地方自治の国際的保障の背景
地方自治を国際的に保障しようとする運動はヨーロッパの自治体から始まり、現在では世界的な運動となっている。この背景には、戦後ヨーロッパの再建に影響を与えたスイスの国制史家であるアドルフ・ガッサーの地方自治思想と、1980年代におけるEC統合とそれに対応する国境を超えた自治体関係者の地方自治擁護運動等があった。今日の日本の地方分権改革はこのような世界的な流れと連動している。
地方自治の国際的保障の流れ
地方自治の国際保障についての大きな流れは、まずヨーロッパ評議会(CE)の附置機関、ヨーロッパ市町村協議会(CLAE)が採択した「地方自治の原則に関する宣言」(1968年)があるが、これは実現には至らなかった。その後、一定水準の地方自治を国際的に保障しようとした世界初の多国間条約として「ヨーロッパ地方自治憲章」が1985年6月に採択され、1988年9月に発効したのである。そして2003年5月2日現在、CEの加盟国45カ国が署名、38カ国が批准している。
このようなヨーロッパの取り組みが広がり、地方自治の世界的保障をめざして都市・自治体世界調整協会(WACLAC)と国連人間居住センター(UNCHS)が共同で起草した世界地方自治憲章第一次草案が1998年5月に登場し、より地方自治の存在意義を明確化した2000年4月の第二次草案へとつながっていく。
国際的スタンダードとしての「補完性原理」
権力が多層化しているヨーロッパでは、ある課題についてどの階層が権限を持つのかということが大きな問題になり、その対処の基本的な考え方となるのが「補完性原理」である。
「補完性原理」とは、社会や政治・行政のより小さな活動を優先、すなわち個人や家族、地域などの小さな単位で可能なことはそれに任せ、そこで不可能あるいは非効率的なものだけを、国などより大きな単位が行うという考え方である。この補完性原理は地方自治の意義を再評価する上でも注目されており、ヨーロッパ地方自治憲章締約国の多くは補完性条項の適用に賛成している。
おわりに -今後の課題
日本での課題としては、まずこのような地方自治の国際的保障と日本の地方自治制度の異同についての確認作業があり、国連総会での採択が予定されている世界地方自治憲章草案に対する対応、国際自治体連合への加入問題等がある。
また、地方自治法が補完性原理を保障しているのか、その原則を憲法92条(地方自治の本旨)から引き出せるのかという法解釈の検討が必要であるとともに、補完性原理の適用範囲がどこまで及ぶのかという検討も必要である。
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