調査研究

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2007.02.26
部会・研究会活動 <人権条例・人権のまちづくり研究会>
 
人権条例・人権のまちづくり研究会・学習会報告
2006年11月1日
市町村合併と部落差別撤廃・人権条例の動向

友永健三(部落解放・人権研究所所長)

はじめに

2006年6月20日、市町村合併の状況を踏まえた部落差別撤廃・人権条例の現状把握のために、全国1890の自治体を対象にアンケート調査を実施した。調査項目は、部落差別撤廃・人権条例の有無、審議会の有無、基本方針・基本計画・実施計画の有無、等である。なお、このアンケートにおける「人権条例」とは、〈1〉人権尊重の社会づくり条例、〈2〉部落差別撤廃条例、〈3〉部落差別をはじめあらゆる差別を撤廃するための条例、〈4〉部落差別撤廃・人権条例、〈5〉部落差別調査規制条例といった、人権尊重の社会づくりおよび部落差別に関する条例を指し、「男女共同参画条例」、「子どもの権利条例」、「障害者に関わった条例」、「個人情報保護条例」等は含んでいない。

「中間集約」の結果〈1〉

10月30日現在、1,147自治体から回答があった。そのうち、「条例がある」自治体は394で、「審議会等を設置している」自治体は300であった。「基本方針・基本計画・実施計画等いずれかの計画がある」のは155であった。

条例の名称等から内容をみると、人権尊重の社会づくり条例、部落差別をはじめあらゆる差別を撤廃するための条例、部落差別撤廃・人権擁護条例が多かった。審議会の名称等でみると、人権審議会、部落差別をはじめ差別撤廃審議会、部落差別撤廃・人権審議会、同和対策審議会等が多かった。さらに、基本方針、基本計画、実施計画等をみたとき、人権全般を対象にしたもの、部落差別をはじめあらゆる差別撤廃を対象にしたもの、人権教育・啓発を対象にしたものが多く、また、基本方針の策定にとどまり、基本計画、実施計画まで策定しているところはあまり多くみられなかった。

「中間集約」の結果〈2〉

条例をウェブサイトへ掲載している自治体は、394自治体のうち197(49.9%)ある。また、施行規則のある自治体は63(15.9%)あり、そのうちウェブサイトへ掲載しているのは22(34.9%)である。条例の解説書の作成は13(3.3%)で、解説書をウェブサイトへ掲載している自治体は5(38.5%)である。

条例の広報の有無について、「有」が161(40.8%)自治体、その内訳(複数回答)は、「リーフレット」49、「パンフレット」45、「イベント開催」28、「配布グッズ」15、「ポスター」5、「その他」71となっている。条例内容の研修について、職員全体研修で行っている自治体は144(36.5%)で、新規採用職員研修で行っている自治体は124(31.4%)であった(複数回答)。

審議会について、審議会設置要綱「有」は208自治体(69.1%)で、そのうちウェブサイトで掲載している自治体は97(46.6%)である。また、審議会名簿「有」は201自治体(66.8%)で、そのうちウェブサイトで掲載している自治体は18(9.0%)である。さらに、審議会からの答申「有」は103自治体(34.2%)で、そのうちウェブサイトで掲載している自治体は17(16.5%)ある。なお、審議会過程についてウェブサイト上で公表している自治体は21(7.0%)である。

基本方針(指針)について、ウェブサイトへの掲載「有」の自治体は30(30.6%)ある。それ以外の広報について「有」の自治体は55(56.1%)で、その内訳(複数回答)は、「リーフレット」18、「パンフレット」14、「イベント開催」5、「配布グッズ」2、「その他」29、となっている。

市町村合併と男女共同参画条例の動向

大西祥世(地方自治総合研究所特別研究員)

1.男女共同参画条例の制定状況

男女共同参画条例を全国で最初に制定したのは、2000年3月の山梨県都留市と島根県出雲市である。その後、2005年4月1日現在で、千葉県を除く46都道府県と14のすべての政令市、政令市を除いた256市区町村の、合計316自治体が制定している。この他、男女共同参画の理念が、人権条例や人権のまちづくり条例などの包括的な条例の中に組み込まれている自治体があるが、その数は不明である。

今般の市町村合併に伴い、多くの男女共同参画条例が失効・廃止されたが、合併を機に、新たに条例を制定し、または改正した自治体もある。

2.条例検索の方法と正確な把握の困難さ

内閣府男女共同参画局は、2003年以降、毎年4月1日現在の男女共同参画条例制定状況について調査を実施し、その結果の数値を毎年公表してきた。なお、2006年3月末までは、内閣府男女共同参画局のホームページにその一覧表が掲載され、条例本文のPDFファイルや該当自治体の例規集にリンクされていたが、最新状況をフォローすることが困難という理由で2006年4月に削除された。よって、現在、制定状況を調べるには、まず『地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況』を参照し、各自治体の例規集などから個別に閲覧するという手順になる。ただし、失効した条例を検索・閲覧することは困難であり、さらに、『推進状況』に掲載されなかった条例については、制定の事実を把握することすら難しい状況にある。

3.条例一覧表を作成した主旨と地方自治総合研究所で公表する理由

この間の市町村合併により男女共同参画条例はかなりの変動があり、現段階できちんとした研究・資料整理して保存しておく必要がある。その情報について、研究者、女性行政担当者、女性運動や市民運動の活動家にとって活用しやすいように一覧表にまとめ、ホームページによって広く公開されることが求められている。

さらに、一覧表は継続的に更新・増補される必要もある。このため、サイトの管理運営については、安定的な管理が可能な、社会的信用のある研究機関・NGOが行うが望ましい。今回は、地方自治総合研究所のホームページ上で公開することとした。各自治体関係者の活用も多く、新条例の情報提供などの協力も得られやすいと期待できる。

4.今後の管理、運営

管理、運営の具体については、まず地方自治総合研究所のホームページの中の「男女共同参画条例一覧表」で公開、その一覧表の各自治体名をクリックすると、当該自治体の男女共同参画条例が閲覧できるようにするが、個別の条例は各自治体へのリンクではなく、地方自治総合研究所ホームページのサーバーに中に保存されたデータ(ファイル形式はPDFもしくはワード)を使用することになる。できれば2006年12月初旬までには運用を開始したいと考えている。

また、すでに立ち上げられている条例webなど、自治体の条例検索に関する定評のあるウェブサイトにリンクを貼り、より多くの利用者に情報が届くように協議を行った。なお、内閣府等、国や自治体の女性情報サイトとの連携については、こちらの「男女共同参画条例一覧表」がまとまってからの方がいいと思われるので、立ち上げ後に行いたい。一覧表の更新については、内閣府男女共同参画局の調査結果にあわせて年に1回を原則とするが、自治体協議会の開催時期やニュース報道にも注視して、最新状況についてできるだけ早く情報提供を行っていきたい。

今後は利用者からの質問等にも対応していくことも考えている。具体的には、「男女共同参画条例一覧表」のトップページにメールフォームを設置、質問だけでなく条例の改廃に関する最新状況の連絡、誤りの指摘などの協力も期待したい。また、一覧表は現状ではキーワード検索ができないので、将来的には検索システムの構築をめざしたいが、経費の問題がでてくる。一覧表公開後の利用状況や利用者の反応をみながら考えるという方法もある。

5.平成の大合併による新条例の特徴

平成の大合併による男女共同参画条例の動向は、大きく5つに分けられる。

まず、「編入合併」の場合、元の市町村がそのまま新市となり条例が引き継がれたケースと、元の市町村が新市に吸収され条例が失効・廃止されたケースとがある。さらに、「新設合併」の場合で3通りある。第一に、新設合併により条例は形式上、失効・廃止となるが、合併協議会で「専決処分」とされて条例をそのまま引き継ぐことが合意される場合がある。これはさらに詳細にみていくと、〈1〉合併した自治体間でひとつの自治体のみ条例制定している場合、〈2〉合併する自治体間で複数の自治体で条例制定している場合の2つのパターンがある。第二に、合併協議会で「新自治体において新たに男女共同参画条例を検討する」とされて、親切合併により元の条例が失効・廃止された後、新たに新市での検討を経て制定される場合がある。これも、〈1〉合併した自治体のうち、いずれかの条例の内容を引き継いで制定される場合、〈2〉いずれかの条例の内容を引き継ぐものの、一部に重大な変更が行われて制定される場合(例/宮崎県都城市)、〈3〉合併した自治体の条

例とはまったく別の、新しい条例が制定される場合(例/静岡県掛川市)の3つのパターンがある。第三に、合併協議会の合意事項に男女共同参画条例が盛り込まれず、新設合併により失効・廃止された後、放置されている場合(例/三重県桑名市)、である。

2006年4月1日現在、施行された条例はのべ317で、合併により失効した条例は合計で99になる。合併後に制定された新条例の特徴としては以下のことがいえる。

  • まず、将来の合併を視野に入れて条例を制定した自治体では、合併後の新市での条例制定がスムーズである。
  • 合併によって理念や苦情処理制度などに特色のある条例が消滅する傾向にある。
  • 合併を起爆剤にして男女共同参画条例を制定しようといった積極的な動機によって新条例が制定された例があるかどうかは現在のところ不明である。

(文責:松下 龍仁)