企業における人権啓発教材の開発に関して、中村研究部長より問題提起が行われ、とりわけ、ケース・メソッドを取り入れた啓発教材開発の可能性について、議論が行われた。
まず、ケース・メソッドとは、ハーバード大学のビジネス・スクールで開発された人材育成の方法であり、近年、企業倫理の分野でも、抽象的な企業倫理規範を、実際のビジネス活動における実務や意思決定に反映させるために注目されている教育方法である。その内容は、梅津光弘さんによれば、「グループ討論を中心とした実際のケースを追体験し、原則に基づいた意思決定」を行えるよう、実際に発生したケースを参考にしながら、参加者間で議論を深めるというものであり、D社では、企業倫理と人権にかかわるハーバード大学ビジネススクールの実践をまとめ、企業内研修に活用している。
具体的なケースとしては、リーバイスが中国の企業との契約締結時に児童労働が行われていることが判明した際、どのような対応をすべきかという点が、学生間で議論が行われたことが紹介されている。
ただし、通常のケーススタディと異なるのは、正解が用意されているわけではなく、実際のケースを検討する中で、とりうる行動や解決策には複数の答えがありえるという前提で、いかにして適切な意思決定を行うかを訓練する点にある。このようなケース・メソッドを用いた啓発教材を、実際に起こった、あるいは起こるであろう事例(たとえば、土地差別事件や
部落地名総鑑、障害者雇用の進め方、差別用語の捉え方、人権と結びついた商品開発など)を用いて開発していくことが、今後の企業内研修のニーズにこたえることになるのではないか、という問題提起が行われた。
参加者からは、ケースメソッドとケーススタディの違いはどこにあるのか、結論を明示せずに議論を進めることの是非、差別的・反人権的な議論が出てきたときにどうするのかといった論点が出された。また、ケース・メソッドにおいては、議論を促すケース・リーダーの役割は大きく、教材開発に加えて、ケース・リーダーの養成をあわせて図っていくことも必要だという意見も出された。
これらの議論を踏まえて、今後、関心をお持ちの方の参加を促しながら、問題意識の共有と、事例の検討を進めていくこととした。
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