調査研究

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2007.07.03
部会・研究会活動
人権啓発推進リーダー養成のための実践調査等研究事業
(2006年度)
人権啓発推進リーダー養成のための実践調査等研究事業 報告書

第3章  インタビュー

第2節  大阪市人権啓発推進員リーダー養成研修修了生へのインタビュー

本節では、人推員リーダー養成研修修了生へのインタビュー・データの中から、インタビュー対象者が人推員活動も含めて、地域を場にどのように人権啓発活動を行ってきた(行っている)のか、興味深いものを記述する。

1 Dさんの語りから

(1)障害児の親子の居場所作りをきっかけに地域で活動を始める

子どもがNPO法人の「○○」というところに行ってて、子どもと同じクラスだった障害児のお母さんと友だちになったときに、障害児の親子が集まるような図書館がなかったんですよ。障害児の親子のための居場所がいると思ったんです。統合されて健常児と一緒にいたら、懇談会のときに、お母さんが立って泣きながら「ありがとうございます。

お世話になります」とおっしゃるんです。何で泣いていわないといけないの?と思いました。やっぱり、健常児の中にポツンといたら卑屈にならずにはいられない。そんなのはしんどいやん、と…。で、障害児のお母さんたちがつながれたらそんな気持ちはなくなると思って、「障害児のお母さんたちが出会える場所がいると思うねん、どう思う?」と。お母さんたちが動けば療育園とのつながりとかが徐々にできてくるでしょう。

 それでそこを立ち上げるときに、○○さんがかけあいに行くときについていってくれたりしました。図書館でボランティア講座を開くときも、○○さんが◇◇さんから習ったワークショップをやってくれたりして。ワークショップってすごいなあと思うようになりました(D)。

(2)人推員に自分から立候補

そのうち、「人権の講座ってやりがいあるなあ。同じやるなら、地域の人権啓発推進委員に入ってやるのもいいんじゃないかな」と思うようになりました(D)。

PTAで、各委員長が集まって、バスで行く学習会があるじゃないですか。で、○○区の人権啓発推進員と○○区の小中学校のPTAの委員長が一緒に行ってる研修会があって、「全部の研修を受けた人は○○区の人権啓発推進員になっていただきたいんですが、いかがですか?」と聞かれました。たいがいの人は断りますけど、私たち二人は「なりますー!」と立候補したんです。実は、「次の委員、どうするねん」って、今まで押しつけになっていました。でも、「他の人も、どうせ回ってくるんやから早くやっておいたほうがいいよー」っていったら、「じゃあ」と手を挙げる人もいましたね。やったもん勝ち、やらないと損、どうせやるなら、と思ってやりました(D)。

(3)「人権」のイメージが払拭された研修

 まず、「人権とは」というところから入ったので、「あ、そんなこと考えたこともなかった」というところから知っていくことができてよかったです。で、一般的に何となくある「部落は重い」というイメージというのは払拭されて、「人生って何でもありなんや」というのですごい楽しくて。そしたら、「あんなこともできる、こんなこともできる」って思えるようになりました。自分の会話の中にも人権の視点をもっと気軽に入れられるようになりましたね。人権とか環境も命を考える上で大事になってきてるから(D)。

(4)「めっちゃ考えるし、動くし、発見するし、他の人とつながる」研修

 一般的な研修とは全然違います。だって、めっちゃ考えるし、動くし、発見するし、他の人とつながるし。他の研修は大体、参加しても「ふーん」と思うだけでしょう。人数も他の研修は多くなっちゃうでしょう(D)。

(5)PTA活動を参加型学習(ワークショップ)でやりたい

○○小学校のPTAで人権啓発推進員を2年やって、ワークショップ形式の講座を受ける機会があって、いいなぁと思いました。PTAで研修やっても全然人が集まらないので、参加型のものをやりたかったんです。芸能人を呼んできたりしてるのって意味があるのかな?ギャラが高いばっかりで人が集まらない、と思っていたので、ワークショップ形式でやりたいと思いました(D)。

(6)研修参加者の年齢的な偏り

見渡したところ、研修に来てる人ってすごいみんな高齢ですよね。もう少しいろんな年齢の人がいる方がいいですね。私は現役だからむっちゃダイレクトにつながれるけど、孫を抱いている人だったら、「今の若い人は…」みたいな目線になってしまうし(D)。

(7)人推員リーダー養成研修修了生の活躍の場の提供

一方で、たくさんの講座を受けて、考えて、心は動いてるけど何もやってない人もいますよね。じゃあ、今やってる人も、自分も何かやりたいと思い始めたばかりの人も、「みんなでこの企画をやってしまおう」というのが目の前にあれば良かったかなぁって。そういう機会があればもっと真実味が増すし、スキル・アップして自信つくし、次またやろうと思えるし。習ったところで発揮する機会がなければ行動に結びつきにくいと思います。

人推員になってもリーダーという立場にはならないじゃないですか。たいがい誰か先生を呼んでくるとか。もっと勉強しないと、すぐにファシリテーターになれる自信は持てない。本当にやってみたい人には、「これを受けたら証明書を渡します。証明書のある人は講師に登録できますよ」というのがあれば、そこから始まるかもしれないじゃないですか(D)。

(8)「主体的な学び、活動を」という思い

ほんまにお母さんたちって力あるんやから、間違いなく。それを引っ張り上げてくれる作業をしてくれる集まりでなかったら、何の意味もないやんというのがあって。いつまでもお客さんでいても仕方ないので。人にやってもらうことに慣れてしまって、そんな子育てで。そしたらその子自身もやっぱりしてもらうことを待ってる子になって。それは違うやろうって(D)。

私のスタンスは、たくさんの人と出会ってつながるけど、その後は「じゃあがんばってね」みたいな。任せるというか。そのときはみんな、「なんで置いていくねーん」という感じなんだけど(D)。

(9)これから人推員になる人へのメッセージ

大がかりなのだったらやっぱりワークショップでは限界があるでしょうね。でも、お互いが認め合った上で話をするという機会が必要だと思います。だから大きな祭をみんなが企画する、自分たちがこの人たちとこんなことやってみるという祭の日があって、「あんたらがそんなんやってるんや。じゃあ今度こんなこと一緒にやってみいへん?」みたいな出会いの祭みたいな。そういうのがあったら、何でも生まれていくかなと思うので。私がまさしくいろんなことやって、いろんな出会いに恵まれて、楽しかったり忙しかったりするんですけど(D)。

2 Eさんの語りから

(1)PTAをきっかけに地域で活動を始める

 もう、大人ですけれども、地域活動は息子が小学生のときのPTAから子ども会に入ってからのつながりですね。そうですね、小学校からずっと、(子どもの安全)指導員も行ってやっていますし、PTAのOBでもあるから(E)。

(2)研修で心に残った「自分自身を大切にしなければならない」という言葉

受講中は、わきあいあいといろんな方と早くに知り合いになれ、他の区の方とも知り合いになれました。横のつながりは今でもあります。講義もある程度参加型で、参加して動いての講義で退屈ではなかったです(笑)。一番良かったのは、「自分自身を大切にしなければいけない」ということでした(E)。

(3)人推員活動を通じて感じる「人権」

 私も人推員活動3期目ですが、「深く関わるなよ」ということをいう人がいたりします。最初引き受けたときは、そういうことをおっしゃる方がおられたのですが、自分自身学習していく中で、部落問題はもちろんだけど、今は身近なところに人権があるということを伝えています(E)。

(4)人推員活動を通じて「人権」を学ぶ意味

どこかで学んだことは、そのとき活かされなくても頭の中に入っていれば、「ああ、こういうときはこういう風に対処していけばいい」とか、「こういう考え方ができる」っていう風になればいいんですね。いろんな勉強をさせてもらった、したっていうことが大切なのかも。人推員活動をしていなかったら、こうしていろいろなところで人の話は聞けないだろうし。わざわざ行かないですからね。

ある程度は強制力もないと行かないじゃないですか。余程、本当に興味があること以外は偏るでしょう。そういう意味ではね、広く、いろいろな人の話を聞いて、その中で残る、残らない問題がいろいろ出てきますから。自分自身の考えているところに合えば、はまるわけですからね。そういう意味ではいろいろなことを、幅広くっていうのはやっぱりいいことじゃないかなぁ、とは思いますけど。自分自身の成長になりますもの(E)。

(5)一番関心が向くのは子どものこと

子どもに対してどういう風にしてやったらいいかな、っていうことを考えます。自分が関わっている子どもに対してどうしたらいいんだろう、と。大したことはできませんが、講座や講演会を聞いて自分の頭の中に入ってくるのは、やはり子どもとの関わりのことなんです。例えば、いじめのことであれば、自分自身を大切に、そして相手を思いやることや、自分が同じことをされたらどう思う?と必ずいいます。

最近の子はすぐ「死ね」「殺す」とかっていうのが日常茶飯事になっていて、遊んでても「死ね」「殺せ」って簡単にいってしまうから。生き返ってくるって思っているみたいなところもあるし(笑)。すぐに生き返ってきて、っていう感覚で。だから、もう何かいわれたら、「死んで謝れ」とか。「じゃあ、死ぬ」っていう子をどういう風に説得するか、そういう意味では、同じ講演に行っても、そういうところの話のときにはすっと入ります(E)。

子どもの中にも、障害者、自閉症の子もたくさんいますからね。そういう子どもも何人もいるので、どういう風につきあうとか。だから、まだこれから理解をしないといけないし、他の人にもわかってもらわないといけないことがいっぱいあります(E)。

(6)地域での人権相談の経験

お母さんの中にも悩んでいる方がおられますから、そういうときには自分が子どもを育てた経験からいろいろ話すこともあります。ただ、あまり「おかしい」とはいえないですよね。いろいろな考え方があって、否定することはできないけれど、こんな考え方もあるっていう風にはお話できるかなぁ…(E)。

(7)地域で活動することの意味:「人とのつながりが財産」

それまでは、「○○さんの奥さん」や「○○君のお母さん」でしかなかったのですが、PTAやこうした講座に参加することで、私個人の関わりでいろんな人と出会うことができました。PTAや子ども会に参加しないと出会わなかっただろうという人が、本当にたくさんいます(E)。

働いていたら会社でいろいろな人と知り合えたかもしれないし、お金に換算すると働いていた方がたくさん残っていたかもしれませんが(笑)、あ、もちろんこれは冗談ですよ、やめないでずっとやってきたこと、そして人とのつながりが私の財産ですね(E)。

(8)立場が人を作る

PTAに参加したからできたことっていっぱいありました。機会をいただくと、そのときは頑張ろうと思う。私に限らず、ボランティアとして出てきてる人は、そうしたことを嫌だと思って出てきていないと思いますよ。「立場が人を作る」というけれど、そういうチャンスを与えられたことは、私にとってはすごくうれしいことでした(E)。

あのときにPTAをしてなかったら、ああ、いま私何してるんやろなぁって、反対に思いますね。でも、人権やいろいろな話を聞いてくることは、家族にとっては知らない部分の話を持って帰ってくるわけですよね。「こんな話だよ」ということで、お互いの世界がもっと広がるじゃないですか(E)。

(9)人推員の活かし方

結局、区サイドの動きに協力するっていうのがあって、自発的に「じゃあ、自分たちで何かしましょう」っていうようなところまではないですね(E)。

働いているお母さんが増えてきているというのは事実ですよね。働いてなくて、時間的にいっぱい余裕のある人ばかりができるような状態じゃない中で、人推員活動をしやすいようにしなくちゃいけないっていうことも確かですからね。時代とともにやり方は変わっていくだろうとは思いますけれど(E)。

3 Fさんの語りから

(1)校門でのあいさつ運動

地域のリタイアしている人が、「あのおっさんがやってるなら、わしでもできるな」という人を増やそうと思ってね、池田の小学校の事件の、次の年からやりだしたんですよ。毎朝、学校の門の前であいさつ運動。「ちゃんと声出して、人の顔見てあいさつしよう」といって。校長先生が、「この頃みんな元気にあいさつできるようになった」と喜んでくれるんで、余計こっちはやってるんですけど(F)。

(2)様々な活動を地域で

僕、(少年補導)協助員というのをやってるんですよ。それはほとんどがね、中学生が相手なんです。だけどね、中学校に入ってすぐにね、「何とかさん」「何とか君」といってもね、やっぱり小学校の頃から顔なじみになっていたら、中学に行ってもちゃんとあいさつもしてくれるし、「Fのおっさん、何しに来たんやろう?」という具合でね。だから中学校からもいろんな相談受けるし、小学校からもいろんな相談受けるし(F)。

人推員の他に、子ども会関係はね、大阪市の子ども会の相談役でしょう。子ども育成連合協議会の。OB会の副会長も。民生委員、町会長、防災リーダーの隊長とか、防犯部長、防犯協会の役員。それからPTAの評議委員。中学と小学校の。それから今受けに行ってるのは、子どもと親の相談員か。市が取り組んでるやつ。あと、○○区未来まちづくりビジョンというのがあって(F)。

(3)肩書きは「地域のおっちゃん」

僕は肩書きとかいらん。だから、学校の前で立ってるのを、「地域のおっちゃん」といってるのはそれなんです。というのは、大阪日日新聞が取材に来たんですが、「あんたここに立ってるの、どんな肩書きで立ってるの?」といわれて、そのときに私は「地域のおっちゃんです」と。「それ以外の何者でもありません」と。子どもはね、今日は町会長?、今日は協助員?、なんて聞けへん。中には間違えて先生という子もおるけど、「Fのおっちゃん」といってくる(F)。

(4)人推員リーダー養成研修修了後、大阪市人権啓発推進協議会から解放大学を受講

何をするにしても、一番基礎になる教育は人権です。だから、解放大学で、ちょっと話することとか相談を受けることっていう科目があったんですけど(注:現「人権相談のあり方」)、あれでものすごく僕は勉強になりました。というのは、余計なことをせずに、とりあえず聞きなさいと。「まず人の話を聞く」というのは、なるほどなと思うのは、この前、風邪をひいたので子どもにうつしたらあかんからと家にいたら、女の子が来たと家内が家に通したんです。

3時間、とにかく、「ああ、そう」「そらしんどいなあ」とそんな程度のあいづちで、3時間しゃべって。そしたら、「おっちゃん、すっとしたわ。帰るわ、さよなら」と帰って行ったんです。ああ、これやなと。話を聞いてくれるところがないんやなと。そこで、「なんやお前、お母ちゃん聞いてくれへんのか」というと、「話でけへんから」。これは先生でもそういうことなんかなと(F)。

(5)家族の協力

うちの家内、はじめはいってました。「出過ぎやっていわれるよ」って。でも、最近は、「お父さん、助かるんやったら何とかしてあげたらいいやん」って。家内はわかってきたらしくて。・・・せやから、僕はしょっちゅう家の行事を取り壊すんです。墓参りに行こうといってても、今日は学校に行かなあかんからとか。家のもんはやっぱり了解ですわ(F)。

(6)「人権」についての考え

今の防犯、防災、地域でのいろんな未来、まちづくり、すべてに人権が基礎的に入っているわけです。いじめの問題にしても何にしても、人権侵害の問題ですからね。ですから、いじめという言葉のように面白おかしくでなく、ほんとに子どもに対する周りからの人権侵害やと。防犯、防災にしても、命や大事な物を守るということは、人権侵害を起こさないようにしようということですからね(F)。

人権って、「あなたの人権のことですよ」と伝えたい。人権というものの内容をわかるようにしてやらないと、今の、僕の世代より下でも、人権というたら「部落解放」のことしかない。で、逆差別やと。もう今は逆差別やと。いろんな報道で、ほら見てみと。こっちにしたら「ここまできたのにもう…」ということが起きたんですよ。今みたいに、やっぱり言葉で根気よく伝えるしかない。だから、研修を絶対に続けないとあかん(F)。

(7)同和地区に対する考え

たまたまうちの近くに被差別部落があって、こういうことがあるというのは逆の一面、幸せなことなんです。生の教育があるんですから。ここなんかね、うちの隣の学区よりも地域とのつながりがものすごくようけあるんです。いろんなことしてね。

うちの子らね、○○(同和地区)の子より◇◇(隣の地区)の子の方がようけお世話になってますねんで。僕が朝からあいさつ運動してたら、「おっちゃん、今日な、青少年会館でストリートダンスすんねん。見に来るか?」という話がくるんですよ(F)。

(8)区の人推員担当職員との連携

 (区の担当職員は)「こういう人がおってくれたらええ」といいます。でも、僕が企画するより、人権の係の人が企画してくれるんです。「こういうのをやりませんか?」と(F)。

(9)地域における人権啓発の難しさ

 啓発推進というのはね、僕の力では及ばん人がようけおるから。本当に啓発したいところには、なかなか入っていかれへんというかね、向こうは聞く耳もたんでしょう…。僕の思う目標の人たちを啓発するというのはなかなかね。あの砦はなかなか崩れんのですわ(F)。

「よその学校で聞いたら、(人推員は)町会長とか女性部長というのが全部やってるみたいやから順番にやられたらどうですか?」といったときに、「うん、わしは昔やったことある」というから、「ワクチンとちゃうで」と。「いっぺんやったからもうええねん」というたらあかんでと(F)。

(10)リタイアした男性を地域の人権啓発活動へという思い

 それは僕の姿を見てもらわないとしょうがない。だから、それをあっちこっちの場面で見せて、・・・「そのお立場で、できることをできるときにできるだけしてください」とはしょっちゅういうんです。うちは、動員とか絶対せんとこうと。みんなエントリー制で、その人の同意で、自分とこの意思で、来てもらわんと。

今他の地域でやっている「(地域の子どもたちの)見守り隊」でも、お年寄りがだんだんダウンしてきてはる。暑いとき、寒いときに、人からいわれてやるというのは寒くても辛抱せないかん。だけど、僕みたいに自分が好きでやっていたら元気出るわ。寒くてもやったれというのは、自分で湧き出てくる(F)。

(11)活動のモチベーション

 僕はね、自分の対象になった人が「ありがとう」とかいってくれるとね、それでもう全部飛んでまう。その一言で、「ああよかったなぁ」と寝れるし、次の朝「今日も一日やろう」と思えるし(F)。

 子どもがね、よく手紙をくれるんです。親にいわれたのか何かしらんけど、「雨の日も寒い日もありがとう」とかね。それで、おっちゃん一生懸命やってるのに、「暇なときにこんなんしてくれてありがとう」とか(笑)(F)。

4 人推員リーダー養成研修修了生の語りから見えてくる、学びとその効果について

1から3において、Dさん、Eさん、Fさんの語りより、人推員リーダー養成研修における学びと人推員活動のありようを描いた。

以下に、人推員リーダー養成研修修了生インタビューから見えてきた、当該研修が促す「学び」の要因の析出を試みる。これにより、有効な人権教育・人権啓発を行うための手がかりを提示する。

1       人推員活動以外にも地域で活躍

 人推員リーダー養成研修修了生のDさん、Eさん、Fさんは、人推員以外の活動として、NPO活動やPTA活動、子どもの安全指導員、少年補導協助員などを行い、学校や地域の人々と日常的につながりを持っている人たちである。区の担当者の呼びかけなどもあり、現在このような人びとが地域の人権啓発推進リーダーとして人推員の役割を担っている様子が見えてくる。

2       やりがいがモチベーションとなる

 では、これらの人たちが活発に地域活動行うそのモチベーションとは、いったい何であろうか。EさんやFさんのインタビューから、それは人とのつながりから生まれるやりがいであるといえそうだ。このことから、人権に関する学習や活動は、人とのつながりの中で深まるといえよう。 

それまでは、「○○さんの奥さん」や「○○君のお母さん」でしかなかったのですが、PTAやこうした講座に参加することで、私個人の関わりでいろんな人と出会うことができました。PTAや子ども会に参加しないと出会わなかっただろうという人が、本当にたくさんいます(E)。

僕はね、自分の対象になった人が「ありがとう」とかいってくれるとね、それでもう全部飛んでまう。その一言で、「ああよかったなぁ」と寝れるし、次の朝「今日も一日やろう」と思えるし(F)。

3 「人権」に対するイメージの変化

それぞれの語りから、一般的に、「人権」という言葉を聞いてまず浮かぶのは同和問題のことであり、自分自身の人権のことを思い浮かべる人は多くはないという状況が垣間見える。だが、人推員リーダー養成研修にて人権について学び、活動する中で、Dさん、Eさん、Fさんの「人権」に対するイメージが変化した様子がうかがえる。

まず、「人権とは」というところから入ったので、「あ、そんなこと考えたこともなかった」というところから知っていくことができてよかったです。で、一般的に何となく「部落は重い」というイメージというのは払拭されて、「人生って何でもありなんや」というのですごい楽しくて。そしたら、「あんなこともできる、こんなこともできる」って思えるようになりました。自分の会話の中にも人権の視点をもっと気軽に入れられるようになりましたね。人権とか環境も命を考える上で大事になってきてるから(D)。

私も人推員活動3期目ですが、「深く関わるなよ」ということをいう人がいたりします。最初引き受けたときは、そういうことをおっしゃる方がおられたのですが、自分自身学習していく中で、部落問題はもちろんだけど、今は身近なところに人権があるということを伝えています(E)。

人権って、「あなたの人権のことですよ」と伝えたい。人権というものの内容をわかるようにしてやらないと、今の、僕の世代より下でも、人権というたら「部落解放」のことしかない。で、逆差別やと。もう今は逆差別やと。いろんな報道で、ほら見てみと。こっちにしたら「ここまできたのにもう…」ということが起きたんですよ。今みたいに、やっぱり言葉で根気よく伝えるしかない。だから、研修を絶対に続けないとあかん(F)。

4 人推員活動を広げていくために

 下記は、実際に人推員活動を行っている人からなされた人推員活動をより広げていくための貴重な提案である。地域で人権教育・人権啓発を推進するためには、「出会い」、「学び」、「活動」のそれぞれのフェーズにおいてきめ細かい対応が望まれる。特に、第2章第4節の人推員アンケートの結果にも見られたように、人推員活動を通して人権についての学びを深めた人たちを、人権啓発推進リーダーとなるべく実際の活動へと誘うような、何らかの仕掛けが必要ではないかと思われる。

<出会いのための仕掛け>

大がかりなのだったらやっぱりワークショップでは限界があるでしょうね。でも、お互いが認め合った上で話をするという機会が必要だと思います。だから大きな祭をみんなが企画する、自分たちがこの人たちとこんなことやってみるという祭の日があって、「あんたらがそんなんやってるんや。じゃあ今度こんなこと一緒にやってみいへん?」みたいな出会いの祭みたいな(D)。

<主体的な活動につなげるための仕掛け>

一方で、たくさんの講座を受けて、考えて、心は動いてるけど何もやってない人もいますよね。・・・習ったところで発揮する機会がなければ行動に結びつきにくいと思います。 人推員になってもリーダーという立場にはならないじゃないですか。たいがい誰か先生を呼んでくるとか。もっと勉強しないと、すぐにファシリテーターになれる自信は持てない。本当にやってみたい人には、「これを受けたら証明書を渡します。証明書のある人は講師に登録できますよ」というのがあれば、そこから始まるかもしれないじゃないですか(D)。

5 出会いと学習、活動のコーディネーター 

そういった中で、インタビューを行った人たちは、自らが人推員活動をすることによって、周囲の人びとに対して出会いや学習、活動のコーディネートをしている様子が見えてくる(例えば、Dさん、Fさん)。その人自身が生き生きと地域で人権啓発推進リーダーとして活動する姿が、どんどん周囲の人に影響を与え、主体的に活動する人を増やしていることがわかる。

私のスタンスは、たくさんの人と出会ってつながるけど、その後は「じゃあがんばってね」みたいな。任せるというか。そのときはみんな、「なんで置いていくねーん」という感じなんだけど(D)。

ほんまにお母さんたちって力あるんやから、間違いなく。それを引っ張り上げてくれる作業をしてくれる集まりでなかったら、何の意味もないやんというのがあって。いつまでもお客さんでいても仕方ないので(D)。

それは僕の姿を見てもらわないとしょうがない。だから、それをあっちこっちの場面で見せて、・・・「そのお立場で、できることをできるときにできるだけしてください」とはしょっちゅういうんです(F)。

6 参加型学習による研修の意義

 また、Dさんの語りに示されているように、人推員リーダー養成研修では参加型学習の手法が多く取り入れられており、そのことが自分自身の人権への気づきや学びにつながった様子がうかがえる。                                                                   

一般的な研修とは全然違います。だって、めっちゃ考えるし、動くし、発見するし、他の人とつながるし。他の研修は大体、参加しても「ふーん」と思うだけでしょう。人数も他の研修は多くなっちゃうでしょう(D)。

○○小学校のPTAで人権啓発推進員を2年やって、ワークショップ形式の講座を受ける機会があって、いいなぁと思いました。PTAで研修やっても全然人が集まらないので、参加型のものをやりたかったんです。芸能人を呼んできたりしてるのって意味があるのかな?ギャラが高いばっかりで人が集まらない、と思っていたので、ワークショップ形式でやりたいと思いました(D)。

7 地域の「人権の防波堤」としての人推員の意義

Dさん、Eさん、Fさんの語りから、日々の人推員活動を通じて、地域の人から人権に関する相談を受けていることがわかる。身近に人権について学んでいる人がいることにより、気軽に悩みを相談できる環境が整えられていく可能性がある。地域の中で、人権に無関心でない人が増えていくことはとても重要なことである。しかし、相談は大変デリケートな作業であり、相談内容によっては専門的な知識やスキルが必要となることから、公的な相談機関につなぐことも地域の人権啓発推進リーダーの大切な役割であるということは押さえておきたい。

子どもが学童に行ってるから、学童には父子家庭や母子家庭の人がいるし、特に父子家庭の人は他の人と交流するのが苦手だったので、困り果てて学童もやめてしまうことになって。・・・「こんなのがあるよ」と資料をもらって、その人に伝えたり、学童の先生に知らせたりしました(D)。

お母さんの中にも悩んでいる方がおられますから、そういうときには自分が子どもを育てた経験からいろいろ話すこともあります。ただ、あまり「おかしい」とはいえないですよね。いろいろな考え方があって、否定することはできないけれど、こんな考え方もあるっていう風にはお話できるかなぁ…(E)。

「まず人の話を聞く」というのは、なるほどなと思うのは、この前、風邪をひいたので子どもにうつしたらあかんからと家にいたら、女の子が来たと家内が家に通したんです。3時間、とにかく、「ああ、そう」「そらしんどいなあ」とそんな程度のあいづちで、3時間しゃべって。そしたら、「おっちゃん、すっとしたわ。帰るわ、さよなら」と帰って行ったんです。ああ、これやなと。話を聞いてくれるところがないんやなと。そこで、「なんやお前、お母ちゃん聞いてくれへんのか」というと、「話出けへんから」。これは先生でもそういうことなんかなと(F)。

8 就業者層を活用する必要性

Dさん、Eさんの語りや人推員アンケート結果にもあるように、人推員リーダー養成研修修了生の年齢層は高く、女性が多い。このことは、就業者の過酷な労働状況・時間と人推員の研修の時間帯のミスマッチなどにより、就業者層の人推員活動への参加が難しい現状を示している。

見渡したところ、研修に来てる人ってすごいみんな高齢ですよね。もう少しいろんな年齢の人がいる方がいいですね。私は現役だからむっちゃダイレクトにつながれるけど、孫を抱いている人だったら、「今の若い人は…」みたいな目線になってしまうし(D)。

働いているお母さんが増えてきているというのは事実ですよね。働いてなくて、時間的にいっぱい余裕のある人ばかりができるような状態じゃない中で、人推員活動をしやすいようにしなくちゃいけないっていうことも確かですからね。時代とともにやり方は変わっていくだろうとは思いますけれど(E)。

9 定年を迎えた団塊の世代を活用する必要性

 同様に、Fさんの語りにあるように定年を迎えた団塊の世代を活用することも、地域の人権教育・人権啓発を進めるために必要である。特に、企業や行政において人権啓発を担っていた人のパワーは、地域にとって大きな財産となろう。

 それは僕の姿を見てもらわないとしょうがない。だから、それをあっちこっちの場面で見せて、・・・「そのお立場で、できることをできるときにできるだけしてください」とはしょっちゅういうんです。うちは、動員とか絶対せんとこうと。みんなエントリー制で、その人の同意で、自分とこの意思で、来てもらわんと。今他の地域でやっている「(地域の子どもたちの)見守り隊」でも、お年寄りがだんだんダウンしてきてはる。暑いとき、寒いときに、人からいわれてやるというのは寒くても辛抱せないかん。だけど、僕みたいに自分が好きでやっていたら元気出るわ。寒くてもやったれというのは、自分で湧き出てくる(F)。

(新木敬子)