調査研究

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2007.07.03
部会・研究会活動
人権啓発推進リーダー養成のための実践調査等研究事業
(2006年度)
人権啓発推進リーダー養成のための実践調査等研究事業 報告書

第2章  調査結果の概要

第4節  「大阪市人権啓発推進リーダー養成研修修了生の人権問題に関するアンケート」結果

 本節では、大阪市人権啓発推進員1,076人中リーダー養成研修を修了した人のうち、現在も人推員である人を対象に実施したアンケート結果を概観する。

「大阪市人権啓発推進リーダー養成研修修了生の人権問題に関するアンケート」(人推員アンケート)は、大阪市人権啓発推進員として地域で人権啓発を推進するリーダーとなる人材を育成するために実施された人推員リーダー養成研修の効果を探るべく、受講を通じて起こった意識の変化について質問している。結果は以下のとおり。

第1章調査概要でも述べたが、人推員リーダー養成研修修了者の大半が女性であり、かつ、大阪市の人推員全体で見ても女性の割合が高いため、本アンケートの回答者も「男性」17.1%、「女性」76.3%、「無回答」6.6%となっている点、加えて、「50~59歳」30.2%、「60~69歳」37.9%、「70歳以上」23.5%と、人推員リーダー養成研修修了者の大半が50代以上となっている点に留意されたい。

問3 大阪市人権啓発推進員リーダー養成研修の受講を通じて、次のような変化がありましたか。次にあげる(1)~(10)のすべてについてお答えください。(〇はそれぞれ1つ)

問3では、人推員リーダー養成研修の受講を通じて、受講者に起こった変化について聞いている。全体的に「非常にあてはまる」「あてはまる」の割合が高いが、中でも「(4) 人の意見をしっかり聴けるようになった」(88.2%)、「(3)多様な人々と違いを尊重し合うことが大切だと思うようになった」(85.5%)、「(6)社会の出来事に関心が向くようになった」(85.5%)が高くなっている。これらは「非常にあてはまる」のみの値もそれぞれ63.2%、57.9%、51.3%と高い。

これに対し、「非常にあてはまる」「あてはまる」の割合が上記に比べ低くなっているのは、「(2)自分が不当な(理不尽な)扱いを受けたときに、抗議できるようになった」(61.9%)、「(10)人権を尊重したり、差別問題について積極的に取り組む態度を身に付けることができた」(64.4%)、「(9)推進員は重要だと思うようになった」(71.1%)である。また、「(2)自分が不当な(理不尽な)扱いを受けたときに、抗議できるようになった」「(5)相手の意見を尊重しつつ、自分の意見を人に主張できるようになった」では、「非常にあてはまる」の値がそれぞれ13.2%、25.0%と他に比べ低い。

これらの結果から、他者から不利益を受けたり、差別やコンフリクトが起こったときに、自分や周囲の人の人権を守るために具体的な行動を取ることについて難しさを感じている人が多いように見受けられる。(9)については、研修時に人権啓発推進員活動への動機づけがもう少しなされてもよいのかもしれない。

問4 大阪市人権啓発推進員リーダー養成研修修了後のあなたの状況についてお聞きします。次にあげる(1)~(5)のすべてについてお答えください。(〇はそれぞれ1つ)

 問4では、人推員リーダー養成研修修了後の、地域での人権研修や人権相談の経験について聞いている。

「非常にあてはまる」「あてはまる」の割合が高いのは、「(1)地域での人権に関する取り組みの企画をしたことがある」(52.6%)であり、半数が企画をした経験があると回答している。これに対し、「(4)人権研修の教材を自分で作ったことがある」(14.5%)、「(2) 人権研修などの講師をしたことがある」(18.4%)、「(3)参加型学習の講師をしたことがある」(21.1%)では低い割合となっている。

問3と問4から、自身の学びや行動に関する設問と、人推員のリーダーとしての行動(人権研修の講師をする、相談を受ける等)に関する設問に、異なる傾向が見られる。「学びから行動へ」というプロセスを応援するためのプログラムや働きかけが必要といえよう。他方、今回の調査で実施した人推員へのインタビューでは、「人権について学んだけれど、それを活かす場がない」という声も聞かれており、人推員リーダー養成修了者が人推員としてさらに活躍できるための場や仕組み作りが求められる。

だが、人推員のリーダーとして、人権教育や人権啓発の実践を着実に地域で行っている層が存在しているということも指摘しておきたい。

問5 大阪市人権啓発推進員リーダー養成研修修了後のあなたの状況についてお聞きします。次にあげる(1)~(6)のすべてについてお答えください。(〇はそれぞれ1つ)

問5では、人推員リーダーとしての現在の活動状況について聞いている。

「非常にあてはまる」「あてはまる」の割合が高いのは、「(4)NPOや自治会など、市民・地域活動に参加している」(86.8%)、「(1)現在も人権問題について学びつづけている」(79.0%)、「(5)人権について周囲の人と話すことがある」(75.0%)であり、これらの設問は人推員としての活動とリンクしていると思われる。

これに対し、「(6)地域などで、人権に関する相談をうけている」(22.4%)、「(2)人権研修の企画をしている」(38.2%)、「(3)人権研修の講師や進行役をしている」(40.7%)では、「非常にあてはまる」「あてはまる」の割合が低くなっている。だが、先にも述べたが、大阪市人権啓発推進協議会の取り組みが、地域社会で人権教育・人権啓発に取り組む層を育てていることは評価したい。

 また、「(6)地域などで、人権に関する相談をうけている」では、22.4%が、「(5)地域で人権に関する相談をうけたことがある」では、30.3%が「非常にあてはまる」「あてはまる」と答えており、このことと、(財)大阪府人権協会が実施する「人権相談推進事業」の2005年度相談件数が333件(延べ573件)(財団法人大阪府人権協会『2005年度事業報告書』)であることを考え合わせると、相談機関につながる前の段階で、地域の人権推進のキーパーソンが人権相談を受けている可能性があるのではないかと思われる。幾層にも人権に関するセーフーティネットが張られることが求められると同時に、各機関や地域のキーパーソンとの連携が有機的に行われることが望まれる。

(新木敬子)

<参考文献>

財団法人大阪府人権協会『2005年度事業報告書』