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国際身分制研究会研究会・学習会報告
1998年06月28日
ヨーロッパの身分差別
−「賤民」差別をめぐって−

(報告)三宅正彦(愛知教育大学名誉教授)

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ヨーロッパの「賤民」

 ヨーロッパにおいて、「賤民」に関する研究は非常に少なく、今回も訳書か日本人研究者の資料に頼っている。

 中世ヨーロッパ人が賤視していたのは、刑吏・皮剥ぎ・道路清掃人・遍歴楽師などと、ロマ、ユダヤ人や少数民族であった。特に刑吏は不可触民として最も賤視されており、副業として皮剥ぎ、道路清掃人の役割を担っていたとされるが、筆者はむしろ、このような職の人々が、副業として刑吏の職に就いていたと考えている。

 近代になるにつれ、キリスト教の均一的・一元的な世界観が広まり、彼らに対する賤視観は消滅したとされるが、筆者は賤民身分が解体したという説に疑問を抱いており、新たな差別が存在しているのではないかと考える。

ドイツの「賤民」

 中村賢二郎は、近代初期のドイツにおいて、楽師がミサにも出席を許されず、また職業的血統を持っていたことを指摘している。このことから、近代の賤視観は中世のそれよりも増幅していたと考えられる。

 また、近代ドイツにおいては、婚外によって生まれた子どもや定住しない民族も、賤視の対象になったようである。彼らは、手工業から排除されたが、それは「名誉」と「不名誉」の概念から説明できる。

 18世紀にドイツ人のメーザーが「(彼らが)手工業ツンフトに入ることに強い反対の態度を」示した、と記録されている。なぜならば「ギルドとツンフトの名誉と階級が破壊されるからである」というのがその理由であった。

 この場合の「不名誉」とは「国家に対して税金も払わなければ、有益な奉仕もしない」ことである。このため、「共同体の底辺に位置して共同体の安全と生活に奉仕する義務を負った集団」が「名誉なき人々」とされたのだ。つまり、マジルノーであるがゆえに彼らは排斥され、「名誉」から逸脱していると見なされたのである。

 では、現代ヨーロッパにおいてはどうであろうか。現代ドイツの教科書には、清掃業者が登場するが、その導入部分で教師はまず、子どもたちに「どんな職業に就きたくないか」を質問し、「ゴミ回収業者をあげられない場合、教師はそのことを指摘する」とある。つまり、中世ヨーロッパで「賤民」と位置づけられていた道路清掃人が、現代でも差別を受けているのである。

イギリスの「賤民」

 また、現代イギリスでは、統計をとるために各家庭を職業別にランクづけているが、それは所得による分類ではない。中世からの観念による分類ではないかと考えられる。それならば、所得に関係なく身分は存在し、差別的扱いを受ける人々が存在するということは明確である。

 しかし、ヨーロッパで「賤民」研究者は見あたらず、「賤民」身分は消滅したのか。そのことを把握するために、大規模な意識調査が必要だと思われる。

(小森田明子)