調査研究

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2006.11.16
部会・研究会活動 <人権条例・人権のまちづくり研究会>
 
人権条例・人権のまちづくり研究会・学習会報告
2006年08月30日
人権条例の制定の現状と今後の課題(中間報告)

友永健三(部落解放・人権研究所所長)

1.はじめに

  この間の市町村合併による人権条例への影響度を調べるアンケート調査を実施した。これは、9月30日からの部落解放研究第40回全国集会での分科会報告であるが、今回はその中間集約として報告する。

  まず、8月29日現在の時点になるが、全国の自治体数1890のうちアンケートを回収できたのが977、未回収が913ある。回収できたうち、条例なり審議会、計画があるという回答は313、何もないのが664あった。

2.経過

  部落差別撤廃・人権条例の取り組みの最初は、大阪府の「部落差別等調査等規制条例」で、1985年のことである。その後、熊本県、福岡県、香川県、徳島県で部落差別調査を規制する条例が制定されている。

  次の段階としては、1993年の徳島県阿南市の「部落差別撤廃人権擁護に関する条例」になる。その後、徳島県内の自治体がほとんどこのかたちの人権条例をつくっており、全国的にもかなりの自治体が、このかたちの条例をつくっている。また、同年には大阪府泉佐野市で、「泉佐野市における部落差別撤廃とあらゆる差別をなくする条例」も制定され、このかたちの条例も全国的に広がっており、400ぐらいある人権条例のうち、7割ぐらいが阿南市型か泉佐野市型の条例になると思う。ただし、阿南市は2005年9月に「阿南市人権尊重まちづくり条例」という条例を制定し、当初つくった条例を廃止して「人権尊重まちづくり条例」に切り替えている。

  3つめの段階は、1996年の「鳥取県人権尊重の社会づくり条例」制定になり、その後、三重県、大阪府やいくつかの自治体で、この型の人権条例ができており、現在、取り組みとして拡がっているのは、この類型である。

  さらに、新しい型の人権条例が鳥取県ででてきている。2005年10月の「人権侵害救済推進および手続きに関する条例」であるが、この条例は、弁護士会やメディアから批判が出され、現在見直しの検討委員会がおこなわれている状況になっている。

3.市町村合併と部落差別撤廃・人権条例

  市町村合併が条例にどのような影響を与えているかについては、まず、「廃止された事例」として、知っている限りでは、三重県の員弁町がある。この町では、教育長の差別発言を機に条例がつくられたが、合併をした段階でその条例が廃止されている。

  「継続された事例」、これが一番件数が多いと思うが、厳密には2つのパターンに分けらる。ひとつは、吸収合併の場合で、これは吸収した側に人権条例があった場合、その人権条例をつかうというのがある。もうひとつは、複数の自治体が対等合併するときに、それぞれのいいところを集めて条例を作り直したという場合がある。例としては、三重県伊賀市で、ここは合併以前のすべての自治体に人権条例があったわけです。この場合は、「継続された事例」ではなく、「新しく制定された事例」と考えることもできる。

  「その他」としては、群馬県太田市がある。太田市は合併した市町の中に尾島町という町があり、そこでは「部落差別をはじめあらゆる差別撤廃する条例」が制定されていた。太田市になった段階で、この条例は廃止されたが、太田市の自治基本条例のなかに、「人権に取り組んできた歴史をふまえて重視していく」という主旨の条文を入れたという事例がある。

  このあたりのところを正確に情報をアンケートに基づいて集めて整理をして報告したい、というのが3番目のねらいである。

4.部落差別撤廃・人権条例の持つ意義の再確認

  この人権条例の意義を再度確認しておくと、<1>自治体の法律である、<2>住民と自治体当局との最も重要な契約である、<3>住民の中で最も重要なルールである、ということである。さらに、地方分権の時代といわれる今日、自治体の果たす役割が大きくなっているもとで自治体が人権に関して条例をつくるという重要性が増しているということもある。

  現在、特別措置法がなくなった段階で、部落問題を解決するいろいろな施策がおこなわれているが、何を根拠にやっているのかが問われてきている。そういった点では、自治体がきちんと人権条例をつくって、それを根拠に施策をおこなっていくということを、明確にしておく必要がある。

  また、国レベルでの法律の制定を促すという意義もある。部落問題なり人権問題に関わっては、従来、総理府の中に同和対策室、のちには総務省の中に地域改善対策室、といった総合調整、企画立案する担当部局があったが、現在はない。

  さらに、日本は国際人権規約、人種差別撤廃条約等に批准なり加入しているが、これらの国際条約は、国だけを拘束しているのではなく、自治体をも拘束している。国際人権規約の社会権規約の審査の場合、阪神淡路大震災における兵庫県の施策についての勧告があり、ホームレス、野宿者の人たちに関して大阪市に対する勧告もある。

5.今後の課題

  今後の課題としては、まず、人権条例がつくられていない自治体が多いので、つくっていこうという呼びかけがある。また、条例をつくっているところでも十分活用していない自治体が少なくないので、審議会の開催や定期的な実態調査の実施、計画に対する見直し、等を呼びかけていく必要がある。

  さらに、人権条例が制定された自治体の国内でのネットワークの組織化に加えて、国際的なネットワークも検討していく必要がある。具体的には、国内では都道府県別や全国的ネットであり、国際的にはユネスコが提唱している反人種主義・差別撤廃都市連合への参加である。

島団地改善事業完了後の諸状況

菱山謙二(筑波大学教授)

1.改善のための基本コンセプト

  まず、島団地改善の基本コンセプトについて述べる。

(1)ソフト重視・ソフト先行:ソフト重視・ソフト先行の具体的内容は、次のとおりである。

  1.  問題点の把握(生活のありよう)、
  2. 問題の自覚化、
  3. 住民の組織化と主体の形成、
  4. 住民参加と問題解決のための主体的学習、
  5. 周辺住民の参加と協力、
  6. 改善の意味・意義の全体化(市民全体への普遍化)、
  7. 交流の場の確保と交流の拡充、
  8. 自主的維持・管理の確立、
  9. 若年層への対応強化(家庭環境・教育・仕事・自尊感情などのソフト事業の強化)、
  10. 長期的フォロー

(2)市全体構造から地区を見る:従来の、同和地区内の改善だけという視座ではなく、市全体の構造から、島団地の中の諸課題を考えていくという発想をもつこと。

(3)歴史・文化を考える:物理的な改善だけでなく、地元の歴史・文化の中からプラスイメージをつくりあげていくといった仕組みも考えていく。

(4)市の住宅計画のモデルとして位置づける:「同和地区だけよくなって」ということではなく、手法も含めて市のこれからの住宅政策の1モデルとして位置づける。

(5)社会的空間としての社会的隔離からの解放:社会的隔離が始まると、さらに社会的隔離が強くなっていく。そしていつの間にか差別的な名称がつけられたり、恐ろしい場所というイメージがそこで定着していく。そういうことに対して、社会的隔離というのは、どうすれば解決できるのかを考えていく。

(6)第3者の視座の導入(市の外からの視座):「島団地にいるやつはろくでもないやつだ」との誹謗・中傷に対して、逆に、御坊市民以外の第3者の視座として、「我々から言わせれば、島団地を放置している御坊市民とは何か、というふうに見えます」というような発想をもつことである。

(7)ハードにおける開放的設計: 住居だけでなく、周辺の道路整備等を含めたハード面全体における開放感のある住環境づくり。

2.改善完了と近況

  次に、事業完了後の状況ならびにいくつかの課題について述べる。

(1)完了:2005(平成17)年3月で171戸すべての引越しが完了した。

(2)開放体系の意味理解の錯誤(社会的解放・物理的開放):近所、隣が縁台に出て気楽に話ができるようにという発想だったが、広場から各住宅の家の奥まで見通せるようになってしまい、プライバシーが確保できなくなった。そこで、最近では植木のツイタテなど、プライバシー確保の工夫がされはじめている。

(3)サロンへの参加の増加と周辺住民との交流の促進:デイケア・サロンへの参加が、そこのボランティアのがんばり等もあり、非常に増加している。さらに、そこから周辺住民の人たちとの交流も生まれている。

(4)生活様式の部分的変容と限界: 入居者の生活基盤が不安定な状況をいかに克服するか、また、自助努力では克服が厳しい場合にどのように対応するかは、今後も重要な課題である。

(5)行政のフォローの継続性:行政のフォローは弱まりつつも、問題が発生すれば一定対応している人はいる。問題は、次の人材をどう育成するかである。

(6)福祉分野との接合における工夫と努力の継続:住民同士がお互いに助け合うということは重要であるが、福祉分野のように専門家抜きでは困難な状況が生じる場合がある。福祉分野のように専門的スタッフも参画したコミュニティづくりが全体として広がりをみせてきている。

(7)市全域への全体化の不十分性:島団地での試みや経験を、島団地のプラスイメージをつくっていく上でも、全体化する必要があるが、なかなかうまく進んでいない。

(8)見直し会の終焉による全体的統合力の弱体化:「建てたからもういいんだ」という意識が行政内部にも地元にも蔓延してきており、よくない事態を生んでいる。そうなってしまうと、行政も地元も活力を失い、その結果、再スラム化を進行させるおそれがある。

(9)人権政策・同和政策としての再認識化:今回の事業が、人権政策・同和政策として再認識され、地元の人にとって活力になるようなものになっていかなればならない。それは、経済的な活力だけではなくて、セルフエスティーム、自己の誇りを尊重していくということも含んでいる。一人ひとりがお互いの存在を認めあおう、ということである。

(文責:松下龍仁)