今回の研究会は、研究所の国際人権部会ならびにヒューライツ大阪の国際人権部会と合同での研究会として開催された。以下報告の要旨を紹介する。
フェミニスト・ダリット・オーガニゼーション(FEDO)は、ネパールで唯一のダリット女性のための全国組織であり、ダリット女性の地位向上のために活動をし、最終的に、女性自らが権利の擁護を可能となるよう目指している団体である。なぜならネパールのダリット女性は、社会的に不可触民とされ、教育的、政治的にも低位な位置におかれているからである。
FEDOの活躍しているネパールの地理的特質は、インド、中国に隣接しており、国内は、山岳、丘陵、平原部に分けられる。また、開発地域を基準にみた場合は、東西5つの行政的区画とみなすことができる。そして開発の程度により、地域的偏差があり、東部の方が西部よりも開発が進んでいる。
地理的複雑さを反映し、ネパールの人びとは、生物学的、社会的にも多様で複雑な構成をしており、それはさまざまなカーストによって表現されている。
宗教は多種多様であるにもかかわらず1990年の憲法によってヒンズー教を国教としている。このヒンズー教の家父長的な慣習から、ジェンダー格差もまた明確となった。
したがって、現在のネパールはヒンズー教の影響下、カースト制度があり、それはバルナと呼ばれている。バルナは、司祭の「ブラーミン」、武将の「チェトリ」、商人の「バイシャ」、底辺に「シュードラ」という4つの階層があり、「シュードラ」がダリットや不可触民である。
はじめてダリットを法的に不可触民であると規定したのは、1854年、ラナ政権の時代に制定された、全国的国内法である。この国内法のもと、カーストは4つの社会的階層として公的に規定されたのである。一番上の階層が「タガタリ」、二番目が「マトワリ」で、これらの人びとはヒンズー教とは無関係な集団だったのであるが、この国内法によってカースト制度に組み込まれた。「マトワリ」はさらに「ナマシン(奴隷や奉公人にはできない)」と「マシン(奴隷や奉公人にできる)」の二つに分割された。
三番目が「パニ」「ナチャルネ」「チョニチト」「ハル」「ナパルネ」であり、不浄であるが触れることのできるカーストである。
そして四番目が「不可触民」である。
また、これらとは別にネワール族という先住民族がいる。この人たちも「マトワリ」と同様に、元来、ヒンズー教とは無関係の集団である。もともとネワール族は14世紀には職業別カーストに組み込まれていたのであるが、前述のラナ政権下に4つのカーストに分散配置という再構成がされている。
この複雑なカースト制度の下、ダリットを定義することは困難である。しかし、FEDOは独自にダリットの定義を「社会的不可触民、公共の施設において差別され、社会経済的な職業の機会均等を否定されたりする人」である、と規定し、ダリットの現状分析を行った。そして、出身別、さらにその中で職業、母語によって改めてダリットを具体的に特定し、その上で差別的実体を指摘した。
FEDOは、これらの分析を基礎にして、ダリット組織の統一、差別禁止を規定している現憲法の施行をより具体化させるための各種の提言を行っている。