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2005.02.24
部会・研究会活動 <国際身分研究会研究会>
 
人権条例等の収集と比較研究および提言プロジェクト報告書
人権文化創造に向けて隣保館に求められている新たな課題

楠木 克弘(全国隣保館連絡協議会、事務局長)

「人権文化創造にむけて、隣保館に求められている新たな課題」というタイトルをいただいていたんです。一般対策へ5年前に移行した隣保館に、今、少し横風が吹いています。そういう話も含めて、話をさせていただきたいと思います。

「全隣協結成までの動向」

隣保事業自体は、戦前からあるわけですが、戦後きちんと法的位置づけられたのが、昭和33(1958)年です。ちょうど社会福祉事業法が改正されて、そこで隣保事業の定義がされるということになりました。

昭和28(1953)年に国は、初めて隣保館整備費、隣保館を建てるための補助金を、同和対策というかたちでやりだしているわけです。しかし、なんのために、この隣保館が設置されているかというと、法的根拠もないままできていましたので、当時の全国社会福祉協議会(全社協)が、隣保館を一定組織化していたという経過の中で、全社協の隣保事業関係者会議とか、いろんなとりくみがされているんですけれども、そこからの働きかけもありまして、社会福祉事業法が、5年後(昭和33<1958>)に改正されるときに、隣保事業というのが位置づけられました。

ただ、その隣保事業というのは、「隣保館等の施設を設け、その近隣地域における福祉に欠けた住民を対象として、無料又は低額な料金でこれを利用させる等、当該住民の生活の改善及び向上を図るための各種の事業を行うものをいう」と規定されていました。

だから、昭和33(1958)年に定義された最初の隣保事業というものは、まさに救貧対策としての隣保事業であり、部落差別の解決とかは、いっさい触れられていないというかたちで、作られました。そのあと、国民運動とか、いろんなかたちで、同和対策審議会答申が、昭和40(1965)年に出され、それに基づく特別措置法が出されます。その答申が出されたときに、次のように触れられました。

「対象地区住民の社会福祉を積極的に推進するため、既設の隣保館、公民館、集会所などを総合的見地に立って拡充し、その施設のない地域には新設して、欧米諸外国にみられるコミュニティセンターのような総合的機能をもつ社会施設を設置するとともに」「指導的能力のある専門職員を配置すること」という2つが、提言されました。

1969年の特別措置法が制定されて、当時、200館ぐらいの隣保館が、急速に、運動の働きかけにより設置されてきまして、今で、980館ほどになっています。

ほとんどは、同和対策事業特別措置法の期間に作られたものが多いんです。

特別措置法ができる中で、当時の隣保館というのは、同和地区だけではなくて、いわゆるスラムとか、いろんなところにも建っていて、民間の設置も、わりと有った。しかし、同和地区において、隣保館をこのように拡充して対応する、同和問題解決のためのコミュニティセンターなんだ、という方向を出してきた場合、一定の指針がいるということで、特別措置法は7月10日に施行されていたわけですが実は、同年12月23日付けで、要綱(同和地区における隣保館運営要綱)が出されたわけです。

この要綱を作るときに、厚生省も、突然作ったんではなく、ある程度、答申が出てからずっと厚生省内に研究会のようなものをもって、意見聴取をしながら、同和地区における隣保館運営をどうしたらいいのか、ということを聞いています。

どういうところに聞いてるかと言いますと、兵庫県の宝塚の杉本信雄さんという方が、全国社会福祉協議会の隣保事業に関係されておって、また影響力もあった、ということで、全国10館より意見聴取をし、その経過の中で、同年12月に「要網」が出ます。

全国隣保館連絡協議会(全隣協)ができるのが、2年後(1971)なんです。すでに、昭和44(1969)年の12月23日に第1次隣保館運営要綱が出されたときから、全国の隣保館から、かなりクレームがついていました。どういうことかと言いますと、その第1次要綱と、それから昭和52(1977)年に第2次要綱へと変わっているわけです。どこが、どうかわったかというのは、別紙を見ていただいたら、いいと思いますけれども。

旧要綱(同和地区における隣保館運営要綱)の特徴は、タイトルが「同和地区における」となっていますが、運営主体が「隣保館は市町村が設置し運営することを原則とする」という公設置、公営が必ずしも原則ではない。それを原則にしながら、民間の隣保館もいいですよ、と。それは、現状追認ということもあるわけです。

それから、運営の方針の中に、長期計画をもちなさい、生活向上の意欲を高めるようにしなさい、そして、あとは社会福祉や、各種事業をします、というかたちで、一定当時のガイドラインというものは出されているんですけれども。現場としては、同和問題のすみやかな解決に資することを目的としてはうたっていますけれども、民営の運営とか、事業を具体的にしておらないとか、という点に、かなり批判があったようです。

その後、全隣協が作られまして、10年ほど検討した中で、新要綱「同和対策対象地域における隣保館運営要綱」というものが、出されました。そこで基本的人権の尊重とか、同対審答申の趣旨をふまえるとか、公設置、公営ということが、要綱上にうたわれたわけです。

そして、また、職員配置についても、専任職員の配置というかたちで、ある程度、体制の整備ということも言われてきました。それが、第2次の要綱であったわけです。全隣協も参画して作った要綱が、1977年の4月にまとめられたのです。以降、これが隣保館の運営要綱というかたちで、きたわけです。

4年前に地対協の意見具申が出されまして、基本的には、一般対策へ移行する。隣保館事業については、その段階で一般対策へ移行するということで、特例事業から、はずれたわけです。

そのときの受け皿が、社会福祉事業法になったわけです。その社会福祉事業法は「福祉に欠ける」といった表現があったわけで、その後に、社会福祉事業法が社会福祉法になります。「福祉に欠ける」という表現は、今の時代的な状況に似つかわしくないということで、削除されました。

そして新たに、一般対策としての隣保館設置運営要綱を作るというのが、同和対策対象地域とか、地域改善対策とかという、いわゆる部落問題を冠にかぶしたかたちでない一般対策としての隣保館設置運営要綱ということになったわけです。

今回の改訂で変わったところだけ、紹介しておきたいと思います。

「目的」のところに、一般対策であるということで、法的根拠は社会福祉事業法ということを、うたっています。「その精神に、同対審答申とか地対協意見具申とか、こういうものを踏まえるということ」。一番最初の法律では「同和地区住民及びその近隣」となっていたのを、新法では「歴史的社会的理由により」と変わってきています。そういうかたちで、同和地区を表現しています。

また、一般対策ということで、「旧産炭地域であること等により」の「等」により、北海道のアイヌの生活館も含めて、呼んでいます。だから、同和地区だけではありませんよ、ということで、一般対策として創設しましたので広げました、ということになっています。

新たに「周辺地域を含めた住民交流の拠点となる」ということを要綱上にうたいました。最後に、旧要綱では「同和問題のすみやかな解決に資することを目的とする」というものでしたが、新要綱では「人権・同和問題のすみやかな解決に資することを目的とする」というかたちで、同和問題だけではない、他の問題に対しても、隣保館は対応する、と。

このように、目的が、従来は、地区内の較差是正・自立支援、これを「自立意識の向上」というかたちになっていたんですけれども。今後「自立支援」「周辺も含めた新たな事業展開」「部落問題だけではない他の人権問題にも対応する」というかたちで、新しいかたち作りをしたわけです。

運営の方針

運営の方針ですが、旧「運営要綱」は、とらえ方がおかしいのではないかということで、論議をしました。たとえば、新要綱の運営方針の、一番最初は「地域住民の理解と信頼を得つつ」と書いてあります。旧要綱の目的には「地域住民に対する理解と信頼のもとに」となっています。というのは、隣保事業をするときは地域住民を理解して信頼してしなさい、というスタンスだった。つまり、隣保館側が、地域住民に理解と信頼をもつ、という上からものを見るようなスタンスだった。

新要綱では、そうではないく、隣保事業は地域住民の理解と信頼を得てしなければならない、立場を逆にしなければならないと論議をしまして、そういうことになりました。

事業につきましても、かなり具体化するということで。啓発方法とか、地域交流というものを、頭出しをするような運営要綱になっています。

第5の職員では、旧要綱は「隣保館には、館長及び指導職員を置く」となって「隣保館には、専任の指導職員を置かなければならない」ということで、専任の指導員がおれば、館長は非常勤でもよい、あるいは兼任でもよい、というふうになっていました。長野県などが多かったのですが、同対課長が隣保館長を兼任していて、隣保館には、ほとんどこない、事業ができない、ということなっていました。

新要綱では「館長を置くとともに、館の規模に応じて指導職員を置く」「館長は原則として専任とする」「指導職員も専任」という方向で、条件整備をはかろうということをやってきたところです。

いろいろ、細かい修正部分はあったんですけれども、一般対策の隣保館の要綱を作ったときには、従来の地区内だけを対象とした隣保館運営ではダメだということで、やはり周辺を含めた新しい関係作りに視点を置こう。部落問題を軸に展開をするということになるけれども、他の人権課題についても、隣保館がどのようにかかわりを持てるかという部分を大切にするということで「人権・同和問題の速やかな解決に資することを目的とする」という方向で、要綱が変わった。これで、一般対策に移行したと、厚生省も次官通知を出したわけです。

ところが、若干、最近、風向きが変わってきたということです。それは、特に2001年9月に入ってからかのように感じます。奨学金の論議が国でありました。地域改善対策の奨学金が、一般対策の奨学金に変わりました。いわゆる同和問題を理由に奨学金を出すんじゃなくて、経済的貧困を理由に奨学金を作るという話になりました。ここで「同和」という表現が中央段階で抜けたんです。そうなりますと、そういう論議で意思統一するんならば、隣保館についても「同和」を抜けという悪乗りした論議が、ひじょうに影響力のある方面から出されているようです。だから「歴史的社会的理由により」という同和地区を指定するような概念を抜きましょうか。「人権・同和問題」の「同和問題」も抜きましょうか。「歴史的社会的理由により」ということを抜くということになりますと、「基本的人権の尊重」とか「同対審答申」とか、「地域改善対策業議会の意見具申の趣旨に鑑み」も、枕詞だから抜きましょうか。ということになりかねないという話が、一部には出ております。

結局、先祖がえりみたいな、最初に、提起しました隣保館の旧要綱ですね、「隣保館は同和地区」というのも抜きましょう、と。「社会的、経済的、文化的改善向上」というかたちのみに、なりかねないことになってきています。

今、予算も、いわゆる同和地区を限定としない。今の隣保館も、同和地区を限定とはしていませんけれども。あえて「同和地区を限定としない」と言って、「不良環境地域」を対象にするという論議が出てきています。

そうなると、これから、新しく隣保館のないところ、複数地域の同和地区を抱えておって、周辺も含めて、新たな関係の事業を展開しようとしたら、できるのかと言いますと、そこは不良環境地域ではありません。旧同和地区であっても、不良環境地域でなければ隣保館は対応できないんじゃないですか、という理屈も成り立ってくる恐れがあります。

こういう方向で、横風を受けています。

隣保館事業

一般対策としての隣保館事業については、先ほども申しましたように、新「隣保館設置要綱」が策定されました。

  1. 周辺地域を含めた諸活動の展開(小学校区-中学校区)
  2. 自立支援と周辺啓発、交流活動を通じた館活動の展開
  3. 人権・同和問題の解決に資する施設運営

このように、新しい方向が出されたわけです。

それにともなって、自立支援、人権情報発信、啓発交流と、いうことにともなう3つの事業も作られました。ただ、その事業についての取り組み状況に、かなり温度差があるのが事実です。

今、隣保館で、どのような取り組みが進められているのか。何のために隣保館事業が、どういうかたちで進められているのかということを、事例というかたちで説明します。福祉、教育、生活、就労も含めてやっているわけです。

福祉問題との関係で言いますと、隣保館を拠点とした高齢者への給食サービス、配食サービス。こういう活動が、多くの館でひろがってきています。全国で今、1千館ほどありますが、200館ぐらいで、そういうかかわりがでてきています。

高齢者の生きがいづくり、あるいは各種クラブとか、自主活動、あるいは老人クラブ単位の周辺交流も行われています。

福祉作業所を、隣保館の中に貸し室のようなかたちで、障害者の福祉作業所を支援している活動もあります。イベントとして、車椅子によるタウン・ウォッチングをやりながら、地域の環境整備はしたけれど、本当にバリア・フリーになっているのか。まちづくりのチェックをいっしょにするとか。あるいは介護保険制度とか、いろんな福祉制度が、地域を素通りしないように、そういうものを、十分、周知啓発する、または相談活動をするというようなかたちでの福祉部門での活動とかもあります。

教育については、子ども会、各種講座というものあります。

最近の特徴としては、たまり場づくり。これする、あれする、じゃなく、子どもたちが自主的に集まってくれる。そういうふうな情報交換ができる「たまり場」的な館運営を心がけるというのも、出てきています。これなんかは、子育てとか教育相談とか、ということともかかわって、「たまり場」づくり的な活動が、わりと注目されてきているな、と思います。

生活面にかかわっては、ありとあらゆることがあります。ゆりかごから墓場まで、なんです。やはり、地域の自主活動を育成していこうということで、花いっぱい運動とか、環境美化活動。そういうものを、呼びかけたり事務局となったりしています。

就労支援ということで、各種相談、ハローワークとか。あるいは社協といっしょになってホーム・ヘルパー養成とか、そういう活動もあります。

地域的な交流・文化活動、文化祭、隣保館祭り、啓発フェスティバル等。子ども高齢者等へのパソコン教室。まだまだ限られていますが、NPO等活動への会場提供なども、やってきています。

問題は、隣保館が貸し館を中心にやっているのか、という一方からの批判もあるのですが、やはり住民の自主的な活動を、支援していくことが、これからの隣保館では重要になってくるのではないか。講習、講座をやっていても、マンネリ化、固定化という問題が出てきていますので、やはり、住環境整備がされてきた中で、住民が自主的に何をしていくのか。そういうときに、地域の高齢化が進んでいる中で、ボランティア活動とかという取り組みを支援する。それが、これからの隣保館の「セールスポイント」ではないかな、と思います。あるいは教育にかかわる相談活動、という教育にかかわる自主活動のネットワークの拠点としての役割も重要です。だから、地区内だけの悩みではなく、周辺の人びととのつながりの中で、自主活動がめばえてきて、それを隣保館として活用してもらったらいい、ということが、今、すすめられてきています。

ひとことで言えば、われわれは、福祉と人権のまちづくりのための隣保館活動ということを、キャッチ・フレーズにしています。福祉と人権と言ってきましたけれども、特に最近、地域福祉といわれる中で、福祉=人権ということもありますから、「福祉で人権のまちづくり」ということも、わりと広がってきている傾向としてあります。

特別措置法期限後の状況

ただ、先ほど触れましたように中央と地方で、特別措置法が法期限後を迎えるという中で、どのような状況があるかということを、お話したいと思います。

<1>特別措置として実施してきた財政や人的配置の見直し・削減をしているところがあります。具体的に申しますと、国の運営費、補助金というのは、大型館で約1千200万円、普通館で約670万円が補助基準額です。その内わけは、国が2分の1、府県が4分の1、市町村が4分の1、というのが一般対策としてできています。以前は、国が2分の1、市町村2分の1だった状況がありましたので、県とか府が独自加算をやってきたことがありました。今、5年間の経過措置の中で、一般対策として、国の補助基準制度にあわせるということで、県とか府は独自加算をしてきたものを段階的に削減することが進んできているところがあります。

それと、財政当局の方からは、先ほど言いました新規事業の関係もあるのですが、あまり新規事業に対して予算をつけない。これは館長自体が嘱託館長であるとか、決裁権をもっていないところなんかは、要求しても財政が厳しい状況の中で押さえられています。そこらへんが、特別対策と一般対策との関係の再確認が必要なんですけれども。従来的な面から見ますと、削減の方へ向っているグループが、若干、出てきます。

<2>さきほどの倉吉の報告にもありましたけれども、積極的に基本計画を作って、国際的な人権潮流の流れも踏まえながら、積極的に、隣保館というものを新しく見直していきましょうという動きで、動いているところもありますが、まだまだ数としては、限られています。多くの隣保館は、ようすを見ているところというのが現状です。

<3>今後の自治体の方向は3つに分けられます。

  1. 施策の廃止……国の動向が、かなり大きな影響を与えると思いますが、運動団体によっても、出てきています。一応、全解連系の地元では、もう隣保館もやめましょう、国の補助金ももらわないでおきましょう、隣保館は公民館か集会所に切り替えましょう、というようなところがあります。具体的には、和歌山、岡山の一部に、そういうところが少し出てきます。法期限後、そういう傾向が、若干出るんではないかな、と思います。
  2. 施策の継続……これが一番、多い動きです。地域も含めて、事業展開をすることは、必要だと。地区内だけでは、これからはダメだ。周辺地域との関係を見直し、名称も、たとえば解放会館とか隣保館を、愛称的なかたちで、参加しやすいような敷居を低くする名称をつけようとか、いうかたちで動くのが、わりと多いだろうと思います。
  3. 積極的な新たな事業の展開……住民の自主活動とか主体的活動を支援する動きもあります。いままでは隣保館が何をするのか、だったんですが、これからは隣保館をもっとうまく使ってもらうという方向でのしくみを考えていく。こういう方向で、論議はしているんですけれど、なかなか動きにくい。動きにくい状況が、今の中央段階での論議で、たぶん、12月の予算が決まる中で、年内をめどに問題になるだろうと思っているわけです。地方自治体としては、一番、課題になってくるのではないかと思います。

今後の課題

<1>それは、「地域指定が解除される」いうかたちの中で、さきほど言いました大型館、普通館というのも、補助金額がちがうわけです。そのちがう根拠はなにか、と言ったら、隣保館が建っている、あるいは対象となっている同和関係世帯数なんですよ。130世帯より上か下かで、大型館か普通館かが分かれています。その130とかぞえる根拠さえなくなるわけです。国の今ある論議からいきますとね。そうなると運営費も含めて、高い方にあわせるのか、低い方にあわせるのか、ということが出てきます。

地域指定の解除は、特別対策としてやってきた地域指定だから、別に部落だけを地域指定をしているわけではなく、ものすごく広く地域指定をしているところもあるんですけれども。ま、そういう手法は、とらない。というかたちでやった場合、隣保館が、たとえば10戸20戸の部落であっても、周辺の小学校区、中学校区を対応するのなら、大型館として対応しなければいけないし、そういう予算制度が、今年の厚生省の概算要求にはなっているかどうかで根幹が変わろうとしている。

<2>同和地区、「歴史的・社会的理由に基づく」うんぬんというのを言わないようにする。そこで、問題になるのは、法期限後の同和行政の総合窓口がどうなるかわからないままに、厚生労働省の所管の隣保館に対する風当たりは、ひじょうにきつくなってきているというのが現状です。

われわれとしても、判断を、いますぐはできないですけれども。隣保館が、地域福祉や、社会福祉というかたちを中心に啓発とか交流とか進めているこのスタンスを、このまま継続していくのがいいのか。もっと、幅広い人権への対応というかたちで枠組みを変えていく方がいいのか。そういう点が、隣保館運営においても、問われるんじゃないかなと思っています。この点について、みなさん方からできたら、ご意見をいただきたいなと思います。

次に、隣保館から見た地域課題です。これはよく言われることですが、特に周辺を含めた福祉と人権のまちづくりということで、地区内外の意識変革の課題があります。たぶん倉吉市でもあったんだろうと思うんですが、隣保館を周辺に広げることに対して、これは自分たちが今まで運動で作ったんだ、と。そういう広げることに対して、ひさしを貸して母屋を取られるのではないか、というふうな、特に地元の中の意識がときどき出ることがある。そうじゃない、差別をなくしていくためにも周辺とどういう関係作りをするのか、ということが、ひじょうに重要だと思います。ただ、何のために、それを開いて、どういう地域作りをするのかということを、リードする人がいないとダメです。これは、運動体が大きな役割を果たすだろうし、また隣保館の方からも、そういう対応が求められるています。

若干、表現はまずいかもわかりませんが、一般競争社会に「対応(通用)しうる力」、これを一方では「生きる力」と言うのかも分かりませんが、専門技能の修得、デジタルデバイド(情報較差の問題)等の解消が必要です。これからの社会で、ひじょうに問われる技能だと思うんです。そこらへんに対しても、隣保館が独自でするというのでは、限界がありますので、関係機関とともに、今、何か地域のニーズとして、地域ということはもう少し広いんですけれども、隣保館を活用しながらどうしていくのか。そういう意味では、パソコン教室なんかをやると、ひじょうに人気が高い。また、ニーズ的にも高いというのがあります。

地域内の隣保館では、高齢者用のパソコンをやっているという、ひと味ちがうような、やり方をやっているところもあるようです。切り口が、公民館でやるパソコン教室と、隣保館でやるパソコン教室がどうちがうのか、ということも含めて考えながら、デジタルデバイド問題、あるいは若手の専門技能習得、ということに対応していくことが求められています。特に専門技能といいましても、学校教育、専門学校等で、そういうスキルを付けていくグループと、高校中退、フリーターというかたちでしている人たちを、もう1度、館なんかを活用しながら、一定の技能習得をするということも、必要になってきていると思います。

今後の方向

<1>隣保館が、これまでの「格差是正」というところに力点をおいたエンパワメント施策をやっていたのを、これからは、地域内外の「相互理解・交流」から、もう1度関係作りを見直すということが必要です。

<2>同和行政といわれても、「部落対策行政」に近かったと思うんです。そういうものを、いろいろな人権施策、部落差別をはじめ他の人権課題に対しても、対応できるような「差別撤廃・人権行政」へ。そういう本庁全体の行政施策と隣保館との関係の整理が、今後の方向の2つめです。

<3>「困窮救済」から「自立支援」へ。もちろん地域の中で、経済的に苦しい、困窮の方もおられますけれど、それのみで対応していると、隣保館にこられる方は限られる。そういう意味では、生きがいも含めた「自立支援」が必要です。そういうシフト変えをしなければならない、ということで、内部では論議しています。

同対審答申が出て、もう41年ほどになるわけです。同対審答申の中では、「欧米諸国に見られるコミュニティセンターのごとき総合的施設をもつ社会施設を設置するとともに、指導的能力のある専門職員を配置する」と提起されていたわけですが、現実は、どうかという問題があります。設置数は、200ぐらいから、いま、1千、5倍になりました。しかし、その活動内容においては、大きな温度差、利用較差があります。それから「指導的能力のある専門員の配置」ということは、この定義自体あいまいだったんですけれども、行政職員は3年ぐらいで交代していきます。ほとんど、地域の方たちと顔なじみになって、これからやろうというときに、異動ということで。これでは、プロパーのようなかたちで、その地域とともに、こういうまちづくりをしたい、隣保館をもっとうまくしていきたい、という職員が育たない。これは、公設置、公営という中で、どういうように考えていくべきなのか、ということがあります。

今、何点か、申しあげました点について、データで紹介したいと思います。

まず、「全隣協 第4回役員・理事会議 要望決議」というのを見てください。これは、内と外の両方に、要望をした決議なので、切り口が曖昧なところがあるんですけれども。

<1>には、これまでの隣保事業を後退しないように。それぞれの条件整備を、引き続きおこなおうということを求めています。

<2>は、国の状況として、「人権・同和問題の解決に資する隣保館」という文言がどのようになるのか。要綱上で、一番、焦眉の課題となっています。結論は、まだ出ていません。一方で、「同和」を抜くという流れが、強くなっています。

<3>最後は、府県レベルでの事業着手への格差が大きいので、新規事業への積極的な着手のための支援策を働きかけようと言っています。

事業執行状況

平成12(2000)年度、隣保館事業執行状況一覧表を見ていただきたいんです。ベースは、980の館を対象にしています。

隣保館デイ・サービス事業、77。これは補助金の枠が70ぐらいしかないなかでの77ですから、よく使われている方です。これは、わりとニーズが高くなっています。しかし、ひじょうに府県的なバラツキが多くなっています。

いわゆる東日本が、いろいろな事業の取り組みの弱さが、われわれとしても課題となっています。

「地域交流促進事業」というのは、休日に館を開けるとか、あるいは交流事業を積極的に進めるということに対する補助金です。これは、休日でも600、交流でも600の枠があります。合計1200の枠があるわけなんですけれども、使われているのは半分です。

「継続的相談援助事業」。これは地域の高校中退者とか、高齢者の問題、就労対策、こういうことに対して相談事業を強化していこうということで、作られた事業です。補助金額が50万円程度と低いこともありまして、使い勝手が悪い。全館対応できるんですが、メニュー事業ということで、利用は300もありません。

「広域隣保事業」。これは、隣保館のないところで、少数点在の部落で、公民館とか集会所が、隣保事業をする場合、人件費をもちましょう、という施策です。だいたい50ぐらいの枠があります。これは、段階的に増えてきていますけれども。このように、ひじょうに府県による温度差が大きいのが現状です。

友永 単価は、いくらくらいですか?
楠木 276万円ぐらいです。
友永 デイ・サービスの単価は?
楠木 デイ・サービスは、254万円ぐらいです。そして、これは142平米までの増築もできます。
友永 ただし70件が、枠ですね。
楠木 はい。

今、年間の隣保館運営費の補助額が、85億円。そして施設整備費関係が、30億円ほどです。両方あわせて115億円ぐらいが、一般対策に移った隣保館整備と運営予算になっています。

こういう状況ですので、われわれの問題意識は、隣保館の活動は、これまで西日本を中心に情報発信をしてきました。西日本には、大型館が多いわけです。

資料に「2000年度全隣協加盟館数表」があります。全職員数4153名、そのうち市町村職員、正規職員数は、2800名。それ以外が、いわゆる定数外、いわゆる嘱託とか、臨時職員とか、そういうかたちです。国の出している補助対象人員は、1500人ほどです。だから、2倍半ほどの職員が働いています。国の基準で言えば、大型館は2名分の補助金。普通館が、1人分の補助金です。今の館の平均は、4.2人です。実態に合わないのです。よく言われるのは、そういう人的補助を出すこと自体が、国としてはむずかしくなってきているということです。これは、公民館とよく比較されることです。

相談員とか指導員という位置づけの下で対応しているのが、現状です。今後、隣保館が、交流をするとか、いろいろな啓発事業をする場合、(職員の)専門的な技能を研修というかたちで、まかなうのも1つですが、それだけでは3年周期の人事異動状況の下では、ひじょうにむづかしくなってきているように思います。

論点

<1>今後、隣保館運営、特に、事業実施主体をめぐる論議が高まるのではないか、ということです。また、われわれも、これを、きっちり押さえておく必要があると思います。

30年ほど前に、隣保館運営をめぐって「公設置・公営」か「公設置・民営」かの論争がありました。大阪市の住吉(地区)の住田利雄さんが「公設置・民営」論。高知県が「公設置・公営」論でした。いわゆる公的責任を果たすためには公営でなかったらあかん、と。こういう論議がかなりあった。最終的には、公設置・公管理・民営です。この方向を、住吉(地区)なんかは、打ち出していった。

これからは、公的責任をふまえながら、民間の手法というものを取り入れないと、なかなか動かないのではないかと思われます。それが、さきほど申しあげたことですが、公務員を配置していたら3年、5年と長く置けないという状況があります。

 今後、特に、先日の全研(部落解放研究第35回全国集会)で聞いていますと、解放同盟の方から、地元でNPOを作ってやっていこう、という発言もありました。具体例をあげると、和泉のダッシュとか、高知の「人権ネットすくも」というのが出てきています。地元のNPOで啓発をしようとか、地域福祉をやろうとか、というかたちで、隣保館事業の一部を請け負いますよ、というかたち。そこへ、一方では、行革で国なり自治体の負担をどう減らすかという話が出てくる。これを、どのように考えていくのか、ということは、ひじょうに重要になってくるだろうと思います。

今の要綱は、「公設置・公営」を原則としています。しかし、「公設置・民営」ということになりますと、場合によっては、隣保館の払い下げということが、起こりかねません。いわゆる公設置・公管理・民営という話にいく前に、公設置どころか、払い下げということになりかねないのです。

隣保館が、いろいろと同和対策というかたちで作られてきたけれど、これからは周辺も含めた、いろいろな障害者団体とか女性団体とかも含めて、うまく隣保館を活用していこう、といったときに、「地元の区長が、これを管理している」とか「職員は、いません」とか、あるいは、いたとしても非常勤でいるだけだと、これまで取り組んできた成果が、大きく後退する。という気がします。

そういう意味では「公設置・公営」のメリットとデメリットを考えながら、民間の手法を入れていくというのが、今のひじょうに重要な課題なのです。

ただ、和泉のダッシュや「人権ネットすくも」のように、NPOを作ってやっていこうというのは、運動団体としてもワークシェアリング的な意味があるんですよね。公務員を1人置くよりも(NPOの)若い職員を2人おくというふうな。そういうワークシェアリング的な意味でNPOで主導するということも、あるなと思います。ある程度、そういう民間の手法を含めながら、隣保館が新たに生まれ変るというのも、発想の転換だろうと思います。そこらへんを、どう考えたら、いいのかという課題があります。

特に女性センターなどは、府県レベルで設置されますけれども、地域に密着した施設というのは、なかなか、ないだろうし。一方、障害者の関係であれば、民が積極的に設置して、公の施設面での整備を働きかけるということがあります。こういう面での隣保館事業をどこが設置するのか。どういう組み合わせの中でしたらいいのか。今後、大きな論議になるのではないかと思います。

<2>職員の技能を高めていく。研修事業とともに、関係機関との連携が必要です。社協の職員、保健所、保健会館とか、保健医療にかかわる人を、うまく館事業に引っ張ってくる。そういう関係をもたないと、そこ(隣保館)に配置することが、むつかしいと思われます。そういう関係づくりを、きちんとする必要があります。

これは、継続的相談援助事業ということで、対応するときには、そういうネットワークをもちなさい、ということになっています。先ほど言ったように3分の1ぐらいの対応状況になっている。ここに力量ということと、地域差が大きく出ていると考えています。

<3>厚生省が、育ててきた隣保館です。今後の1つの流れの中で、厚生省という枠の中でいることが、いいのかどうか。人権施策推進審議会の出してきているいろんな流れ、あるいは国際的人権潮流の中で、相談事業とか啓発事業とか、救済機関につなぐ仕事とかということを含めた新しい人権行政の枠の中で、隣保館がどう位置づくのか。そういうことも含めて考えていく必要があると思うんですけれど。しかし、踏み出したらどことつなぐのかといったら、地方自治体もはっきりわからない状態です。中央段階でもまだ動きが決まっていません。

啓発をやるなら、隣保館だけでは限界があります。人権啓発とか言っても、隣保館があるのは、関東から西です。東北とか北海道では、人権啓発をやるのも、弱い。こうなったときに、新たに作るといってもできないので、やはり公民館活動だろうと思います。

私たち全隣協の立場から、全公連(全国公民館連合会)という組織に、何回かアプローチはしているんです。西日本からでも、まず、公民館との連携をきちんとしていくことが、啓発の点では重要かな、ということになっています。

今、12月概算要求で、予算が確定する中で、同和行政自体の枠組みが大きく変わる中で、要綱改訂まで、横風を受けてきていることを聞きまして。実際のそのことについて、調整をしているわけです。以上です。

2001.11.09に報告されたものです