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国際身分制研究会研究会・学習会報告
1998年11月01日
中国の蛋民について
―その歴史的考察―

(報告)可児弘明(慶応義塾大学名誉教授)


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 蛋民というのは船上生活者である。今ではもう、数は少なくなってしまった。ここで私なりの船上生活者の定義をしておくと、(1)陸上に土地や建物を持っていない。(2)船に家財道具を積み、家族と共に生活をする。(3)その船で水上の労働に従事する、この3つの条件をみたしている者を船上生活者とみなしている。これ以外にも、様々な事情で船上に暮らしている人がいる。これをどう取り扱うべきかという問題は残るが、定義を柔軟にしておき、蛋民の問題を逃してはならないと考えている。

 まず、歴史的文献から蛋民の部分を私なりに整理した。蛋という言葉は、我々が広東省で目にすることの出来る蛋が北宋以後現れる。現在蛋民と呼んでいる人たちは漢民族であり、言葉も広東語の訛であるため、少数民族という概念には当てはまらない。


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 しかし、蛋民には身分差別が生じる。清代の文献で、蛋民は「丘に上がらせず、陸上で家を持たず、陸上の職に就かせない」と広東省の陸地の人々に扱われていた。それに対し、時の政府は「解放令」を清代以降出したが、具体的政策が伴わなかった為に実際は差別が残存した。なぜ、蛋民が差別を受けなければならなかったのか、という問題だが、これは起源にもかかわる。

 蛋民の起源は、歴史的文献では非漢民族の少数集団、反乱者の子孫、あるいは亡国の民と言われたりしている。しかしこれらの説はどれも信憑性が無く、現在ではそのどれもが否定されるところである。従って、明確な起源が何かというのは、現段階ではわからない。おそらく異質の生活形態から、陸上の人に差別されたのではないか、と考えられる。

 起源と、どの時代から差別されるようになったのかを明確にすることで、現代の船上生活者と周囲の対応関係を改善することができると考えている。

(小森田明子)