には、地対協意見具申の流れを受けまして、人権擁護施策推進法が施行され、人権擁護推進審議会が設置されています。これは、ご承知の通り、5年の時限立法ということで、国で教育・啓発の推進や人権救済の推進を担っていくということと、基本的な方策のあり方を検討することでございます。

 同じ年に、大阪府は「人権教育のための国連10年大阪府行動計画」を策定いたしました。これは、全国にさきかげて策定したものでありますけれども、大阪府では初めての総合的な人権教育の計画と言えるかと思います。それまでは、大阪府でも人権の問題につきましては、個別の課題、たとえば、同和問題、女性問題、子どもや高齢者の問題などで、それぞれに対応しておったのです。が、人権というかたちで総合的にとらえるというかたちが、このあたりから出てきていると思います。

 平成10(1998)年に、私ども人権室を設置いたしました。それまで大阪府には、人権啓発を推進する人権平和室というセクションと、同和対策の総合調整をおこなう同和対策室がございました。これを再編いたしまして、初めて人権施策の総合的な企画調整をおこなうという所掌事務を定め、そういうセクションをおきました。

 あわせまして、これまでは各部主管課に同和対策室と兼務の職員をおいていたのですが、各部主管課・人権問題にかかわりの深い課に人権室兼務職員を設置しました。

 この年に、「大阪府人権尊重の社会づくり条例」を施行しました。これにつきましては、のちほど、ご説明します。

 平成11(1999)年、人権擁護推進審議会答申が出ました。これは、国の教育・啓発に関する答申でございます。ご承知の通り、特に自治体に対しましては「都道府県は、市町村を先導する施策、あるいは市町村に対する助言や情報提供等をおこない、市町村の取り組みを支援する施策が求められている。そして市町村は、地域に密着した、きめ細かな啓発活動が推進する役割が求められている」といったことや「こういった取り組みを進めていくために、国は行財政措置を講ずることが望まれる」というようなことが記されております。この答申につきましては、ご承知の通り、法的措置は盛り込まれておりません。

 平成12(2000)年、人権教育及び人権啓発の推進に関する法律が施行されました。これは、特に地方公共団体につきましては「地域の実状を踏まえた、人権教育・人権啓発に関する施策の策定及び実施の責務」という規定があります。

 平成13(2001)年、大阪府の人権施策推進基本方針を策定しました。同時に「人権教育のための国連10年大阪府後期行動計画」を策定したところでございます。
 5月には、国の人権擁護推進審議会から「人権救済制度の在り方について」が出されました。

大阪府では、昨日ですが、大阪府同和対策審議会が「大阪府における今後の同和行政のあり方について」答申を出しました。これにつきましては、きょう、資料として、お配りされているところであります。

 特に、資料(「大阪府における今後の同和行政のあり方について」の冊子)12ページ、基本目標という項目の中に「今後の同和問題解決のための施策の基本目標は、部落差別を解消し、すべての人と人権が尊重される豊かな社会の実現をめざし周辺地域と一体となったコミュニティの形成を図ること(以下、『コミュニティづくり」という。』)である。そのためには、<1>府民の差別意識の解消・人権意識の高揚を図るための諸条件の整備 <2>同和地区出身者の自立と自己実現を達成するための人権相談を含めた諸条件の整備 <3>同和地区内外の住民の交流を促進するための諸条件の整備を図ることが必要である」と示しています。

 こうした国や大阪府の人権をめぐる状況を受けまして、現在、取り組みをすすめておるところでございます。

《2.現在の取り組み》

 次に、レジュメの「2、現在の取り組みについて」。

 大阪府人権尊重の社会づくり条例について、説明します。条例の本文は、資料としてお配りしている「大阪府人権施策推進基本方針」の冊子の後ろに載せております。それを、ごらんになっていただきたいと思います。

 この目的は、前文や第1条のところにございますが、人権尊重の重要性を明確に示すことと、府の人権施策の枠組みをつくり上げ、すべての人の人権が尊重される社会の実現を図ることです。

 そのための府の責務を、第2条に掲げています。1つめに、すべての施策の実施に当たって、人権尊重の社会づくりに資するように努めることです。2つめに、人権施策(人権意識の高揚を図るための施策・人権擁護に資する施策)を積極的に推進することです。

 次に、人権施策を総合的に推進するための基本的な事項を定めた、基本方針の策定をしなければならないということを定めています。その策定の方法は、人権施策推進審議会の答申を受け、府議会の意見を聴き、それを勘案して策定することを規定しています。

 こういった条例を、平成10(1998)年10月に制定し、11月施行しました。

 ご存知の方も多いと思いますが、この大阪府の人権条例は、当初、議会に上程したものは、「市町村・府民・事業者の役割」というものがあったんです。けれども、これにつきまして、地方分権ということで、その部分の削除がおこなわれました。また、「基本方針策定について、府議会の意見を聴く」という項目が追加されております。おもに、そういった部分に修正が入り、制定されております。

 あわせまして、一番最後のところに、附帯決議が4項目、付されています。

 その内容は「府人権施策推進審議会の運営に関しては、公正中立性及び透明性を確保すること」「審議会の学識経験者としての委員については、偏ることなく、幅広く選任すること」「過剰な財政的な負担を生じないようにすること」「市町村、事業者及び府民と連携するに当たっては、その自主性を損なわないようにすること」です。

 条例に基づく「大阪府人権施策推進基本方針」を、今年(平成13<2001>年)3月に策定いたしました。簡単に経緯だけを、ご説明いたします。

 平成11(1999)年5月に、大阪府人権擁護推進審議会に諮問をしております。

 諮問について、以下の内容で、のべ14回の会議を開催しました。

(大阪府から人権問題の現状や府の取り組みについて説明・10人の各委員からプレゼンテーション・21当事者団体からのヒアリング・府民から意見を募集し、その意見<57件が応募された>について)

 平成13(2001)年1月に、答申を出しました。2月定例会で府議会の意見聴取をしました。

 この中で自民党からは、過剰な財政負担を生じないようにすることとか、毎年どんな事業をやるのかの計画を作成して示すこと、人権基礎教育を重点的に取り組むこと、という意見がありました。民主党からは、NPOとの協働は不可欠であるといった意見が出されました。それから、共産党から、大企業や権力などからの人権侵害から人権を守るためにどうするのか、あるいは、国の方が国民の生存権を侵害ていることに反省なく府民の人権意識を問題にするのは府民の目をそらせる、内心の自由に踏み込ませないことが大前提、ということの指摘がございました。

 府議会の意見をお聴きしましたが、基本方針の内容を修正しなければいけない部分は、ございませんでした。2月に策定しました案のままで、平成13(2001)年3月に基本方針を策定しました。

 「大阪府人権施策推進基本方針」の構成ですが、項目だけを簡単に、ご説明します。

<1>「大阪府における人権をめぐる状況」では、国内外の人権尊重の潮流・大阪府におけるこれまでの取り組み・取り組むべき主要課題(これについては、資料<「大阪府人権施策推進基本方針」の冊子>の2ページ以降をごらんいただきたいと思います。主要課題とは「同和問題、女性、障害者、高齢者、子ども、外国人、HIV感染者等、犯罪被害者とその家族、労働に関する課題、情報化社会の進展による問題、野宿生活者の問題、性的マイノリティとされる人びと、アイヌの人びと、刑期を終えて出所した人びとなど、そして遺伝子工学の急激な発展にともなう新たな人権問題の発生の懸念」といったものを示しております)。

<2>基本理念(これは、大阪府のすべての行政分野において、ふまえなければならない基本理念ということで、掲げております)

(資料<「大阪府人権施策推進基本方針」の冊子>5ページ等にもありますように)

  • 一人ひとりがかけがえのない存在として尊重される差別のない社会の実現
  • 誰もが個性や能力をいかして自己実現を図ることのできる豊かな人権文化の創造

上記、2つを掲げています。

<3>人権施策の基本方向(人権施策には、先ほどご説明させていただきました通り、人権意識の高揚を図るための施策、人権擁護に資する施策、と2つの柱があります)

「人権意識の高揚を図るための施策」では、人権教育の推進、人権教育に取り組む指導者の養成、府民の主体的な人権教育に関する活動の促進、人権教育に関する情報収集・提供機能の充実。

「人権擁護に資する施策」では、府民の主体的な判断・自己実現の支援、人権にかかわる総合的な相談窓口の整備、(国の答申を踏まえながら)人権救済・保護システムの充実。

こういった施策を推進するために「推進に当たって」は、庁内の推進体制・市町村との連携・企業、NPOとの連携、をあげております。

この大阪府人権施策推進基本方針につきましては、「推進に当たって」のところにあるのですが、具体的な推進計画を策定し進捗管理をおこなっていくことになっています。

特に、教育については「大阪府人権施策推進基本方針」と同時に、「人権教育のための国連10年大阪府後期行動計画」を策定したところであります(平成13<2001>年3月)。

資料として、「人権教育のための国連10年大阪府後期行動計画」と、概要のパンフレットをお配りしております。

これは「人権教育のための国連10年行動計画」を、中間年である2000年に見直しをしまして、基本方針と同時に策定したものです。

位置づけとしましては、「人権教育のための国連10年」の行動計画であることは、もちろんです。次に、人権施策推進基本方針の人権意識の高揚を図るための施策の推進計画です。また人権教育及び人権啓発の推進に関する法律を受けての、大阪府の基本計画です。

基本理念は、「あらゆる人々が、あらゆる機会において実施される人権教育を通じて、人権尊重の精神を当然のこととして身につけ、日常生活において実践し、人権という普遍的文化の創造を目指す」。

そのための取り組み、施策の方向性として、

  1. 学校や職場における人権教育の充実として、幼少期からの人権基礎教育の充実、学校教育での体系的人権教育プログラム整備、職場での人権教育の充実。
  2. あらゆる人権教育の場の確保として、家庭教育の支援、地域における人権教育の機会の充実、内なる国際化の推進。
  3. 人材の育成として、身近な指導者の養成、専門的な指導者の養成。
  4. 効果的な人権教育・情報提供の実施として、人権教育手法の検討、マスメディアの積極的活用、人権教育に関する情報提供の充実、人権教育を推進するための中核的機能の整備。
  5. 国、市町村、民間企業・団体との連携として、府と市町村との連携、府と民間企業・団体との連携。
  6. 国際協力の推進。

 こういったものを、推進していきます。

 特に「人権教育のための国連10年大阪府前期行動計画」にくらべて、充実をはかった部分は、参加体験型学習のより積極的な導入ですとか、カリキュラムの開発、大阪府の研修体制の充実などです。

《3.今後の課題》

 「3今後の課題」に入ります。これが、今回、一番、重要な部分になってくるかと思います。これはレジュメに示した通り、(1)人権教育の推進、(2)人権擁護に関する施策の具体化の検討、(3)推進体制の整備、です。

 私どもの人権室の人権企画の方は、今年の4月に改組いたしまして、人権企画グループと教育啓発グループ、人権推進擁護グループへ、グループの再編をおこないました。

 人権企画グループは、条例・基本方針等、いわゆるコーディネート機能等をおもに担当するグループです。教育啓発グループは、人権教育のための国連10年行動計画ですとか、具体的な人権教育や啓発の事業を担当するグループです。人権推進擁護グループは、相談窓口などをはじめ、人権擁護の具体化を担当するグループです。それぞれが、それぞれの課題の具体化を検討しているところです。

 まず「(1)人権教育の推進」ですが、先ほどの「人権教育のための国連10年大阪府行動計画」を推進していくことです。おもな内容としましては、人権教育の促進・支援機能の検討、府職員への人権研修の充実を進めております。

 「人権教育の促進・支援機能」につきましては、庁内の関係課をメンバーとし、大阪大学の平沢先生や学識研究者の方を助言者として招き、あり方の検討会を設置して検討しています。

 これまで、人権教育を推進するにあたっての課題の整理とか、必要な機能の整備などを進めています。現在は、人材養成ですとか、調査・研究、情報収集提供、人権教育・啓発の実施、NPO支援、こういった機能に整理し、検討をしているところです。

 「府職員への人権研修の充実」ということでは研修の充実を進めております。この他、将来の体制の整備などについても、取り組んでいます。

 よく意見が出ます警察官職員への研修については、警察部局にも働きかけ、今年度、警察学校の方で、新しく警察官になられた方を対象にした研修で、私どもの人権室の課長が、講義をおこなっております。

 「(2)人権擁護施策に資する施策の具体化の検討」です。これは「人権に関する総合的相談窓口機能の整備」「相談機関相互のネットワークの整備」が、あります。

 先ほど大阪府人権施策推進基本方針の方で「人権擁護に資する施策」の柱を三つ示していました。それは「府民の主体的な判断・自己実現の支援」「人権にかかわる総合的な相談窓口の整備」「人権救済・保護システムの充実」です。

 この三つの柱を中心にすえた具体的な施策の4本の柱方法としては、「人権にかかわる問題で自らの人権を守ることが困難な状況にある府民が、主体的な判断によって問題を解決していくことを支援していくための総合相談窓口機能の整備」「具体的な人権相談を実施している、人権相談を実施している相談機関相互のネットワークの整備」「研修を通じて、人権相談を受ける人材の養成」「相談事例をもとにした相談に関するノウハウの収集」です。こういったことが基本ということで、検討を進めておるところであります。

 「(3)推進体制の整備」ということで、人権室のコーディネイト機能の強化に向けてということで、人権施策推進本部の設置を検討しています。これは、人権室におきましては、推進本部ということで、人権啓発推進本部と、人権教育のための国連10年の推進本部と、2つもっております。この2つの機能を、今回、統合しますとともに、さらに人権擁護に資する施策を、所掌業務に含めまして、人権施策推進本部というかたちで立ち上げていきたいと考えております。

 それから「人権白書のとりまとめ」ということで、人権施策の実施状況を、人権白書としてとりまとめるということが、基本方針の「推進に当たって」というところにあります(資料『大阪府人権推進施策推進基本方針』13ページ)。

 施策の実施状況につきましては、現在、人権意識の高揚を図るための施策、すなわち人権教育のための国連10年行動計画の関連施策を中心に取りまとめております。近い内に、お示しをしたいと考えております。

 人権白書の中では人権侵害の事例などを載せるべきではないのか、ということが、府連(部落解放同盟大阪府連合会)交渉の中で出てきています。総合相談窓口機能などを構築する中で、事例の取りまとめをしていくことなども検討しているところでございます。

 大阪府では「大阪府人権施策推進基本方針」や「人権教育のための国連10年大阪府後期行動計画」を策定し、既存の人権教育を充実していくことはもとより、新たな事業の展開もございますが、あるいは人権擁護の推進が大きな課題になっています。そして推進体制の整備が必要になってくることも、ございます。

 昨日の「大阪府における今後の同和行政のあり方について(答申)」でも、今後の施策の推進方向としては、府民の差別意識の解消や人権意識の高揚をはかるための取り組みでありますとか、自立・自己実現を達成するための取り組みの支援、人権にかかわる相談体制の整備といったことが、示されています。

 今後、順次、事業化、具体化をすすめておるところでございますが、具体的に内容を検討するべきものもあります。特に、大阪府は、非常に財政状況が厳しいので、こういうなかで、施策をやるのは、創意工夫が求められます。

 このプロジェクトにおいて、いろいろな取り組み等で勉強させていたきまして、今後の施策の展開に参考にさせていただきたいと考えております。

 非常に不十分な説明で、わかりにくかったと思いますが、以上です。

2001.09.20に報告されたものです