島団地は、1960年代後半に、同和対策により一度建て替えが行われているが、当時支配的であった近代化論、それに起因する「合理的・機能的な住宅」政策に基づき、極めて問題のある住宅構造になっていた。当時標準的なものであったいわゆる中廊下方式が採用され、廊下の両側に住宅を配し、炊事場の換気扇が廊下側に置かれていた。後でつけられたクーラーの配管や配水管も廊下・壁に露出していた。行政側はこの状態を放置し、転出入の管理もずさんで、住宅はスラム化し、住民の生活も荒廃し、その結果、物理的・社会的隔離状態を生み出していた。
そこで、建て替え調査に際し、まず御坊市民・行政に対して放置したことについての問題提起を行った。次にソーシャル・ワーカーやケース・ワーカー、カウンセラーの協力の下、団地各住民の抱える困難を徹底してチェックした。この膨大なデータをもとに、一人一人にどう対処するかを浮かび上がらせた。その上で自発的に志願した行政職員を改善事務所に配置し、まず入居管理を再構築した。
このように、住民がおかれている実態全般の改善を目的として、行政と住民とのコミュニケーションをはかり、信頼関係を築くいていくことにより、住民自ら「見直し会」(まちづくり委員会)を結成した。行政や専門家らは、そこにあらゆる問題を投げかけ、相談を受け付けた。建て替えに関わるあらゆる点について、住民が主体的に考えるというスタイルを貫いた。
つまり、住環境というハード面のみならず、生活実態というソフト面をも重視し、人権やシビル・ミニマム実現という目的を徹底した。建て替えに当たっても住民の発意を基本に据えたのである。財源的にもすべて一般対策を用いた。その結果、非常にきれいな住宅が完成し、町内会・自治会も強固になった。一般向け住宅もあわせて建設したところ、応募が殺到するほどであった。行政側の対応もまた、積極的になった。
以上の経験から、いくつかの一般論が導かれうるが、その詳細については、今後精緻化していくこととする。