4 人推員リーダー養成研修修了生の語りから見えてくる、学びとその効果について
1から3において、Dさん、Eさん、Fさんの語りより、人推員リーダー養成研修における学びと人推員活動のありようを描いた。
以下に、人推員リーダー養成研修修了生インタビューから見えてきた、当該研修が促す「学び」の要因の析出を試みる。これにより、有効な人権教育・人権啓発を行うための手がかりを提示する。
1 人推員活動以外にも地域で活躍
人推員リーダー養成研修修了生のDさん、Eさん、Fさんは、人推員以外の活動として、NPO活動やPTA活動、子どもの安全指導員、少年補導協助員などを行い、学校や地域の人々と日常的につながりを持っている人たちである。区の担当者の呼びかけなどもあり、現在このような人びとが地域の人権啓発推進リーダーとして人推員の役割を担っている様子が見えてくる。
2 やりがいがモチベーションとなる
では、これらの人たちが活発に地域活動行うそのモチベーションとは、いったい何であろうか。EさんやFさんのインタビューから、それは人とのつながりから生まれるやりがいであるといえそうだ。このことから、人権に関する学習や活動は、人とのつながりの中で深まるといえよう。
それまでは、「○○さんの奥さん」や「○○君のお母さん」でしかなかったのですが、PTAやこうした講座に参加することで、私個人の関わりでいろんな人と出会うことができました。PTAや子ども会に参加しないと出会わなかっただろうという人が、本当にたくさんいます(E)。
僕はね、自分の対象になった人が「ありがとう」とかいってくれるとね、それでもう全部飛んでまう。その一言で、「ああよかったなぁ」と寝れるし、次の朝「今日も一日やろう」と思えるし(F)。
3 「人権」に対するイメージの変化
それぞれの語りから、一般的に、「人権」という言葉を聞いてまず浮かぶのは同和問題のことであり、自分自身の人権のことを思い浮かべる人は多くはないという状況が垣間見える。だが、人推員リーダー養成研修にて人権について学び、活動する中で、Dさん、Eさん、Fさんの「人権」に対するイメージが変化した様子がうかがえる。
まず、「人権とは」というところから入ったので、「あ、そんなこと考えたこともなかった」というところから知っていくことができてよかったです。で、一般的に何となく「部落は重い」というイメージというのは払拭されて、「人生って何でもありなんや」というのですごい楽しくて。そしたら、「あんなこともできる、こんなこともできる」って思えるようになりました。自分の会話の中にも人権の視点をもっと気軽に入れられるようになりましたね。人権とか環境も命を考える上で大事になってきてるから(D)。
私も人推員活動3期目ですが、「深く関わるなよ」ということをいう人がいたりします。最初引き受けたときは、そういうことをおっしゃる方がおられたのですが、自分自身学習していく中で、部落問題はもちろんだけど、今は身近なところに人権があるということを伝えています(E)。
人権って、「あなたの人権のことですよ」と伝えたい。人権というものの内容をわかるようにしてやらないと、今の、僕の世代より下でも、人権というたら「部落解放」のことしかない。で、逆差別やと。もう今は逆差別やと。いろんな報道で、ほら見てみと。こっちにしたら「ここまできたのにもう…」ということが起きたんですよ。今みたいに、やっぱり言葉で根気よく伝えるしかない。だから、研修を絶対に続けないとあかん(F)。
4 人推員活動を広げていくために
下記は、実際に人推員活動を行っている人からなされた人推員活動をより広げていくための貴重な提案である。地域で人権教育・人権啓発を推進するためには、「出会い」、「学び」、「活動」のそれぞれのフェーズにおいてきめ細かい対応が望まれる。特に、第2章第4節の人推員アンケートの結果にも見られたように、人推員活動を通して人権についての学びを深めた人たちを、人権啓発推進リーダーとなるべく実際の活動へと誘うような、何らかの仕掛けが必要ではないかと思われる。
<出会いのための仕掛け>
大がかりなのだったらやっぱりワークショップでは限界があるでしょうね。でも、お互いが認め合った上で話をするという機会が必要だと思います。だから大きな祭をみんなが企画する、自分たちがこの人たちとこんなことやってみるという祭の日があって、「あんたらがそんなんやってるんや。じゃあ今度こんなこと一緒にやってみいへん?」みたいな出会いの祭みたいな(D)。
<主体的な活動につなげるための仕掛け>
一方で、たくさんの講座を受けて、考えて、心は動いてるけど何もやってない人もいますよね。・・・習ったところで発揮する機会がなければ行動に結びつきにくいと思います。 人推員になってもリーダーという立場にはならないじゃないですか。たいがい誰か先生を呼んでくるとか。もっと勉強しないと、すぐにファシリテーターになれる自信は持てない。本当にやってみたい人には、「これを受けたら証明書を渡します。証明書のある人は講師に登録できますよ」というのがあれば、そこから始まるかもしれないじゃないですか(D)。
5 出会いと学習、活動のコーディネーター
そういった中で、インタビューを行った人たちは、自らが人推員活動をすることによって、周囲の人びとに対して出会いや学習、活動のコーディネートをしている様子が見えてくる(例えば、Dさん、Fさん)。その人自身が生き生きと地域で人権啓発推進リーダーとして活動する姿が、どんどん周囲の人に影響を与え、主体的に活動する人を増やしていることがわかる。
私のスタンスは、たくさんの人と出会ってつながるけど、その後は「じゃあがんばってね」みたいな。任せるというか。そのときはみんな、「なんで置いていくねーん」という感じなんだけど(D)。
ほんまにお母さんたちって力あるんやから、間違いなく。それを引っ張り上げてくれる作業をしてくれる集まりでなかったら、何の意味もないやんというのがあって。いつまでもお客さんでいても仕方ないので(D)。
それは僕の姿を見てもらわないとしょうがない。だから、それをあっちこっちの場面で見せて、・・・「そのお立場で、できることをできるときにできるだけしてください」とはしょっちゅういうんです(F)。
6 参加型学習による研修の意義
また、Dさんの語りに示されているように、人推員リーダー養成研修では参加型学習の手法が多く取り入れられており、そのことが自分自身の人権への気づきや学びにつながった様子がうかがえる。
一般的な研修とは全然違います。だって、めっちゃ考えるし、動くし、発見するし、他の人とつながるし。他の研修は大体、参加しても「ふーん」と思うだけでしょう。人数も他の研修は多くなっちゃうでしょう(D)。
○○小学校のPTAで人権啓発推進員を2年やって、ワークショップ形式の講座を受ける機会があって、いいなぁと思いました。PTAで研修やっても全然人が集まらないので、参加型のものをやりたかったんです。芸能人を呼んできたりしてるのって意味があるのかな?ギャラが高いばっかりで人が集まらない、と思っていたので、ワークショップ形式でやりたいと思いました(D)。
7 地域の「人権の防波堤」としての人推員の意義
Dさん、Eさん、Fさんの語りから、日々の人推員活動を通じて、地域の人から人権に関する相談を受けていることがわかる。身近に人権について学んでいる人がいることにより、気軽に悩みを相談できる環境が整えられていく可能性がある。地域の中で、人権に無関心でない人が増えていくことはとても重要なことである。しかし、相談は大変デリケートな作業であり、相談内容によっては専門的な知識やスキルが必要となることから、公的な相談機関につなぐことも地域の人権啓発推進リーダーの大切な役割であるということは押さえておきたい。
子どもが学童に行ってるから、学童には父子家庭や母子家庭の人がいるし、特に父子家庭の人は他の人と交流するのが苦手だったので、困り果てて学童もやめてしまうことになって。・・・「こんなのがあるよ」と資料をもらって、その人に伝えたり、学童の先生に知らせたりしました(D)。
お母さんの中にも悩んでいる方がおられますから、そういうときには自分が子どもを育てた経験からいろいろ話すこともあります。ただ、あまり「おかしい」とはいえないですよね。いろいろな考え方があって、否定することはできないけれど、こんな考え方もあるっていう風にはお話できるかなぁ…(E)。
「まず人の話を聞く」というのは、なるほどなと思うのは、この前、風邪をひいたので子どもにうつしたらあかんからと家にいたら、女の子が来たと家内が家に通したんです。3時間、とにかく、「ああ、そう」「そらしんどいなあ」とそんな程度のあいづちで、3時間しゃべって。そしたら、「おっちゃん、すっとしたわ。帰るわ、さよなら」と帰って行ったんです。ああ、これやなと。話を聞いてくれるところがないんやなと。そこで、「なんやお前、お母ちゃん聞いてくれへんのか」というと、「話出けへんから」。これは先生でもそういうことなんかなと(F)。
8 就業者層を活用する必要性
Dさん、Eさんの語りや人推員アンケート結果にもあるように、人推員リーダー養成研修修了生の年齢層は高く、女性が多い。このことは、就業者の過酷な労働状況・時間と人推員の研修の時間帯のミスマッチなどにより、就業者層の人推員活動への参加が難しい現状を示している。
見渡したところ、研修に来てる人ってすごいみんな高齢ですよね。もう少しいろんな年齢の人がいる方がいいですね。私は現役だからむっちゃダイレクトにつながれるけど、孫を抱いている人だったら、「今の若い人は…」みたいな目線になってしまうし(D)。
働いているお母さんが増えてきているというのは事実ですよね。働いてなくて、時間的にいっぱい余裕のある人ばかりができるような状態じゃない中で、人推員活動をしやすいようにしなくちゃいけないっていうことも確かですからね。時代とともにやり方は変わっていくだろうとは思いますけれど(E)。
9 定年を迎えた団塊の世代を活用する必要性
同様に、Fさんの語りにあるように定年を迎えた団塊の世代を活用することも、地域の人権教育・人権啓発を進めるために必要である。特に、企業や行政において人権啓発を担っていた人のパワーは、地域にとって大きな財産となろう。
それは僕の姿を見てもらわないとしょうがない。だから、それをあっちこっちの場面で見せて、・・・「そのお立場で、できることをできるときにできるだけしてください」とはしょっちゅういうんです。うちは、動員とか絶対せんとこうと。みんなエントリー制で、その人の同意で、自分とこの意思で、来てもらわんと。今他の地域でやっている「(地域の子どもたちの)見守り隊」でも、お年寄りがだんだんダウンしてきてはる。暑いとき、寒いときに、人からいわれてやるというのは寒くても辛抱せないかん。だけど、僕みたいに自分が好きでやっていたら元気出るわ。寒くてもやったれというのは、自分で湧き出てくる(F)。
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