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「人権のまちづくり」事例収集比較研究・提言プロジェクト・学習会報告
2003年5月27日

『浸水のまち』から『親水のまち』へ
-滋賀県栗東市十里のまちづくり-

杉江勝(栗東市教育部次長)
井之口敏男(部落解放同盟滋賀県連十里支部長)

 十里地区は、地形的に低地・くぼ地に形成されており、洪水被害を頻繁に受けていた。老朽化した住宅が密集し、道路も狭隘であった。地区の改善事業は以前から一定進められていたものの、根本的な浸水の問題については、欠落していた。この解決のため、運動団体からの厳しい要望がかねてから寄せられていた。

 しかし、こうした問題の解決には多額の費用を要するため、国の事業補助を勝ち取る必要があった。そこで、地域住民、運動団体、行政が一体となって、国の「小規模住宅地区改良事業」(一般事業)の導入を目指して、住宅の良・不良度判定調査を実施するとともに、まちづくりの基本計画構想を形成するために、住民の要望を引き出すワークショップ形式を用いた。

このようにして2000年に「十里地域まちづくり事業推進委員会」が発足し、まちづくりの基本理念として、(1)安全で快適な住環境づくり、(2)地域の魅力を生かしたまちづくり、(3)高齢者にやさしいまちづくり、(4)地域コミュニティーを育むまちづくり、(5)一人ひとりの思いを大切にするまちづくり、を掲げた。さらに移転後の場所や建て替え費用などについて協議を経て、住民の総意として、基本計画案を策定した。その後旧建設省に事業承認申請書を提出し、承認された。

  おもな事業内容としては、公共施設用地を整備すると共に、住民もまた、買戻し等により自力建設を目指すというもので、具体的には、くぼ地の地盤を上げ、道路を整備し、住宅を改善するというのが基本的な柱である。従前の人口としては、75世帯200人あまりであったが、現在83世帯230人ほどに増加している。公共施設用地(道路・公園など)を確保するに伴い、用地買収に対する補償を原資として、自力建設費用に充当するという形態が半数、残りは改良住宅とした。

  10戸は良住宅として、存置された。このように、全てが改良住宅という形態をとったわけではない。また、地区のみならず、水路や農道、社会・福祉施設等の関係で、周辺地域の整備も念頭においた事業計画となっている(公園の位置・規模、旧隣保館の立地など)。工期は3年という短期間で行えたが、これは地域住民との協働、パートナーシップによるところが大きい。また、まちづくり協定が策定され、景観形成などの維持管理について、各住民の努力が求められている。このような住民の熱意とは、やはり部落の完全解放を目指すという思いに根ざしたものである。

 運動側の思いとしては、従前の改善事業が名目的な改善しかもたらさなかったことにつき、なかなか動かない行政に対して度重なる交渉を持ってきた。町長等の視察や前向きな回答を勝ち取ったものの、議会の反発を受けた。その打開のために、建設省交渉を持ち、課長補佐視察を受け、事業の必要性を認識させた。

 住民への啓発が次の課題であった。事業実現に懐疑的な住民を説得し、各種団体が交渉や事業計画案策定へ参画するよう促すために、かなりの努力をおこなった。補償額や建て替え費用、さらには用地割当について、協議を重ねてきた。このように、住民の納得の上に事業を推進したことが、短期間に地域を作り変えていく上で重要であった。現在の課題としては、やはり、この不況下で、各住民が買上費用や家賃の支払いを安定的に行っていけるかどうか、である。

(文責:事務局)