調査研究

各種部会・研究会の活動内容や部落問題・人権問題に関する最新の調査データ、研究論文などを紹介します。

Home調査・研究プロジェクト・報告書一覧 国際身分制研究会研究会 > 学習会報告
部会・研究会活動 <国際身分制研究会研究会>
 
国際身分制研究会研究会・学習会報告
1999年11月3日

差別史研究の諸問題

(報告)ひろたまさき(甲子園大学)

------------------------------------------------------------------------

 ひろたさんは、近代における差別に限定して、何故に庶民自身が差別するのかという構造を解明しようとした。

 差別に関する論考は「美作血税一揆に関する若干の問題」を始め5本ある。初めに、民衆意識と共同体の規範や文明を問い、次に、民衆意識における三層構造論(豪農、一般民、奈落の三層)を追求した。「日本近代社会の差別構造」では国民国家論やポストモダニズムの影響もあり、近代の規範意識との関係から検討した。

 その何れも『福沢諭吉研究』を出発点にし、近代日本の主たる思想の差別論理の必然性について言及したものであり、近代における差別という認識の原点を示すものであった。

 もとより、ひろたさんは同化と異化の問題を差別克服の道として取り上げたので、その認識は一般的なそれとは違う。同化は先住民らの主体的な活動と捉え、また、異化を伝統的生活を保持する事とした。というのも、一般庶民への同化によって差別から逃れるようなことがあり得るし、異化については同化によって自立が果たされるとすれば、同化の反対語として自立は使用できないからである。

 換言すれば、同化による差別解消とは、被差別集団が上昇指向によって同化を果たし、集団として解体されることがあるので、その反対は伝統文化の再発見によるアイデンティティーの回復を計る異化でしかない。

 ところで、異化と同化については黒川みどりの論究がある。しかし、その論は同化について、明治10年代と1910年代を直結させる等の問題点がある。本来なら、その間には帝国主義段階の断絶がある。なぜなら、それによって、部落民は植民地との異化を果たすべく、際限のない同化を行わねばならなくなったからである。

 又、元来、同化の基準は曖昧であり際限がなかった。然るに水平社創立宣言では、異化を小さな伝統に回帰させるのではなく、自由、平等といったより普遍的価値を前面に押し出し、異化の世界化を図り同化の脱却を目指した。しかし、その異化が矮小化された伝統に回帰するとき、結局、同化へ還元するのではないかとひろたさんは結んだ。

(事務局)