1.はじめに
この間の市町村合併による人権条例への影響度を調べるアンケート調査を実施した。これは、9月30日からの部落解放研究第40回全国集会での分科会報告であるが、今回はその中間集約として報告する。
まず、8月29日現在の時点になるが、全国の自治体数1890のうちアンケートを回収できたのが977、未回収が913ある。回収できたうち、条例なり審議会、計画があるという回答は313、何もないのが664あった。
2.経過
部落差別撤廃・人権条例の取り組みの最初は、大阪府の「部落差別等調査等規制条例」で、1985年のことである。その後、熊本県、福岡県、香川県、徳島県で部落差別調査を規制する条例が制定されている。
次の段階としては、1993年の徳島県阿南市の「部落差別撤廃人権擁護に関する条例」になる。その後、徳島県内の自治体がほとんどこのかたちの人権条例をつくっており、全国的にもかなりの自治体が、このかたちの条例をつくっている。また、同年には大阪府泉佐野市で、「泉佐野市における部落差別撤廃とあらゆる差別をなくする条例」も制定され、このかたちの条例も全国的に広がっており、400ぐらいある人権条例のうち、7割ぐらいが阿南市型か泉佐野市型の条例になると思う。ただし、阿南市は2005年9月に「阿南市人権尊重まちづくり条例」という条例を制定し、当初つくった条例を廃止して「人権尊重まちづくり条例」に切り替えている。
3つめの段階は、1996年の「鳥取県人権尊重の社会づくり条例」制定になり、その後、三重県、大阪府やいくつかの自治体で、この型の人権条例ができており、現在、取り組みとして拡がっているのは、この類型である。
さらに、新しい型の人権条例が鳥取県ででてきている。2005年10月の「人権侵害救済推進および手続きに関する条例」であるが、この条例は、弁護士会やメディアから批判が出され、現在見直しの検討委員会がおこなわれている状況になっている。
3.市町村合併と部落差別撤廃・人権条例
市町村合併が条例にどのような影響を与えているかについては、まず、「廃止された事例」として、知っている限りでは、三重県の員弁町がある。この町では、教育長の差別発言を機に条例がつくられたが、合併をした段階でその条例が廃止されている。
「継続された事例」、これが一番件数が多いと思うが、厳密には2つのパターンに分けらる。ひとつは、吸収合併の場合で、これは吸収した側に人権条例があった場合、その人権条例をつかうというのがある。もうひとつは、複数の自治体が対等合併するときに、それぞれのいいところを集めて条例を作り直したという場合がある。例としては、三重県伊賀市で、ここは合併以前のすべての自治体に人権条例があったわけです。この場合は、「継続された事例」ではなく、「新しく制定された事例」と考えることもできる。
「その他」としては、群馬県太田市がある。太田市は合併した市町の中に尾島町という町があり、そこでは「部落差別をはじめあらゆる差別撤廃する条例」が制定されていた。太田市になった段階で、この条例は廃止されたが、太田市の自治基本条例のなかに、「人権に取り組んできた歴史をふまえて重視していく」という主旨の条文を入れたという事例がある。
このあたりのところを正確に情報をアンケートに基づいて集めて整理をして報告したい、というのが3番目のねらいである。
4.部落差別撤廃・人権条例の持つ意義の再確認
この人権条例の意義を再度確認しておくと、<1>自治体の法律である、<2>住民と自治体当局との最も重要な契約である、<3>住民の中で最も重要なルールである、ということである。さらに、地方分権の時代といわれる今日、自治体の果たす役割が大きくなっているもとで自治体が人権に関して条例をつくるという重要性が増しているということもある。
現在、特別措置法がなくなった段階で、部落問題を解決するいろいろな施策がおこなわれているが、何を根拠にやっているのかが問われてきている。そういった点では、自治体がきちんと人権条例をつくって、それを根拠に施策をおこなっていくということを、明確にしておく必要がある。
また、国レベルでの法律の制定を促すという意義もある。部落問題なり人権問題に関わっては、従来、総理府の中に同和対策室、のちには総務省の中に地域改善対策室、といった総合調整、企画立案する担当部局があったが、現在はない。
さらに、日本は国際人権規約、人種差別撤廃条約等に批准なり加入しているが、これらの国際条約は、国だけを拘束しているのではなく、自治体をも拘束している。国際人権規約の社会権規約の審査の場合、阪神淡路大震災における兵庫県の施策についての勧告があり、ホームレス、野宿者の人たちに関して大阪市に対する勧告もある。
5.今後の課題
今後の課題としては、まず、人権条例がつくられていない自治体が多いので、つくっていこうという呼びかけがある。また、条例をつくっているところでも十分活用していない自治体が少なくないので、審議会の開催や定期的な実態調査の実施、計画に対する見直し、等を呼びかけていく必要がある。
さらに、人権条例が制定された自治体の国内でのネットワークの組織化に加えて、国際的なネットワークも検討していく必要がある。具体的には、国内では都道府県別や全国的ネットであり、国際的にはユネスコが提唱している反人種主義・差別撤廃都市連合への参加である。
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