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1. 文化人類学と分子人類学
ヒトは文化によって環境に適している。つまり、文化なしでは生存できないという独特の進化をしてきた。だが人類を知ろうとすると文化だけでは不充分である。人類学も細分化し、文化のみならず遺伝子単位の研究が必要となってきた。
私は人類の進化過程での多様性を分子(遺伝子・DNA)レベルの視点で研究している。一個の遺伝子はおよそDNA数千から数万個でできている。ヒトの遺伝子をすべて統合したものをゲノムという。
人類の系統発生(人類の発生と経過)の概略を言えば、人類というのは一種類でない。およそ400万年前に何種類かの猿がアフリカで発生している。かつては、二足直立する特殊な猿は一種類だけだと考えられていたため、発展段階説が唱えられてきた。しかし、猿人にも様々な種族がいて、その中で環境に適応できたものが増えていったのである。
猿人の後100万年ほど経つと、原人が増え始めた。彼らは世界中に広がり、火を使用し、組織的な狩猟を行ったことである。さらに旧人は、価値判断と想像力を司る脳が発達し始め、漠然とした宗教観を持ち始めた。これは文化でもって環境に適応できるようになったことを意味している。さらに、新人や現代人になると芸術活動を開始している。
以上は、文化的な観点から見た人類の派生であるが、分子レベルで見ても、人類がどのようなつながりをもち、どのような派生をしていったかがわかるのである。民族の形態だけでもDNAからだけでも人類の研究はできない。
2.日本人の起源
人類の起源研究は両方の視点からしなくてはならない。日本人は人類学的に見れば本土の人、アイヌ・琉球人など「日本列島のヒトの集団」である。島国なので文化的な均質感があるが、遺伝子レベルで見ると複数の民族が混在していることがわかる。
有名な「日本人の二重構造説」は、東南アジアから旧石器人が渡ってきて縄文人になり、北方アジアから農耕を伴った渡来型弥生人が来て、日本人はそれらの混血であるという説である。分子レベルからも本土日本人の遺伝子はほとんど弥生系であるのに対して、アイヌ・琉球人は縄文系だ。このような研究では全体を区分けするのは学問上に必要なことであり決して差別ではない。
日本列島に人が渡ってきたのは、大陸と陸続きだった時である。縄文人は東南アジアが起源とされるが、中国大陸をわたり南北のルートから日本列島へ渡来したはずである。その北ルートの一派は北米にわたりアメリカ先住民の祖先になった。アイヌと彼らにつながりがあることは、文化的にも遺伝的にも推測できることなのである。