〈第一報告〉
人材育成におけるケース・メソッドの意義と、教材を開発するさいの留意点について報告を受けた。
ケース・メソッドは、今日、従業員教育のために用いられる手法であるが、その趣旨は、原則に基づいた意思決定ができるようにすることである。この「原則」には、憲法、法令やその立法趣旨、企業理念、行動指針、経営学説、業界のルールなどが考えられる。ケース・メソッドとは、これらの規範に基づいて、「何をすべきか」、あるいは「何をしてはいけないか」について、実際の場面で適切に行動できるように、判断スキルを身につけるための教育手法なのである。
そのテーマとしては、障がい者雇用の有効性、ダイバーシティ、差別用語の捉え方など、さまざまなものが可能である。重要なポイントは、「原則に基づいた意思決定」を行えるようにするという点である。その際、唯一絶対の正しい答えがあるわけではなく、「複数の正解」がありえる。
ケース・メソッドの種類には、ビジネススクールで用いられるロングケース、一般向け、学部学生向けのショートケース、ディベート型、解釈型の4つがあり、目的によってさまざまな手法を用いることができる。ロングケースは、経営者や役職者など、経営判断を養うために用いられる。具体的には、まずケースと、関連資料を個々人が検討し、その後6人程度のグループで討議し、最後に、講師を交えて、全体で討議するという形をとる。一つの例として、任天堂のWiiがなぜ売れたかということを判断するためのケースがあるが、その課題に対して、3C分析やSWOT分析、STP、4Pといった分析手法を用いて、事業分析を行うのであるが、要は、事業分析をするさいに、これらの手法を用いて、多角的に分析する必要があり、その分析能力を高めるためにこのような手法を用いるのである。知らないことを知るのであれば、このような手法を用いる必要は無く、ケース・メソッドを用いる意義は、まさにこのような分析手法という知識を用いて、意思決定ができるようになることなのである。
そのために検討しなければならないのは、この手法を用いて、達成したい目的である。つまり、このケース・メソッドを用いて、何について、どのような状態からどういう状態にしたいかを明確にすることである。
実際のケース作成のプロセスとしては、まず目的を明確化し、データを収集するために取材を重ねることである。その上で、データを加工し、質問事項を検討する。その際、うまくジレンマが起こるように作りこむ。その上で、予備ディスカッションをして、事前に議論をどのように導くかを準備する必要がある。その上で、討議の落としこみを検討し、参加者が納得するような着地点を示すことである。
なお、このような手法は、ショートケースであれば新入社員でも可能であるが、知識を使えるようにするための研修で、積極的に用いるのがよいだろう。
〈第二報告〉
その後、安藤正彦さんが、保険価値評価ハンドブックでの不適切表現に関する事例をもとに作成した例題について、簡単に説明を受けた。実際の不適切表現の指摘のほかに、経営状況や、保険金不払い事件、各損保会社の保険料収入予想、創立90周年にあたることなど、さまざまな周辺情報を組み立てて、ハンドブックについてどのような対応をすべきか、参加者がジレンマを起こすような状況をつくってみたとのことである。
次回、この例題を、検討することとした。
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