3 地域における人権教育
地域の人々が参加しやすい人権教育の場として、地区別懇談会など、身近な場での懇談会方式の学習もよく行われてきた。この場合も、地域の問題と重ね合わせることがないと、自分たちの問題として受け止められずに終わることもある。住みよいまちづくり、安全・安心の地域づくり、健康と環境、人間関係のあり方、子育ての課題、冠婚葬祭のあり方など、人々の関心の高いものをとりあげて、人権の視点でこれらの問題に迫ることによって、活発な人権教育が展開され得る。流行、流言、同調、抑圧委譲なども人権教育のテーマとして適当なものである。個人の意識も社会的な影響の下で形成されてきているのであり、社会に目を向ける学習が欠かせないのである。
人権学習は、人権問題の学習を含むことによって、具体的でリアルなものになるが、問題の厳しさを知るだけでなく、その解決の展望を拓くものでなければならない。そのためには、問題への取り組みによってもたらされた成果についての学習が不可欠である。人々の努力による社会の変化、人々自身の意識変革などを、事例も交えながらとりあげて学ぶことが必要である。歴史的なアプローチもなおざりにはできない。市民性を高める重要な柱として人権教育を位置づけることが課題である。
個別具体的な人権問題は、それぞれ固有の側面と互いに共通する面を持っているのであり、両方を学ぶ必要がある。とくに問題を重ね合わせ、関連づけることによって、各人の問題意識とも触れ合うことが多くなり、波及効果や相乗効果が期待されるのである。人権一般を扱うことが多くなっているが、同和問題などの問題を重ね合わせることによって、人権を抽象的にとらえるのではなく、具体的に把握することが可能となるのである。同和問題への取り組みを通じて、憲法の規定する「教育を受ける権利」や「居住・移転・職業選択の自由」などの持つ意味が明らかにされたのであり、すべての人の人権保障につながることが示されたのである。
懇談会では、司会者・助言者の役割が大きい。行政職員がその役割を担うところもあったが、住民の中のリーダーがこれらの役をこなすことが期待される。参加者相互の話し合いを促進し、問題を掘り下げることを助けるためには、やはり多数回のリーダー研修を要するのである。リーダー研修会は、少人数で多数回行うことから、人数に比べて、費用対効果が少ないように見えるが、そこで力のついた人が周りに働きかければ、多数の人に学習の成果を及ぼすことになり、効果が大きいのである。成人教育にあっては、市民の相互教育が重視されなければならず、その広がりをもたらすリーダー研修に力が注がれねばならないのである。
学習成果を地域で活かすには、地域の中でのその人の位置づけが大きく影響する。地域団体等で役職を持つ人は、地域への働きかけが比較的容易であるので、そのような人々に重点を置いた学習機会の提供が必要であるが、それとともに、学習を積んだ一般の人々もリーダーとして活躍することができるようにすることが肝心である。求めに応じての派遣とか、その人たち自身の組織づくりなどが行われてきたが、必ずしもその活用が十分なされているとはいえない。これらの人が、地域に親しみ、地域組織をよく知って、人間関係を築きながら、取り組みを進めていくことが大切である。そのために、地域についての学習や、人との関わり方、組織の運営等についての学習も伴うことが望まれる。リーダーといっても、あらゆる機能を果たすことには困難が伴うのであり、複数のリーダーがそれぞれの特色を活かしながら支え合うことが効果を大きいものにする。そこにリーダー集団の存在意義がある。
公民館や図書館・博物館等社会教育施設では、資料の提供とともに不特定多数の人も集まりやすい講座等を行うことによって、学習機会を提供し、なかまづくりを進めることに大きな意義がある。ここでも、上記のような住民にとって切実な課題や関心の高い課題をテーマとして人権教育を進めるだけでなくて、一般の講座等にも、それぞれの講座の内容に即して人権の視点を入れることが期待される。衣服に関する講座にも、服装の持つ意味、服装統制と社会統制の問題などをとりあげることによって、人権について考えることができることは、同和問題の歴史における渋染一揆の例を見てもわかる。料理講座で、食材の産地に触れることによって、南北問題や食品公害の問題を扱うこともできる。
社会教育施設には、利用者として絵画、音楽、写真、彫刻、文芸など文化活動に取り組むグループが多く見受けられる。これらの活動は、様々な思いを表現したいという欲求が含まれているのであり、人間性追求の要素を持っている。そのことからも、作品の背後にある時代・社会の動きや人々の思いを探ることによって人権学習を重ねることができるのであり、その角度で制作、演奏、発表などを行うことで、成果が大きいものになり、またそれに触れる多くの人に影響を及ぼすことになる。
地域には、人権教育・啓発に関する協議会組織が結成されているところが多い。個人から成る協議会もあるが、各種団体から成るものが多い。その際、協議会としては構成団体での人権教育活動の交流に重点を置くことが大切である。ともすると、協議会としては人権啓発への取り組みが見られるが、単位団体での活動がそれと連動していないことがある。それぞれの団体の目的に添っての人権教育活動状況を持ち寄り、成果や問題点について協議するといった取り組みが重視されなければならない。このことによって、団体に関わる多くの人の人権学習・実践となり、日常的な活動との結びつけが可能となるのである。
なお、地域には多くの職場が存在するのであり、職場関係者も含めての地域組織での取り組みを進めることが望まれる。成人教育は、いたるところで行われているのであり、成人教育に当たる者は、地域・職域を問わず、ともに情報を交換し、研究・教育を重ね、より適切な学習援助に努めることが必要である。
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