調査研究

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2005.02.24
部会・研究会活動 <国際身分研究会研究会>
 
人権条例等の収集と比較研究および提言プロジェクト報告書
人権条例の現状と課題

友永健三

(1)人権条例の現状と経過

このプロジェクト自体は人権条例をどのように活用するかということでして、中間的に問題意識をまとめさせてもらい、次のプロジェクトにつなげていきたいと思います。

それで、ざっと報告しますと、現状ですね、どこまできているのかということは一覧表に入れておりまして都道府県単位でいきますと、14の条例、11の宣言、市区町村の単位でいきますと739の条例、宣言が944、合計753条例 955宣言ということです。とりあえず1,000条例を目標にして取り組んできているわけですが、753まできているということです。

最近の動きを紹介しますと、2003年3月に栃木県で「人権の社会づくり条例」ができております。私の感触では今後、このような人権尊重の社会づくり条例というのが増えていくんではないかと思います。

それから研究所のホームページにできるだけすべて載せていこうと考えておりまして、7ページに、どこまでそろっているかというのをご覧のとおり書いております。

それから2番目のこれまでの経過ということなんですが、われわれ、ひと言で「条例」と言ってきていますが、いくつかの段階に分かれるのではないか、内容的にもそのことによって違いが出ています。

一番最初は差別事件を踏まえてできた規制条例、さきほどもありましたが「大阪府部落差別調査等規制等条例」ですね、ができております。

2つ目に、こういうブックレット「足元から部落解放を実現へ」というのを出しましたけれども、これを出した時期は国の段階で部落問題についてひょっとしたら法律がなくなってしまうかもわからないという非常に危険な状況がでてきまして、とりあえず足元から部落解放基本法案の内容を実現していこうと提案しまして、条例を作っていった時期があります。

それが1993年ごろからです。それで全国的にトップをきってできたのが徳島県の阿南市で、「部落差別撤廃・人権条例」というのができております。大阪でいいますと、泉佐野市がトップでここは部落差別をはじめあらゆる差別の撤廃ということでできています。それで、阿南市の条例と泉佐野市の条例は内容的にかなり違います。どこが違うかというと、阿南市のほうは部落差別撤廃というのが90%くらいなんですね。人権というのは付け足したというくらいで具体的にはプライバシーの保護というのが頭にあります。一方、泉佐野市のほうの条例は、あらゆる差別の撤廃ということで、民族差別、女性差別、障害者に対する差別云々という流れです。

3つ目に、鳥取県が一番先例をきってくれたんですが1996年に「人権尊重の社会づくり条例」ができました。だいたい、最近になるにしたがって、この鳥取県が創り上げた形の条例が増えてきていると思います。

あと、ちょっと特徴としては、他の課題への条例制定が拡大してきているということが言えると思います。例えば男女共同参画条例、子どもの人権にかかわった条例、バリアフリー社会条例など、どこまで人権ということでここの概念によって違っていますが広がってきていることがいえます。

それから内容分類ということでいきますと、規制条例、これは大阪府部落差別規制等条例がそうですし、熊本県等の部落差別調査規制条例などがあります。大阪府の条例は最終的には罰則で担保していますが、熊本県、福岡県等の部落差別調査規制等条例は公表にとどまっています。それから部落差別撤廃・人権条例が徳島県阿南市であり、だいたい徳島県下の条例はこの形をとっています。 それから部落差別をはじめあらゆる差別を撤廃する条例、しかしこれも厳密に分類すると審議会設置を含む条例と含まない条例があります。

次に、人権の社会づくり条例というのがありますが、これも厳密に分類すると、「教育・啓発に限定されたもの」これは奈良県がそうですね、それから大阪府の場合は「教育啓発と、基本的な相談(人権擁護)に限定されたもの」それから「施策まで含んでいるもの」にわかれると思います。

(2)人権条例制定における問題点

成果としては、よくここまできたなと思いますが、750を超える自治体で条例が制定されたということです。それから条例を基に体制を整備するとともに、審議会を設置し、答申を受け、基本方針や基本計画、さらには実施計画を策定し、具体的な取り組みを実施している自治体が生まれてきている。それから、条例に基づき違反した事件に対処している自治体ができてきている。大阪府も部落差別調査等規制等条例は違反事例を摘発していますね。それから、条例を踏まえ市民啓発に取り組んでいる自治体ができている。泉佐野市は毎年研究集会をやっていて研究集会のテーマが条例を定着させようということをテーマにやっています。

問題点としては、条例制定にきわめて極端な地域差があります。例えば近畿でいいますと、京都はまったく作っていません。それから相対的に部落解放同盟が存在しているところはかなりできていますが、部落解放同盟がないところは、たとえば北海道、沖縄などはほとんどありません。こういった地域的な偏りの問題があります。

それから二番目の問題は、条例を作ったところでも、条例が作りっぱなしになっていて活かされていないというのがあります。これが一番問題だと思います。それで、なぜそうなっているかというのを分析しないといけません。また、現状に対応した条例に改正することも必要です。

それから新たな情勢としては、96年5月に地対協意見具申書がでまして、部落差別の撤廃とあらゆる差別の撤廃を結びつけていこうという視点を出しているということと、去年の3月に地対財特法が期限切れになっていること、それから地方分権一括法が2000年の4月から施行されています。また2000年12月に人権教育・啓発推進法が公布、施行されていること、それからこのプロジェクトのテーマにもしましたが市町村合併がある程度動き出しているということ、それから地域福祉計画が2003年から本格的に施行されているということ。また、開かれた学校づくり、学校評議会という考え方で地域とのつながりを持った学校という関係ができています。

次いで、「なぜ活かされていないか」という問題のポイントについては、ひとつは条例というものがどういう意味を持っているかということが本当の意味で理解されていないからだと考えています。ですから条例の持っている意義を、もう一度強調していく必要があるのではないでしょうか。具体的には自治体当局と住民との契約のなかで最も重要な契約である、とか、住民相互の守るべきルールの中で最も重要なルールである、とか、地方分権の時代の流れを踏まえた場合、意義は大きい、とか情報公開との関係で、不適切な財政支出をやっていましたら、裁判に訴えられた場合、負けていくおそれが高いですね。ですから条例を根拠としていく必要性があります。それから日本が締結した国際的な条約の具体化としての意義もある。条約というのは国しか拘束していないと思っている人が多いようですが(ちがいます)。それから、国の法律の具体化であるとともに国の法律の制定を促す意義もあるということで、このように、この条例の持つ意義というのをもう一度強調したいと思います。

(3)今後の課題

今後の課題としては、情報の集中と共有、今のところ、「これを見たら全部条例がのっている」というものがありません。せめてこれは研究所のホームページでやりたいと思っております。

それから条例をふまえた、基本方針、基本計画、実施計画等を策定しているか、という調査、これをやっていかなくてはいけないのですが、「人権年鑑」というのを研究所が作っていまして、中川先生がこれを担当してくれていますので、次回のプロジェクトの会合のときに報告してもらおうとおもっています。どの程度、条例を活用して作られているかという問題です。

それから、定期的な経験交流会の開催、これをいよいよやっていかなかったらだめではないかと思います。昨年6月、鳥取県が呼びかけて、条例をつくったところを集めて研究集会をやってくれましたけれども、できれば毎年、もしくは2年に1回くらいやっていったらどうかな、と。で、人権条例自治体連絡会議を作っていくということを視野に入れてやっていったらどうかなと思います。

それからあとは、条例ができていないところに関しては「作ったほうがいいですよ」と働きかけていきたいということと、条例を制定された自治体では、条例の具体化を目指していくということですね。

条例制定以降の総括も必要です。条例の充実が必要な場合、改正も求められています。それから条例をふまえた体制整備、それから実態調査ですね。

それから審議会を開催して答申のとりまとめを求める、条例および答申を踏まえた基本方針、基本計画、実施計画を策定する。

人権のまちづくり、地域福祉計画、開かれた学校づくり等と結合していく、ということですね。

それから、条例の普及・宣伝ということをもっとやっていく必要があると提案しています。

今年はちょうど世界人権宣言55周年ですので、もう一回目標1000を目指そうということでキャンペーンをやっていきたいな、ということと、国際的な連携をやろうと前から思っておりますので、こういうことも視野に入れていったらどうかと考えております。

具体的にはこの定期的な経験交流会開催ということで、ひとつの可能性では香川県がいいのではないかと思っております。これはまだ思いつきの段階ですが、香川は県も条例がありますし、坂出市をのぞいて、すべての自治体で条例を作っています。ここでも報告してもらいましたが、市町村合併をしたところでも条例を継続してやっていますし。ですから香川県と相談して、我々も協力しながら、できたら研究集会をやるよう働きかけたいと思っております。

2002.12.21に報告されたものです