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国際身分制研究会研究会・学習会報告
2001年5月20日

『Descent(世系)』差別をめぐる国連を中心とした動向について

(報告)友永健三(部落解放・人権研究所)

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国連の関係で、部落問題やインドのダリットの問題がようやく注目されるようになってきた。

国連で差別撤廃を掲げた最初の条約である人種差別撤廃条約は、「人種差別」を「人種、皮膚の色、世系または民族的もしくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限または優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げまたは害する目的または効果を有するもの」(第1条1項)と規定している。

「人種」「皮膚の色」「世系」「民族的出身」「種族的出身」の五つの事由を挙げているが、この中の「世系 descent」という事由が、部落問題やインドのダリットの問題と関わってくる。

「世系」というのは、言語であろうと歴史であろうと、とにかく一続きの系譜をもつものは何でも包みこむ概念である。例えば、大阪大学の村上正直先生は、わざわざ5つの事由の中に「世系」という概念を入れたのは、他の4つではカバーできないものを包みこむためと考えるのが妥当ではないかと述べられている。

日本政府は、世系を「この条約の適用上、人種、民族から見た系統を表す言葉」だと説明し、したがって人種差別撤廃条約はあくまで「人種」か「民族」かを対象としているんだという見解で部落問題との関係を避けようとしてきたが、この見解には以下に紹介するような動向の中で変更が迫られている。

まず1996年に人種差別撤廃委員会がインド政府の報告書に対して出した「最終所見」だった。そこで委員会は「条約第1条が規定する『世系』という文書が人種のみを指しているものではない」と明言しているのである。これはカースト差別に対するものだったが、当然この見解は、日本における部落差別も条約の対象に入る可能性を示唆していた。

事実、本年3月委員会は、日本政府の報告書に対する「最終所見」でも条約第1条に規定されている人種差別の定義の解釈に関して、委員会は締約国とは反対に、「世系(descent)という文言が独自の意味をもち、人権や種族的出身と混同されてはならないと考える。

したがって、委員会は締約国に対して、部落の人びとを含むすべての集団が、差別に対する保護、および条約第5条に規定されている市民的、政治的、社会的および文化的権利の完全な享受を確保するよう勧告する」と指摘している。だから、委員会が部落問題を対象として考えていることがはっきり分かる。

人種差別撤廃条約の締約国は、委員会が最終所見において提起したすべての諸点に触れる形で次回の報告書を出す義務があり、日本の場合には、3回目と4回目の報告書を2003年1月14日までに提出しなければならない。

こうした流れの中で、昨年の8月11日には、「国連・人権の促進及び保護に関する小委員会」が「職業と世系に基づく差別」に関する決議を採択した。この決議によって、日本の部落差別やインドのダリットに対する差別などが、国連において「職業と世系に基づく差別」“Discrimination based on work and descent”と規定される可能性か出できた。

従来、日本において用いられてきた「身分差別」に当たる適当な英語が存在せず、仕方なくcaste-likeという言葉がよく使われてきたが、ひとつの方向性として、これを「職業と世系に基づく差別」という言葉で定義する可能性も出てきたわけだ。

とりあえず今年の8月30日から9月7日まで南アフリカのダーバンで開催される国連主催の人種差別撤廃世界会議「ダーバン2001」で、その「宣言」、「行動計画」の中に職業と世系に基づく差別撤廃が盛り込まれるように働きかけている。これまで、部落解放運動は世界会議の中に部落差別に関わる宣言や行動計画を入れさせる運動はしてこなかったが、ついに、そういった段階にまで入ったわけである。 (山本崇史)