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2004.10.14
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「人権のまちづくり」事例収集比較研究・提言プロジェクト・学習会報告
2004年9月17日

地方自治憲章と人権のまちづくり

辻山幸宣(地方自治総合研究所)

  現在、地方自治体において、「自治基本条例」を制定する動きが進んでいる。

  2001年のニセコ町まちづくり基本条例を嚆矢として、約20の市区町村、そして北海道で制定され、さらに制定を検討している自治体は30にのぼる。この種の条例については、報告者は(1)最高条例性、(2)総合性、(3)原理原則性・名称の三点を基本的な特徴として他の条例と区別している。

  これらの条例が制定される背景としては、まず(1)戦後行政の量的拡大が一定終息し、今後は質の充実へと地方行政がシフトしていること、(2)成長期のスタンダードとして行政主導で進められた都市開発が、必ずしも現在住みよいまちになりえていないこと、さらに(3)市民の意識変化により、地方自治における住民の「自己決定」が広く問われるようになってきたことが挙げられる。このように、地方自治のあり方においてより積極的に市民が参画することとなり、様々な決定を行うにあたって、そのしくみを創り、また分権型社会をより実体化するために、かかる基本条例を制定することが求められているのである。

  このような基本条例の基本的性格としては、まず住民と自治体政府との信託関係を明記することで、自治体政府の行動を制約し、また市民が自治体をコントロールするための手段を備えること、次に、まちづくりのための憲法典として、市民自治のルールや市民社会の自己統治原則、すなわち人権保障や協働・参加のあり方を示すものであることが見出せる。

  但し、このような条例を制定することについて、いくつかの論点がある。まず第一に、(1)条例制定がなぜ必要なのかという点が必ずしも議論されないまま、いわば「標準装備」として、「他の自治体にもあるから備えておかなければ」といった流行となっていること、(2)また、最高条例性を備えているため、他の条例との関係で解釈指針となる。他方で、それゆえにこそ「あってもなくても変わらない」ということになりかねないこと、また、改正規定のあり方について硬性にすべきか、それとも軟性にすべきかという点、(3)「法律に反しない限り」という点で、条例上規定できる内容には限界がありうること、(4)基本的な用語(「市民」の範囲や「協働」など)の意味について、必ずしも合意がなく、特に外国人や未成年者の参加をどうするかなど、議論がある。

  さらに、策定に関わっては、市民参加のあり方について、全く問題がないわけではない。「自覚ある」市民が参加することが重要であるとしても、その選抜手続はどうするのかという点、また、多くの市民が参加すれば、却って大人数の会議を運営するという困難が生じる。参加する市民の正統性(どれだけの市民を代表しているか)という点、自治体職員や有識者との関連性、さらには議会や首長との関係についても、一定整理する必要があろう。

(李嘉永)