調査研究

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結婚差別問題研究会
2002年3月14日
『結婚差別問題研究会』の活動について

(報告) 内田 龍史
(大阪市立大学大学院)

 結婚差別問題研究会は、部落問題と結婚に関する研究会である。

  報告者(筆者)は、今後研究会を進める上で必要となる、これまで行われてきた結婚差別に関する研究の概要を報告した。結婚差別の問題は、部落差別の中でももっとも深刻な問題であることがしばしば言及されてきたにもかかわらず、部落〜部落外の通婚率などの研究を除けば、研究レベルにおいてはほとんど対象とされてこなかった。しかしながら、最近、わずかではあるが結婚問題に焦点を当てた研究がみられるようになった。

 主な研究としては、部落解放・人権研究所が行った調査による、Ayako Mizumuraの“Intermarriage in Contemporary Japan:The Case of Burakumin and Non-Burakumin”(1999年)と中村清二の「結婚に現れる部落問題・人権意識調査の結果について」(2000年)が、2000年度の大阪府調査による「同和問題の解決に向けた実態等調査報告書」(2001年)と奥田均の「ポスト『特措法』時代の出発点 〜 データから考える結婚差別問題」(2001-2002年)があげられる。

 部落解放・人権研究所調査は、部落〜部落外の通婚カップルを対象に、恋愛・結婚・結婚後の過程で部落問題がどのように現れたのかを探求するものであった。調査手続きとしては、アンケート調査を行った上で、さらにインタビューに協力してもらえる対象者に聞き取り調査を行っている。また、大阪府調査は、数量調査および被差別体験の聞き取り調査ともに結婚問題を一つの柱として取り上げ、部落解放・人権研究所調査と同様に、結婚・結婚後の過程において現れる部落問題の問題性を取り上げている。

 両調査の特徴としては、部落解放・人権研究所調査は必ずしも被差別体験だけを聞いているわけではないために、被差別体験の総量は少なく、中にはそれらしいものが全くないものも見られる。しかしながら、何故問題が生じたのか、どのようにして乗り越えたのか、その要因について詳しく問われている。大阪府調査は被差別体験の聞き取りに特化しているので、対象者本人を含め、それ以外の人の被差別体験の見聞についても問われているため、被差別体験そのものの総量は多い。また、そうした事実を対象者がどのように捉えているかを把握することができる。

 今後の課題としては、直接的に結婚差別の対象者の聞き取りだけに焦点を当てた研究だけでは結婚差別の構造的な要因分析は不可能であり、杉之原寿一らの部落〜部落外の通婚問題に関する研究、野口道彦らの市民の部落出身者に対する結婚忌避的態度の要因分析、一般的な配偶者選択のメカニズムにおける部落の位置など、結婚差別に関わりうる研究に視野を広げるべきだとの提言がなされた。

  また、部落出身者に対する結婚忌避だけではなく、その他のマイノリティへの差別と配偶者選択のメカニズムとの関係についても検討する必要があること、さらにはこれまで多くの自治体などで行われてきた数量調査と、聞き取りなどによる質的調査の知見を連結する必要性などが議論の中で確認された。加えて、調査方法に関する議論や、階層と身分との関係、結婚と部落の生活文化との関係など様々な問題提起もなされた。

今後、多様な視点から結婚差別に関する研究の深化が求められており、研究会ではその課題一つひとつに取り組んでいく予定である。

(内田 龍史)