調査研究

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2004.07.28
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「人権のまちづくり」事例収集比較研究・提言プロジェクト・学習会報告
2004年6月10日

『隣保館運営事業実態調査』をふまえた現状と課題

楠木克弘(全国隣保館連絡協議会顧問)

はじめに

今回の「隣保館運営事業実体調査」は、厚生労働省によるもので、現在ある隣保館の運営実態を把握し、併せて隣保館のおかれている問題点、課題等を把握し、今後の隣保館活動の活性化を図るとともに、その隣保館の置かれている地域の傾向、課題、住民ニーズ等を把握し、今後の隣保館活動の方向性を創出すること、を目的としている。調査項目は、(1)隣保館運営事業実態調査、(2)隣保館運営事業実態調査行政データ、(3)(2002年度)隣保館の事業実績について、から成っている。

実態調査結果の概要

(1)隣保館運営事業事態調査

全隣協が把握する全国の隣保館985館に対して、この項目について946館の回答があった。

おもな項目のうち、職員数は3778人で、うち相談事業を行っているものは全体の65%にあたる2461人。また、1館あたりの職員数では、「3人」の278館(29.4%)がもっとも多く、次いで「2人」の228館(24.1%)であった。

事業(啓発、広報、講座、交流事業等)の地域規模については、「近隣周辺地域を含む地域」が240館(25.4%)、ついで「旧地域改善対策対象地域」が233館(24.6%)であり、「当該自治体(市町村)」と回答があったところは217館(23.0%)であった。

2002年度の館利用人員からは、「活用されているが、まだ改善の余地はある」との評価が75%にあたる714館から回答されており、とくに新たな事業の創設や対応する人員の能力向上の必要性が回答されている。そして「活用されていない」理由としては、「人員不足」(40.4%)、「予算不足」(24.6%)が多かった。また、専門職員の配置については、半分にあたる474館(50.1%)で「とくに配置されていない」状況になっている。

基本事業のうち相談事業については、「相談に訪れる人が少ない」(479館34.0%)、「関係機関との日常的接触が弱い」(233館16.5%)がおもな悩みとして回答されている。特別事業については、622館(65.8%)で実施されており、そのうち584館(94.3%)が「直営実施」で「委託実施」は35館(5.7%)であった。

(2)隣保館運営事業事態調査行政データ

今回の調査では隣保館事業対象地域の傾向や特徴を把握するために、<1>人口構造、<2>年齢別階層別構造、<3>生活保護の受給期間、<4>世帯類型、に着目して市町村全域との比較調査も行われた。しかしながら、(1)の隣保館事業の地域規模をみるとわかるように、「旧地域改善対策対象地域」、いわゆる同和地区を対象としているところは全体の24.7%のみであり、この調査結果からは同和地区と地区外の較差を正確に把握することはできないものになっている。

(3)隣保館基本事業の事業実績について

この項目に関しては、2002年度の事業実績について943館からの回答があったが、基本事業(6事業)の中でもっとも実施率が高かったのは「相談事業」の98.7%(931館)で、逆にもっとも低かったのは「社会調査及び研究事業」の31.4%(296館)であった。以下、2002年度の実績を簡単に紹介する。

  1. 「社会調査及び研究事業」を実施した館は296館(31.4%)で、1館あたりの平均実施回数は6.2回。
  2. 「相談事業」を実施した館は931館(98.7%)で、1館あたりの平均実施回数は197.2回。
  3. 「啓発・広報事業」を実施した館は855館(90.7%)で、1館あたりの平均実施回数は21.1回。
  4. 「地域交流」を実施した館は918館(97.3%)で、1館あたりの平均実施回数は250.6回。
  5. 「周辺地域巡回事業」を実施した館は566館(60.0%)で、1館あたりの平均実施回数は28.0回。
  6. 「地域福祉事業」を実施した館は760館(80.6%)で、1館あたりの平均実施回数は54.7回。

今回の調査の意義と今後の課題

今回の調査については、中央省庁としての厚生労働省が全国規模で実態調査を実施したこと自体に大きな意義を持っており、全隣協としても評価している。しかしながら、事業対象地域が各館によってばらつきがあり、いわゆる同和地区を対象としているところから行政区(自治体)全域を対象としているところまであり、部落の実態把握という面については課題を残している。今後、同和地区の定義について「旧同和対策事業実施地域」という方向での理論的整理が必要である。

全隣協としても、ここ最近、5年に1回実施してきた「実態調査」を本年秋に予定している。この調査は、今回の厚生労働省の調査結果を踏まえて、より部落の実態把握に迫れる項目を検討しく方向である。

さらに、<1>市町村合併と人権・同和行政、<2>三位一体改革と補助金の見直し、<3>施設運営の指定管理制度導入、といった動きが今後の隣保館運営に大きな影響を及ぼしていくと思われる。これらの問題についての議論も深めていきたい。(松下龍仁)