第1節 調査概要
1 調査の目的
「大阪府人権施策推進基本方針」(2001年)において、府民の人権の尊重を基礎に据えた取り組みを行い、差別のない社会の実現に努めることが重要だと述べられており、人権意識の高揚を図るための施策を推進するために、人権教育の推進、人権教育に取り組む指導者の養成、府民の主体的な人権教育に関する活動の促進、人権教育に関する情報収集、提供機能の充実に取り組むことが、その基本方向として掲げられている。
本調査は、人権教育・人権啓発の推進に地域や職域で取り組むキーパーソン・リソースパーソンたる人権啓発担当者や人権啓発推進リーダーの人権問題に関する意識状況を把握し、分析することを通じて、府民に対する人権教育・人権啓発の効果的なあり方を提示することを目的としている。
2 調査について
(1)調査対象
(社)部落解放・人権研究所主催の2001年度第69期~2006年度第89期部落解放・人権大学講座(以下、解放大学と略す)修了生912名を対象に「部落解放・人権大学講座修了生の人権問題に関する意識調査」(以下、解大修了生調査と略す)、大阪市主催の1999年度第1期~2005年度第7期大阪市人権啓発推進員リーダー養成研修(以下、人推員リーダー養成研修と略す)の修了生102名を対象に「大阪市人権啓発推進員リーダー養成研修修了生の人権問題に関するアンケート」(以下、人推員アンケート)を実施。これとともに、インタビュー調査を行った。
(2)調査期間
- 質問紙調査
解大修了生調査、人推員アンケートともに、2006年12月1日(金)を投函日とし、2007年1月10日(水)を回答の期限とした。
- インタビュー調査
解大修了生、人推員リーダー養成研修修了者に対して、2006年12月から2007年1月に各3名ずつ実施した。
(3)調査方法
- 質問紙調査
解大修了生調査、人推員アンケートともに、2006年12月1日(金)に調査票を調査対象者に郵送し、解大修了生調査は同年12月18日(月)にはがきにより再度協力を依頼した。2007年1月10日(水)までに返送された調査票を集計対象とした。
- インタビュー調査
解放大学修了生、人推員リーダー養成研修修了者ともに、調査対象者は職業やバックグラウンドにできるだけ偏りがないように留意しつつ、研修受講時のレポートや担当者のエピソードをもとに抽出した。
インタビューは、解放大学、人推員リーダー養成研修の受講前、受講中、受講後の人権に対する意識の変化や思いを中心に、自由会話形式で行った。聞き取りに要した時間は、一人の調査対象者につきおよそ2時間程度である。
3 調査票の内容
解大修了生調査は、2005年に大阪府が実施した「人権問題に関する府民意識調査」(以下、2005年調査と略す)をもとに、「結婚観」「人権についての関心や意識」「同和問題に関する認識」「同和問題に関する学習と経験」「差別解消に対する意識・考え」といった項目からなる。これに加え、人権啓発担当者や人権推進リーダーを養成するための講座である解放大学の効果を探るべく、受講前、受講中、受講後の人権に対する意識の変化について質問している。
人推員アンケートは、地域の人権啓発を推進する人材を育成するために実施したリーダー養成研修の効果を探るべく、受講を通じて起こった意識の変化について質問している。
4 調査体制
上杉孝實畿央大学教授を座長に「人権啓発推進リーダー養成のための実践調査等研究事業報告書検討委員会」を設置し、調査対象、調査方法、調査項目の検討、調査結果の分析を行った。
<人権啓発推進リーダー養成のための実践調査等研究事業報告書検討委員会>
氏 名 |
所 属 |
上杉 孝實(座長) |
畿央大学教授 |
奥田 均 |
近畿大学人権問題研究所教授 |
小頭 芳明 |
大阪同和・人権問題企業連絡会理事長 |
妻木 進吾 |
日本学術振興会特別研究員、同志社大学 |
内田 龍史 |
(社)部落解放・人権研究所 |
新木 敬子 |
(社)部落解放・人権研究所、大阪大学大学院 |
栗本 知子 |
(社)部落解放・人権研究所 |
白井 俊一 |
(社)部落解放・人権研究所 |
5 調査票回収状況
解大修了生調査は、上記のとおり、解放大学修了生912人を対象に調査票を郵送した。うち、有効回収調査票は516票であり、割当標本に対する有効回収率は56.6%であった。
また、調査票が調査対象者に到達しないまま返送されてきたものが34票あり、調査票が調査対象者に到達したと考えられる878人に対する有効回収率は58.7%である。いずれも6割近い値となっている。
人推員アンケートは、上記のとおり、修了生102人を対象に調査票を郵送した。うち、有効回収調査票は76票であり、割当標本に対する有効回収率は74.5%であった。
また、調査票が調査対象者に到達しないまま返送されてきたものは0票であった。この背景には、大阪市人権啓発推進員1,076人中リーダー養成研修を最後まで受講し修了した人で、かつ現在も推進員である人を対象に本アンケートを郵送したことがあるといえる。
表1 回収状況
|
割当標本数
|
到達標本数
|
不到達標本数
|
有効回収調査票数
|
無効調査票数
|
割当標本数に対する回収率
|
到達標本数に対する回収率
|
2005年調査 |
7,000
|
6,913
|
87
|
3,675
|
219
|
52.5%
|
53.2%
|
解大修了生調査 |
912
|
878
|
34
|
516
|
3
|
56.6%
|
58.7%
|
人推員アンケート |
102
|
102
|
0
|
76
|
0
|
74.5%
|
74.5%
|
6 回答者のプロフィール(単純集計)
(1)性別
・解大修了生調査
回答者の性別は、「男性」が88.6%に対し「女性」が10.9%、無回答が0.6%となっており、圧倒的に男性の割合が高くなっている。ここには、解放大学の受講者として男性が派遣元の各企業や行政から選ばれてくるという事情があり、この点は解放大学事務局、企業や行政など派遣元組織双方にとって今後の課題といえよう。
・人推員アンケート
回答者の性別は、「男性」が17.1%に対し「女性」が76.3%、無回答が6.6%となっており、圧倒的に女性の割合が高くなっている。人推員リーダー養成研修修了者の大半が女性である。また、大阪市人権啓発推進員全体で見ても女性の割合が高いことから、地域で人権教育・人権啓発を推進することを目的に設置されたこの役割の多くを、女性が担っているということがうかがえる。この背景には、PTAや民生委員などの役割と兼務の場合が多かったり、平日昼間の研修に参加することは、就業者にはなかなか難しいという事情があるようだ。
図表2 回答者の性別
|
総数 |
男性 |
女性 |
無回答 |
2005年調査 |
3,675
100.0%
|
1,600
43.5%
|
2,075
56.5%
|
-
-
|
解大修了生調査 |
516
100.0%
|
457
88.6%
|
56
10.9%
|
3
0.6%
|
人推員アンケート |
76
100.0%
|
13
17.1%
|
58
76.3%
|
5
6.6%
|
(2)年齢
・解大修了生調査
回答者の年齢は、「50~59歳」の割合が50.1%で最も高く、次いで「40~49歳」が27.7%であり、解放大学修了生の8割近くが40代・50代で占められている。これは、ある程度業務経験を得た人が人権担当者となり、その人たちが研修の一環として解放大学に企業や行政から派遣されているということと関わりがあると思われる。
・人推員アンケート
回答者の年齢は、「60~69歳」の割合が37.9%で最も高く、次いで「50~59歳」が30.2%、「70歳以上」が23.5%で、人推員リーダー養成研修修了者の大半が50代以上となっている。現役PTAとなる世代が人推員、とりわけ人推員のリーダー的役割を担うことは難しいのだろうか。
図表3 回答者の年齢
|
総数 |
20-29 |
30-39 |
40-49 |
50-59 |
60-69 |
70以上 |
無回答 |
2005年調査 |
3,675
100.0%
|
437
11.9%
|
610
16.6%
|
563
15.3%
|
796
21.7%
|
729
19.8%
|
539
14.7%
|
1
0.0%
|
解大修了生調査 |
516
100.0%
|
19
3.8%
|
63
12.3%
|
143
27.7%
|
258
50.1%
|
24
4.7%
|
1
0.2%
|
8
1.6%
|
人推員アンケート |
76
100.0%
|
-
-
|
-
-
|
2
2.6%
|
23
30.2%
|
29
37.9%
|
18
23.5%
|
4
5.3%
|
(3)最終学歴
・解大修了生調査
回答者の最終学歴(在学者は在学している学校)は、「大学・大学院」が66.7%で最も高くなっている。ついで、「高等学校、専修学校・各種学校、旧制中等学校」が25.2%となっている。2005年調査では、「高等学校、専修学校・各種学校、旧制中等学校」が40.0%で最多となっており、解大修了生は比較的学歴の高い集団といえる。
・人推員アンケート:項目なし
図表4 回答者の最終学歴
|
総数 |
小学校・中学校 |
高校 |
短大・高専 |
大学 |
無回答 |
2005年調査 |
3,675
100.0%
|
639
17.4%
|
1,471
40.0%
|
693
18.9%
|
742
20.2%
|
130
3.5%
|
解大修了生調査 |
516
100.0%
|
6
1.2%
|
130
25.2%
|
31
6.0%
|
344
66.7%
|
5
1.0%
|
(4)職業
・解大修了生調査
解放大学は、基本的に職場から就業者が派遣される研修であるため、回答者の職業は、「公務員・教員」、「民間企業・団体の勤め人」の割合が極めて高い。しかし、中には個人での参加、あるいは大阪市人権啓発推進協議会から人推員リーダー研修の一環として年間2~3名解放大学に参加しているケースもある。また、図表6にもあるが、調査対象者には受講時から多くて5年経過している人も含まれており、現在は派遣元を退職して次のステップを踏んでいる人もいると思われる。
・人推員アンケート:項目なし
図表5 回答者の職業
|
総数 |
自営業 |
公務員・教員 |
民間企業・団体の経営者・役員 |
民間企業・団体の勤め人(25人未満) |
民間企業・団体の勤め人(25人以上100人未満) |
民間企業・団体の勤め人(100人以上300人未満) |
民間企業・団体の勤め人(300人以上) |
臨時雇・パート勤め |
その他の有業者 |
家事専業 |
学生 |
無職 |
無回答・不明 |
2005年調査 |
3,675
100.0%
|
433
11.8%
|
148
4.0%
|
65
1.8%
|
225
6.1%
|
212
5.8%
|
148
4.0%
|
336
9.1%
|
512
13.9%
|
44
1.2%
|
702
19.1%
|
69
1.9%
|
675
18.4%
|
106
2.9%
|
解大修了生調査 |
516
100.0%
|
4
0.8%
|
214
41.5%
|
-
-
|
8
1.6%
|
11
2.1%
|
30
5.8%
|
231
44.8%
|
6
1.2%
|
5
1.0%
|
2
0.4%
|
0
0.0%
|
3
0.6%
|
2
0.4%
|
また、下記図表6より、大阪同和・人権問題企業連絡会(以下、大阪同企連と略す)加盟企業所属の修了生の変化を見ると、解放大学受講時と比べ現在の方が大阪同企連担当者が20名ほど増えている。人権教育・人権啓発のリーダーを養成する解放大学の修了生を「人権の担当者」となる大阪同企連担当としていると思われ、組織として人材の活用が有効になされているのではないか。他方、公務員は同じ業務に長く携わることが難しい部分があるため、解放大学修了生も、移動により受講時と比べ学校教育、社会教育・人権教育以外の業務につく人が減っている。また、教員を見ると、解放大学受講時は教育委員会等から参加し、現在は学校現場に戻っている人が多いのではないかと推測される。他業種の人々とともにじっくりと人権について学ぶという解放大学での経験が、学校現場で活かされている可能性があり、興味深い。さらに、解放大学、人推員リーダー養成研修を両方を受講している人も中にはおり、両方の調査に答えている人も含まれている可能性がある。
図表6 問6回答者の職業(業務と人権の関わり)
|
総数 |
自営業 |
公務員・教員 |
民間企業・団体の経営者・役員 |
民間企業・団体の勤め人(25人未満) |
民間企業・団体の勤め人(25人以上100人未満) |
民間企業・団体の勤め人(100人以上300人未満) |
民間企業・団体の勤め人(300人以上) |
臨時雇・パート勤め |
人権啓発推進員 |
その他 |
無回答 |
解大受講時 |
516
100.0%
|
59
11.4%
|
147
28.5%
|
21
4.1%
|
18
3.5%
|
44
8.5%
|
132
25.6%
|
9
1.7%
|
26
5.0%
|
13
2.5%
|
19
3.7%
|
28
5.4%
|
現在 |
516
100.0%
|
86
16.7%
|
115
22.3%
|
28
5.4%
|
12
2.3%
|
25
4.8%
|
142
27.5%
|
22
4.3%
|
26
5.0%
|
12
2.3%
|
30
5.8%
|
18
3.5%
|
7 この報告書における表及び図の見方
- 図表内に示されている「MA」は複数回答をすることができる設問を表す。
- 比率はすべて、各項目の無回答・不明を含む集計対象総数(集計対象を限定する場合はその該当対象数)に対する百分比(%)で表している。複数の回答を求める設問では、百分比(%)の合計は100%を超える。
- 百分比(%)は、原則として少数第2位を四捨五入し少数第1位までを表示した。四捨五入の結果、個々の比率の合計と全体を示す数値とが一致しないことがある。
- 年齢別集計結果で、年齢不明は集計表から除いているため、合計は全体と一致しない。
- 表中の「-」は該当者が皆無であることを、比率の「0.0」は四捨五入の結果0.0であることを示す。
- 百分比(%)どうしの比較における差は、原則として「…ポイント」という表現とした。
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