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2005.02.24
部会・研究会活動 <国際身分研究会研究会>
 
人権条例等の収集と比較研究および提言プロジェクト報告書
三重県における人権行政に関する調査報告

友永 健三(部落解放・人権研究所)

1.条例と計画について

<1>条例制定の発案、その時期、関連文書

 条例制定の経過については、三重の場合は「人権宣言」を1991(平成2)年3月にやっていました。1996(平成8)年11月に、いろいろな機能をもった建物、人権センターがオープンしています。

 後ほどふれますが、三重の人権センターは、全国の人権センターの雛型になっています。あらゆる意味で、総合的な機能をもったセンターです。

 条例が、その上で、1997(平成9)年6月にできました。

 北川さんが1995(平成7)年から知事になっていますので、北川さんの時代にできたということです。

<2>条例制定にける市民の参画の程度、内容、顕著な効果

 この条例は、知事の理事者提案の条例でありましたが、一応、1995(平成7)年に有識者の懇話会を設置し、そこから提言を受けたというかたちを取っています。あとは、解放同盟が、かなり大衆運動をやり、書名を集めて提出しています。

<3>議会の反応、審議の経過

 基本法制定実行委員会、あるいは市長会、市議会長会、町村会、町村議長会、商工会議所連合会など10団体で連名の「条例を作ってもらいたい」という請願が出され、採択されています。

 1997(平成9)年6月議会に出されました。共産党の議員が反対しました。

<4>職員の反応、施設の反応、地域社会の反応

 条例を作った効果を、一応、3点あげています。1)市町村における人権の取り組みを盛り上げることにつながった。具体的には市町村段階でも、条例を作ろうと県が音頭をとってやっています。そういうこととつながっています。2)県民への啓発効果があった。3)三重県内部で予算を確保するときに、条例があることで予算が確保しやすい。

2.条例の基本的理念に関連して

<1>条例の独自な特徴

 三重の場合は、人権の社会づくり条例です。条例はいろんなパターンがありますけれども。人権尊重社会を作っていくということで、具体的には審議会の意見を聞いて、基本方針を定めていくスタイルをとっています。

 審議会については、ジェンダー・バランスを条例の条文の中で入れています。「男女のいずれか一方の委員の数は、委員の総数の十分の四未満にならないものとする」(条例第7条 審議会の組織等)と規定しています。実際、選ばれた委員も、これが守られたかたちになっています。

<2>総合計画、人権基本計画との体系性

 総合計画としては、「三重のくにづくり宣言」(1997〜2010)というのがあります。それをどのように実行しているかという「三重のくにづくり白書」というのがあります。これを、もらってきています。

 それの基本計画の一番目に、「人権の尊重」というのが入っています。だから、県全体の総合計画の一番柱に「人権の尊重」があって、それを具体化するために、この条例があり施策があるというかたちをとっています。

 条例を具体化するための計画は、第1次(1998−2001)、第2次(2002−2004)があります。現在、第2次推進計画が作られています。これの特徴は、数値目標が盛り込まれています。これは、あまりないパターンではないかなと思います。

<3>他の人権関連条例(女性、子ども、高齢者、障害者など)との関連性

 2つ、関連条例があります。1つが「男女共同参画推進条例」が2000年10月にできています。北川知事の1つの目玉がバリアフリーということなので「三重県バリアフリーのまちづくり推進条例」が1999年にできています。これは主として、まちづくりのハード面のバリアフリーを重点にした条例です。

<4>人権とまちづくりの関連

 「三重県バリアフリーのまちづくり推進条例」でハード面をやって、人権の条例でソフト面をやるという、どちらかというと教育・啓発をやるということで、両方でセットになっているという位置づけだと思います。

<5>人権と民主主義の関係

 この質問は、あまりにも一般的すぎて、応え方に困られたみたいです。

 いろいろ話をしている中で、三重としては、1)情報公開については原則公開ということで、かなり公開をやっておられるらしいです。2)いろんなことを県で決める場合、パブリックコメントを求めるということで、かなり積極的にパブリックコメントを求めているそうです。3)委員などを選ぶ場合、公募の委員の参画を図ることに力を入れている、と言っておられました。

3.責務規定に関連して

<1>国、都道府県、市町村の関係

 国については、県の条例で責務規程をうたうことはできませんので、県は市町村に対して、県が実施する人権施策への協力を求め、県は市町村が実施する人権施策について必要な助言・支援をおこなうということです。

 実は、最初作りましたときは、まだ地方分権一括法が通っていなかったときなので、「市町村は県に協力しなければならない」という、かなりきつい表現がありました。地方分権一括法が通った段階で、条例を改正し、対等な協力関係の表現に改めています。

<2>市民の協力義務

 努力規定ですが、「人権侵害をしてはならない」という規定はあるんです。

<3>企業の協力義務

 「県民等」の中に企業が含まれるという考え方を取っておられます。罰則は、ありません。

<4>協力義務違反の制裁は、設けていない。

 なお、三重県下では近年悪質な差別事件が多発しています。これについては、あとでふれます。

4.推進体制に関連して

 三重県は、ひじょうに特徴があります。

<1>人権関連部局のネットワーク(幹事会など)、兼務職員の有無

 知事部局では、生活部の中に人権同和チームがあります。これが、とりまとめの事務局で、7人おられます。三重県の場合、各部局が、教育委員会も含め9あります。そこに、人権特命担当監という専任を置いています。ここが特色だと思います。他のところ、大阪府の場合でも、他の部にも担当の方がいますが、基本的に兼務職員です。

 生活人権同和チームのメンバーと9名の人権特命担当監が月2回、定期的に会合をし、総合性をはかっています。ここが、三重県の特徴です。今後、参考になる点ではないかな、と思います。

 もう1つは、県の出先機関、三重県の場合は「県民局」といいます。県を7つのブロックに分け、7県民局を人権啓発特命担当監を置いています。これは生活環境部長が兼務しています。三重県の場合は、県民局にかなり権限を委譲し、予算も持っています。それぞれ県民局の中にも部長がおり、他の部長、他の部との調整をはかり、人権行政なり同和行政の総合的な調整をやっているということです。この県民局を、かなり活用しているのも、三重県の特徴ではないかな、と思います。具体的には、人権センターが7県民部局の人権啓発担当監を招集し、差別事件、人権のまちづくりについての情報交換をやっているということです。

<2>人権施設の実情

 人権についての施設は、2つあります。三重県人権センターと、三重県男女共同参画センターです。

 三重県人権センターの特徴は、県立県営であることです。第3セクター方式、財団方式をとってないことです。今のような金利の低いときを想定していたわけではないでしょうけれども、これを財団方式でやっていたら、えらいことになっていた、ということです。体制は、職員12名、非常勤職員3名、嘱託職員4名です。

<3>職員の研修

 これも、かなり三重県は特色があると思います。階層別研修、全職員を対象にした研修は、どこでもやっていることです。

 それに、2002(平成14)年度から人権啓発研修プロジェクトクループに4名の専任をおいています。この人たちが、課長補佐級を対象に、1日研修をしています。だから、課長補佐を集め、朝から晩まで1日中、参加型で人権研修をやっているわけです。これは、他にはないと思います。

 また、三重県では独特な呼び方があり、チームとは課のことです。各チームに人権啓発推進員を365名を置いています。職場の仕事と密着したかたちで、研修をやっています。これも、特色のある取り組みだと思います。

<4>施設相互のネットワーク、県施設と市町村施設の関係

 これは、三重県は、それほど進んでいるわけではありません。四日市市と桑名市に、人権センターが設置されているぐらいなので、今のところ特段に人権センターの連絡会議などはやっていないと言っていました。

<5>施設の利便性のチェック、利用状況

 三重県人権センターは、津市から1キロメートルぐらいのところにあります。利用者は、年間2万7千人ぐらいです。

<6>条例推進の審議会、市民参画の状況(公募の有無)

 条例の審議会は、設置されています。年最低1回はやっているということです。

<7>他の関連機関(人権擁護委員、女性室、労基局、警察など)との関係

 人権擁護委員連合会との関係は、率直に言ってあまりよくない、そうです。なぜかというと、あまり期待していない、役にたたない、ということです。だけれども、なんとかせないかんな、という書き方になっています。

 男女共同参画チームも別にありますが、これとは連携してやっています。労働基準局とも連携してやっています。差別事件、特に落書きがでてきますので、警察との関係が出てきます。

<8>弁護士会、その他のNGO、NPOとの関連性、協議の有無

 弁護士会では、法律相談をやってもらっています。

 NGOのところで特色があるのは、「反差別国際運動Mie」という団体ができています。反差別国際運動の下部組織ではありませんけれど、反差別国際運動はこれからの解放運動にとって大事なので、三重版を作りたいということで、この団体が作られました。これを県が、支援しています。

 三重県人権問題研究所が、できています。これも、県が支援しています。

 NPOについては、解放同盟などが中心になり、今、どんどん作られています。23ぐらいのNPOがあると言っていました。これを、支援しているということです。

5.啓発、教育に関連して

<1>教育委員会の対応体制

 人権・同和教育チーム、つまり人権・同和教育課ですが、が23人。かなり充実した体制を持っています。いわゆる社会教育と学校教育の両方を担当し、やっているということです。

 人権教育推進特命担当監

 これが知事部局の人権・同和チームが招集して、各部局に専任の担当者を置いているものです。これは、教育委員会にも置かれています。

 教育委員会の中に、大きく5つの分野があるようです。ここに17人の人権啓発推進員を教育委員会サイドで置いているということです。この人たちが、職場の実態に見合ったかたちで、取り組みをしているということです。

<2>学校教育における人権教育

 学校教育における人権教育が取り組まれていますが、差別事件が相次いでいます。

<3>教材の開発、調達の状況

 これに、かなり力を入れていると思います。

 今、回覧しますが、三重県の場合は、「三重県人権教育基本方針」と「三重県同和教育基本方針」と、両方とも持っています。これに基づいて、1999年と2000年の2年間かけて、全教職員を集め、研修をやりました。

 「三重県人権教育基本方針」に基づく「人権教育指導資料」を作って配布しているということです。これは取り寄せ中で、きょうは回覧できません。

 アニメの教材を作ったり、教員研修でいろんな質問がでていますので、それに応えるかたちで『人権教育一問一答集』を作って出しています。

 同和教育の副読本に関連したことです。大阪府の場合は『にんげん』という副読本があります。三重県の場合は『せいかつ』という名前の副読本があります。同和教育から人権教育に発展させていくという流れがありますので、現在、改訂しています。2003年度に試作、2004年度から実施ということになっています。

<4>教員研修

 これに、かなり力を入れています。

  1. 学校教育推進事業
  2. 人権教育リーダー養成事業

  これは、三重県の特徴だと思います。部落解放・人権研究所がやっています「部落解放・人権大学講座」というのがあります。これに、毎年6名の小中学校教員を派遣してくれています。知事部局も、毎年2名派遣しています。

  三重県人権問題研究所でも「三重県人権大学講座」もやっています。これにも、小中学校教員並びに教育関係行政職員を15名派遣しています。

 この修了者を活用しようということで、「部落解放・人権大学講座」の修了者を集め、新しい情報を提供し意見交換をする事業もやっています(人権大学講座等修了者区別ネットワーク活動推進事業)。対象は、部落解放・人権大学講座修了者75名、三重県人権大学講座修了者75名、部落問題学習推進ブロックリーダー研修会修了者54名。

 私のヒアリングを受けてくれた人も、「部落解放・人権大学講座」の修了者だったので、やりやすかったです。

6.相談・救済に関連して

 これは、三重県の今後の課題になっていく問題だと思います。

<1>地域における人権侵害事例発見システム

 これは、率直に言って、弱いと思います。

 (1)自然発生的に県にあがってくるとか、人権センターに報告があるというかたちになっています。制度化されたものが、ありません。

 三重県には40カ所ほどの隣保館があるので、その隣保館と人権センターをうまくつなぐ、あるいは隣保館がないところは別の窓口を作って人権センターとつなぐ等の工夫をしていかなければいけないと思います。

 (2)県レベルの人権相談の窓口は、人権センターで開いています。唯一、これがある。職員が2人、相談員2人の4人で担当しています。問題は、専門的技能をもった人が担当しているわけではないので、スキルアップ講座を2003(平成15)年度予算で要求していきたい、ということです。これから、力を入れていくというような感じです。

 国と県が設置する22の相談機関での人権ネットワーク会議は、年3回やっているそうです。注目されると思います。

 構成団体は、津地方法務局人権擁護課、県民生活センター、こころの健康センター、中央児童相談所、女性相談所、知的障害者福祉センターはばたき相談判定グループ、身体障害者更生相談所、人権センター、三重県中小企業労働相談室、人権・同和教育センター、(財)三重県国際交流財団、(財)三重県高齢者総合相談センター、三重県男女共同参画センター、(財)三重県知的障害者育成会事務局長、三重県教育委員会事務局学校教育チーム小中高教育グループ、三重県立小児心療センターあすなろ学園、総合教育センター、三重県解放保育研究会、三重県警察本部警察安全相談室、三重労働局雇用均等室、障害福祉チーム精神保健福祉グループ。

 これは、ひじょうに大事なことではないかな、と私は思っています。ただ、もっとメンバーを増やす必要があるのではないかな、特にNGO、NPOにもっと加わってもらう必要があるのではないかな、と思っています。これは今後、大事な点になっていくのではないか、と思いました。

7.個別の人権領域との関連

<1>福祉との関連

 地域福祉計画については取り組んでいると報告をいただきました。

<2>教育・子どもとの関連

<3>医療との関連

 医療と人権というのですか、患者の人権ということについて、かなり力を入れているということです。

<4>労働との関係

 特に部落問題で、不安定就労の問題があるということで、力を入れている報告がありました。

<5>住宅との関連

 これは、三重県としては深刻な問題です。これまでの同和事業によって建てられた住宅の3分の1が老朽化しています。というのは、三重県は運動が早くから始まったので、比較的早い時期に住宅が建っています。ですから、3分の1が建て替えをしなければならない年限にきています。

 一番の大きな問題は、そこに高齢者が住んでいることです。だから、建て替えをやったら、当然家賃があがります。老い先短いのに、このままおいておいてくれ、という要望が入っている人たちから出ているので、ひじょうに難しい面があります。

 だけど、これは見るからに古いので、スラム寸前のような状態のところがあります。だから、これは三重県的に大きな問題だと思います。

<6>環境との関連

 力を入れているということです。

<7>男女共同参画との関連

 力を入れてやっているということです。

8.調査・研究との関連

 これも、それなりに力を入れてやっています。実態調査も、三重県は定期的にやっている方です。1995(平成7)年に「三重県同和地区生活実態調査」、1999(平成11)年には「人権問題に関する三重県民意識調査」をやっています。来年できれば、三重県同和地区生活実態調査を、もう1回やりたいと言っておりましたが、いまのところ協議中で予算が確実につくところまで行っておりません。

9.評価

 議会への報告と、審議会への報告をやっているということです。

 三重県の大きな特徴は、同和対策委員会というものも、残しています。多くの自治体では、人権条例ができた段階で、同和対策にかかわった審議会を廃止するところが多いのです。しかし、三重の場合は、同和対策について残しておこうということで、審議会は2本立てになっています。だから、人権にかかわった審議会、同和問題にかかわった審議会(委員会)があるということです。

10.人権広報に関連して

 それなりにやっており、報告をしていただいています。

調査について

 私と事務局をやってくれている川口智くんと2人で行ってきました。

 各自治体は財政難で、来年度予算はどうなるのかときいたら、一律3割カットと言っていました。

付属資料についての説明

 資料1「知っていますか 人権が尊重される三重をつくる条例」。これは条例そのものの簡単な解説です。資料2「三重県人権政策推進懇話会委員の意見」。が、条例を作るに至った懇話会の資料です。これから、どんなメンバーが入っていたか、どういう提言が出たかということもわかります。

 資料3が「三重県部落差別をはじめ一切の差別撤廃をめざす条例」制定に関する請願書です。条例を作ってもらいたいという請願書です。基本法実行委員会、各団体、多くの団体をまきこんで条例を作ってくれている運動がわかります。

 次に「三重県人権施策基本方針第二次推進計画(既要版)」です。これは数値目標を作っていますので、ちょっと説明します。たとえば「基本施策の推進」では「主な数値目標」として、「人権問題に関する意識度」の現状は83.1パーセント。これを2004(平成16)年度には85パーセントにしたい、とまります。こういうふうに全部、数字目標を作っています。だから、2004(平成16)年度に85パーセントになっていたら目標が達成できた。なっていなければ、目標は達成できていないと評価はできます。

 これでいいのかと思えるところがあります。「同和問題」の「主な数値目標」として、「部落差別の事件数」をあげています。2000(平成12)年度で24件あったので、2004(平成16)年度には12件にするとなっています。

 これは、おかしいのではないか、と私は言ったのです。なぜかと言うと、差別事件はものすごく複雑な要因で出てくると思うんです。経済情勢の悪化や世の中が反動化していることも言えるだろうし、逆に県民の意識が高まると増える面もあります。そういう面があるのに、こんな数値目標を作って大丈夫か?と言って問題提起をしたのです。あまりにも機械的になり過ぎているのではないか。

 だから、数値目標を設定して取り組むことになじむ問題と、なじまない問題があるのではないか、と思ったんです。ぜんぶ分析していないので、そのぐらいにしておきます。

 同じ資料で「三重県人権センターの概要」についてがあります。かなり多目的にできていることがわかります。

 追加資料<1>には「三重県内の人権条例等の制定状況」があります。53条例ができてます。あと残っているのが18。ただ、条例は作っているが計画が、ちょっと弱い。県としては、条例ができていないところは条例を作るようにやろう、条例ができているところは条例に基づく計画を作るようにしようと、かなり働きかけています。その状況が、わかる表です。

 追加資料<2>には「人権相談内容別件数」手段、及び「人権相談分類」です。ただ、同和問題、心の問題、家庭の問題、職場の問題、行政の問題、法律の問題、子どもの問題、近隣の問題、その他という内容分類は、一貫性がないようで、これでいいのかと思います。とりあえず、このような内容分類をしています。

 手段は、手紙とメール14、電話343、面接85、法律相談117、カウンセリング12で、合計571です。圧倒的に多いのは、電話です。人権センターは津市にあるといっても三重県は広いので、人権センターまで行くのは、たいへんなので電話が多くなることがわかります。

 追加資料<3>は「内容別 社会現場における差別事象数一覧(2002<平成14>年3月31日現在)」と「分類別差別事象一覧(2002<平成14>年3月31日現在)」があります。だから、これは2001(平成13)年度報告だと思います。学校現場は、別に集計しているので入っていません。

 「内容別 社会現場における差別事象数一覧(2002<平成14>年3月31日現在)」では、発言5、落書き8、文書3、就職0、結婚0、行為0、その他0、合計16です。

 「内容別 社会現場における差別事象数一覧(2002<平成14>年12月31日現在)」の表があります。これは2002<平成14>年度の4月からの途中集計です。前年度は1年で16件起こっているのに対して、2002<平成14>年度は4月から12月までで15件も起こっています。ちょっと増える傾向があります。

 追加資料<4>は「学校現場で起こっている差別事件の集計」です。2001(平成13)年度「部落差別事象」は発言22件、落書き4件の合計26件。2002(平成14)年度11月22日現在では、部落差別について発言7件、障害者差別について合計4件、外国人差別について3件となっています。

 追加資料<5>は、今、三重県で起こっている一番深刻な差別事件です。員弁町(いなべちょう)の教育長が新しく採用する教員の面接のときに、通学経路をたずね部落の中を通る通学経路であるとわかった段階で、「怖いところだから、別の通学経路にできないのか」と言ったのです。新しく雇われた教員が、「それは、おかしいのではないですか」と逆にたしなめたという事件です。同対審答申が出る前に起こっていたような事件が、いまどき起こったような事件です。というのは、ここは部落を抱えていない町なので、ほとんど何もやっていなかったんです。

 追加資料<6>は、『2002年度版 三重のくにづくり白書』の一部のコピーです。三重県全体の総合計画の実施計画です。この作り方は、これは北川知事の考え方だと思いますが、すべて数値目標を作らせています。人件費等かかった予算を計算し、費用対効果を計算させています。追加資料<6>には人権にかかわった部分だけを入れています。

 これは人権問題にかかわった意識を調査して、その意識の度合いを数値化し目標を作ろう、という考え方でやっています。同和問題のところでは「結婚において本人がまったく問題にしていなかった割合」は、数値化しても、できないことはないと思います。2002(平成14)年度には20パーセントだったけれど、2004(平成16)年度は26パーセントにもっていきたい、2010(平成22)年には38パーセントにもっていきたい。これが目標です。この目標を達成するために、どういうことをするか、という書き方になっています。

 男女共同参画についても意識調査をやって、調査結果の数字をあげていこうという考え方です。

 以上が、ヒアリングをして報告を受けたものです。

 それを受けて、私自身がどのように考えたのかは、別刷りの分析私案にあります。

分析私案

 

1.条例と計画について

 (1)やっぱり、運動の盛り上がりが基本にあって、出てきたと考えるべきではないのかなと思います。部落解放同盟三重県連合会、「基本法」実行委員会などが、世論形成をして獲得していった。

 (2)条例の作り方としては、知事提案でしたが、いきなり知事が作ったのではなしに、細かい点は懇話会より提言を受けたかたちにとっています。だいたい、こういう審議会があれば審議会、ない場合には懇話会を作って懇話会からの提言を受けるかたちを取ると思います。

 (3)かたちとしては「人権尊重の社会づくり条例」です。県のレベルでは、私の記憶では鳥取県が1番早く、2番目が三重県だったと思います。その後、だいだい作られている条例は、人権尊重の社会づくり条例型になってきていると思います。

 (4)ジェンダーバランスの条文を条例の中に含んでいるのは、三重県のこの条例が1番早かったのではないかと思います。

 (5)条例に基づく実施計画が作られています(<1>第1次<1998−2001>、<2>第2次<2002−2004>)。数値目標を盛り込んでいます。ただし、この数値目標の設定が適切かどうかは、議論の余地があると思いました。

 (6)市町村における条例制定を支援・促進しています。やり方としては、各県民局に600万円の予算をおろしています。その内の300万円は市町村が条例を作る、条例を作っているところでは計画を作ることを支援する予算です。主として関係者の研修費に使ってくれ、ということです(人権行政推進事業)。残りの300万円は「人権のまちづくり」をやってもらうために、関係者の研修に使ってくれと予算を組んでいます(広域まちつくり事業)。これは、他にはないと思います。

 だから、県が市町村の条例づくりや「人権のまちづくり」を支援する予算をもって、取り組みをやっているということです。

 (7)男女共同参画条例(2000<平成12>年)、三重県バリアフリーのまちづくり条例(1999<平成11>年)と、この人権条例と3点セットでやっています。

2.推進体制について

 (1)知事部局では「生活部人権・同和チーム(7人)」が中心ですが、各部局に「人権特命担当監」を9名専任でおいていることです。月2回の会議を開催し、総合的な推進を図っているということです。いわゆる全庁的に、この条例の精神に基づき施策をやろうという人的配置をしている点は評価できるのではないかなと思います。他に、私がきいたところでは、ここまでやっているところはないと思います。

 (2)7県民局でも、人権啓発特命担当監をおいて人権についての総合調整をやっています。<1>差別事件の対応、<2>人権のまちづくりの推進をやっています。

 これは、2つの事業をやっています。「広域まちつくり事業」は、人権のまちづくり事業を市町村レベルでも支援する事業です(各県部局300万円/年)。「人権行政推進事業」は条例をつくって計画を作ることを推進するための事業です(各県部局300万円/年)。

 3.人権センターが設置されている

  1. 総合的な機能を持っています。
    1. 「リバティおおさか(大阪人権博物館)」の小型版で、1階が人権歴史資料館のようになっています。
    2. 2階に各団体の事務局が入っています。たとえば、三重県同和教育研究協議会、三重県解放保育研究会、三重県人権問題研究所、反差別国際運動Mieなどが入っています。部落解放同盟三重県連合会は、この中には入っていません。三重県の場合は、別に事務所を持っています。
    3. 会議室が大・中・小とあり、いろんな意味で総合的機能を持っています。
  2. 12名の職員、3名の非常勤、4名の嘱託職員。
  3. 公設置、公営
  4. 2001年度の利用者、27,000人

4.職員研修に力が入れられている

 悪質な差別事件が起こり、それをきっかけに職員研修に力を入れようということになりました。

  1. 部落解放・人権研究所の「部落解放・人権大学講座」、三重県人権問題研究所の「三重県人権大学講座」へ、システムとしてリーダー養成のために職員を派遣しています。
  2. 各課に推進員をおいています。
  3. 課長補佐級以上を徹底的に教育しようということで、4名の研修担当者をおき、参加型で研修を実施しています。これも、私の知る限り、こういうところはないと思います。

5.教育委員会について

  1. 人権・同和チームが23名います。これも、かなりの人員を配置していると思います。
  2. 同和教育基本方針、人権教育基本方針の両方を持っています。
  3. 教職員研修に力が入れられています。2年間かけて、全教職員を研修しました。
  4. 教材・資料製作に力を入れている。
      人権・同和チームは資料提供をやっています。

6.相談と救済について

 率直にいって、まだ弱いと思います。(1)三重県人権センターでの実施。(2)関係の連絡会議をやっている。

 これだけなので、これから力をいれなければならないのではないか、と思います。

7.課題

 (1)三重県内で、悪質な差別事件が起こっています。1つは、員弁町の教育長自身が差別を起こした事件です。こういった人権がいくつがありますので、本格的に分析し、最終的な着地地点としては、人権擁護法案との絡みもあるのですが、三重県で県として人権委員会を作っていくようにもっていくような工夫もあるのではないか。ちょっと、ひと工夫、ふた工夫しないと、人権委員会設置へはつながりませんが。

 部落解放同盟三重県連合会が、差別事件糾弾を強めようと力を入れていることがあり、ここは1つのポイントです。

 (2)相談については、貧弱です。

  1. 県レベルのネットワークに、もっとNGO、NPOの参加を求めていくことをしないと、今の状態ではいけないのではないかなと思います。
  2. 市町村単位の相談体制を立ち上げ、それとネットワークを作っていくことをしないといけない。直接、津市にある人権センターまで行って相談することは、めったにないと思います。これは、ひと工夫いると思いました。

 (3)評価システムを入れている点は評価できるが、あまりに機械的です。人権行政をやる上での評価システムはどのようにあるべきか、手探りの状態であると思います。このへんを、どういうふうにしたら効果があがってくるのかは、三重県のやっているものも分析しながら、今後の課題として出てきたのではないかな、と思いました。

 (4)三重県の弱点は、県主導型なのです。本当は、市町村主導型の方がよいと思います。結局、三重県の場合は、どこかに拠点を作ってモデルを作って、それを広げていくかたちをとらないと、県主導ではどうしても限界があります。枠組みを作って啓発をすることは県はできますが、実際に具体的な「まちづくり」は市町村単位、小学校・中学校単位になりますから。その単位の動きが出てこないと、本当の意味で条例の精神が生きてこないのではないか、と思いました。

 以上です。

2002年12月21日に報告されたものです