調査研究

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2004.04.10
部会・研究会活動 <「人権のまちづくり」事例収集比較研究・提言プロジェクト
 
「人権のまちづくり」事例収集比較研究・提言プロジェクト・学習会報告
2004年2月25日

部落解放同盟高知市協の福祉の取り組み

(報告) 森田 益子(部落解放同盟高知市協議長)

組織運営の改革

 部落解放同盟高知市協は1975年よりそれまで受けていた団体補助金を返上した。これは、「時限立法はいつか必ず切れる、それを見越した組織運営を考えていこう」という討議を重ねてきた結果の決断であった。

 それ以降の組織運営については、賛助会員方式と、低賃金をいとわない自発的な運動参加を基本スタイルとしている。なお、この賛助会員費は経済的基盤が安定しはじめた2001年には、地区の人を除いてお礼を述べながらも辞退するようにしている。また、この改革とあわせて公的施設や公園の清掃委託や警備委託など、部落の人びとの仕事保障の要求もおこない、1978年には労働事業団として社団法人部落解放高知市労働事業協会を設立したが、その設立の際には行政から有用な助言を多くいただいた。

福祉ステーション やさしいグループ

 1991年ごろからは「地域福祉」にも問題意識がいくようになり、とくに2000年の介護保険実施に乗り遅れないための議論を重ねてきた。その具体化が介護委託の可能性の追求であり先述の協会の福祉部門としての「福祉ステーションやさしいグループ」の設立である。やさしいグループは2000年4月1日より指定訪問介護事業の認可を受け、宅老事業委託、高齢者安否確認事業、ミニデイサービス委託、障害者介護事業などをおこなっている。これもまた立ち上げ当初は金も技術や資格もない状態で、行政からいろいろな助言や指導をいただいた。そして、この事業によって地区住民、とくに女性の雇用創出が実現し人権・福祉のまちづくりが進んでいる。

部落解放運動が社会的困難層の「守り神」に

 一般的には、介護事業では経費節約のため「常用」ヘルパーは多くを置かず「登録」ヘルパー中心で運営しているが、やさしいグループでは「仕事保障」が念頭にあるのでほとんどが「常用」でスタートし経営的には赤字スタートであった。また、介護を受ける方も地区の人がほとんどなので老後年金が少なく、「一割負担」も困難な人が多いという問題があったり、ヘルパーの資格をとるのに金がかかるといった問題もあった。そこで、互助会制度をつくり一割負担を補いながら利用者の人権を最大限守れるように努めたり、無料のヘルパー養成講座を提供したりしている。この考え方の根本には、部落解放運動こそが部落の人びとや社会的に弱い立場の人びとの「守り神」になろうという強い思いがあり、いいかえれば社会への貢献である。

 そして2004年6月末には地域交流の拠点やグループホーム、デイサービスなどの機能を備えた自前の施設が落成することになっている。

新たな時代に向けた人権と福祉のまちづくり

(報告) 木村 重來(やさしいグループホーム建設準備室長)

部落解放運動をとりまく環境の変化

 長年たずさわってきた行政の視点から報告していきたい。

 1996(平成8)年の「地対協意見具申」は、「一般対策のへの移行が同和問題の早期解決を目指す取り組みの放棄を意味するものではない」と指摘している。これをふまえた今後の取り組みが大切である。また、地方分権の流れが本格化している今日、中央集権による画一的政治や社会の仕組みが崩壊し、「多様」をキーワードにした新しい価値観が生まれてきている。

 このような状況のなか、高知市でも同和対策見直しの取り組みがおこなわれたが、それは地域の実態の把握、客観的な数字を示すことからはじめられた。結果、高齢化率は市平均18.2%に対して地域20.5%、無年金率、市27.4%に対して地域34%や市平均より高い失業率、低所得層が多く高所得層が少ない、高い生活保護状況などが明らかになった。そして清掃等の委託事業のみの対策から、福祉を中心とした高齢者事業団の側面的支援、具体にはこれまでの隣保館事業の各種講座を見直しヘルパー養成講座を開設、ミニデイサービスの委託などに取り組んだ。

市民によるまちづくりへの支援

 また、直接同和対策とは関わってはいないが、分権化社会に対応するための取り組みとして、高知市では1990(平成3)年にコミュニティ計画の策定事業が始められた。作業としては、高知市全体を地域の視点で区分し、各地区ごとに市民参加で計画案を策定し、1992年には67項目ごとの現状分析を行った地区カルテが作成された。市の職員の参加は、研修によって必要な知識を身につけた106人がまちづくりパートナーとして位置づけられ、住民組織づくりとしてはコミュニティ計画策定市民会議を順次結成し、1079人が参加した。

 こうして提案されたコミュニティ計画案は約1500の具体的な項目が含まれ、各項目ごとに短期・中期・長期といった実施時期と、行政が主体となるもの、市民が主体となるもの、あるいは市民と行政が協働で行うものといった役割分担からみた考え方も示されていた。つづいてこのコミュニティ策定作業から次のステップである具体的なまちづくり活動につなげていくものとしてコミュニティ計画推進市民会議が結成され、計画をもとに地域の特性を活かしたさまざまなまちづくり活動がすすめられるようになった。

これからの解放運動、同和行政の役割

就労、教育、福祉、啓発など残された課題に対する解放運動や同和行政の役割について、住民の期待は大である。これまでの格差是正中心の運動や行政から、地域の特性を活かした創造の時代へと確実に質的変化がおこってきている。

キーワードは、まず「コミュニティ」である。市町村合併が進められるなか、コミュニティがより重視されなければならない。とくに地域内でのコミュニティ、人と人とのつながりは蓄積された財産として色濃く残っている。

そして次のキーワードは「参加、参画、提案」である。制度のみではなく「人」も大切である。地域のニーズを的確に把握することが重要であり、そのためには多くの住民参加による共通認識が必要である。

(松下 龍仁)