社団法人部落解放・人権研究所は、調査研究事業の一環として1995年4月から98年3月までの3ヵ年計画で「近現代身分制及び身分の国際比較研究事業」を実施した。その目的は、現代社会に厳存している部落差別問題の解決に資するため、近現代社会における身分制及び身分の問題を、その発生原理から、あるいはまた、国際的な比較社会史的な視野から研究を深めることであった。
本調査事業を進めるために、「国際身分制研究会(略称)」(代表:沖浦和光、事務局長:寺木伸明、委員:池川英勝・友永健三)を設けて、世界各国の身分制及び身分について調査研究を進めつつ、それぞれの分野の専門家からの報告を受け、討議を深めていった。その成果は、研究会での報告者のご協力により、『国際身分制研究会中問報告書』(1998年3月、A4版、204頁)としてまとめられ、幸い好評を博した。
ところが、テーマの重さと広さからして、3ヵ年という期問はあまりにも短く、そのため研究対象が地域的にはインド以東のアジア地域に偏っていたこと、時代的には前近代が多くて近現代が少なかったことなどの課題を残した。
そこで第1期3ヵ年計画(1998年4月〜2001年3月。代表:沖浦和光、事務局長:寺木伸明、委員:池川英勝・加藤昌彦・桐村彰郎・友永健三・三宅正彦・梁永厚)を立て、地域をさらに広げ、時代も近現代を重視する方向で、研究会を進めた。その成果は、『第II期国際身分制研究会報告書』(2001年3月、A4版、175頁)としてまとめられた。
これにはヨーロッパ・アフリカや中近東に関する研究報告およびインド・中国・韓国及び日本の近現代に関する研究報告も収録され、これで南北アメリカ大陸を除く地域がほぼ網羅され、時代的にも前近代だけでなく近現代も相当充実された。
しかし、なおいくつかの課題が残された。第1に身分差別は職業差別と深いかかわりがあることが明確にされてきたので、地域別、国別の職業差別の種類と実態を系統的に調査分析しなければならないこと、第2に、現に身分差別が存在しているインド・ネパール・韓国及び日本の被差別民衆の実態の、さらに詳細な比較研究を進めなければならないことなどであった。
そこで、これらの研究課題にアプローチするため、第III期国際身分制研究会(2001年4月〜2003年3月。代表:沖浦和光、事務局長:寺木伸明、委員:加藤昌彦・桐村彰郎・友永健三・三宅正彦・柳父章・梁永厚)を立ち上げ、各分野の専門家の報告を盛り込みつつ、研究会のメンバーによる研究報告を重ね、研究を深めてきた。その成果が本報告書である。本研究会でご報告いただき、本報告書の作成にご協力をいただいた方々にこの場をお借りして感謝申し上げる次第である。
前に公刊した2冊の報告書に続いて、本報告書も多くの方々に読まれ、身分制及び身分の国際比較研究及びそれらの成果を踏まえた部落問題研究がさらに深まっていくことを心から念願するものである。なお、III期8年問にわたる調査研究事業の成果として、本報告書とは別に単行本を2003年度中に出版する予定で、いまその準備作業にかかっていることを申し添えておきたい。
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