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2004.11.16
部会・研究会活動 <身分制研究会>
 
第úL期国際身分制研究会報告書

国際身分制研究会編
 (A4版・167頁・実費頒価・2003年6月)

インド政府の差別改善政策をめぐって
―2001年の国勢調査(センサス)を読む―

桐村彰郎

はじめに

  昨年のインド現地研修でございますが、私は大学の関係で参加できず、泣く泣く欠席となったのですが、沖浦先生が帰ってこられてから、いろいろと話を聞きましたところ、

  ずいぶんとインドが変わってきているという印象をお話されました。もちろん、地域差の問題はあると思います。今回参られたのはデリー地区、マハラシュトラ州、ゴアですがいずれも、デリーは中心地ですし、マハラシュトラ州は発展した商業地域、また、ゴアは観光地で、おそらく他の地域と比べたら多少事情は違っているかなという気はします。ただ、インドでは1935年くらいから指定カースト、指定部族についての改善策がはかられてきていたわけですが、それはともかく、インドが独立して以来、約半世紀がたっていますが、その間ずっと、指定カーストや指定部族に対する保護策がなされてきたわけです。そうすると、やはりまったく効果がなかったというわけではなく、ずいぶん無駄もやっているとは思いますが、それなりの成果が大きく出てきていると思います。同時にまた、新しい問題も出てきていると思います。現在、カースト差別も変貌しつつある、と言ってもいいのではないでしょうか。これは日本で同和対策事業によって部落差別に非常に大きな変貌が見られたというのと同じようなことで、インドではこれからも同じような状況がおこってくるのではないかと私は考えます。

  私はインドに行けなかったわけですが、1月の20日過ぎに報告会が開かれたときに資料をわたされて「報告をやれ」と言われて、いそがしくとりまとめたわけでございます。

  さて、タイトルでございますが、まあメインタイトルはよろしいのですが、サブトイルがちょっとおもはゆい思いがしております。

  私が直接見ましたのは、インディア2002、政府の刊行書で、さまざまな統計がのっておりまして、日本でいうところの白書のようなものでございますが、こちらを主たる典拠にして、お話してまいります。

  また、2001年センサスにつきましては、実はまだ大きな発表はなされていない、とくに指定カースト、指定部族の細かい統計についてはまだ出ていないという状態です。つまり、この2001年センサス結果は部分的にしか出ていません。そういうわけですのでご了承ください。指定カースト、指定部族の人口やその比率、それから、都市と農村の人口比、あるいは、宗教別人口等々、全部1991年センサスのままです。私が参考にしておりますのはインディア2002と、1999年のも持っておりますのでそちらも部分的に参考にしたいと思います。それからもう1つは「フィールドからの現状報告」非常に有名な5巻本の一つですが、こちらを書かれた押川文子さん、私は現代インドの研究で第一人者と思いますが、このかたの報告や、私がかつて発表したものを集めてまとめております。

  さきほど、友永さんや寺木さんからのお話もありましたので、レジュメの「インドのカースト制度(ヴァルナとジャーティ)」のところは簡単に済ませたいと思います。さきほど友永さんがおっしゃったジャーティとカーストについての考え方は私も同じ考え方です。ジャーティというのは、もともとは様々な地域でできた血縁集団、職業集団で、さきほどのお話で数千とありましたが、こういったものを上から4つのヴァルナに区分けしていったものです。すなわち上からバラモン、クシャトリア、バイシャ、シュードラ、という形にしたものです。やがてシュードラから分泌される形でアンタッチャブルの階層が出てきますが、このようにヴァルナに区分けしていくことで、各ジャーティの人たちがその地位を固定化され序列化されていくような格好になります。要するに様々なジャーティを固定化し序列化していくなかで、ヴァルナ制度が成立していきます。ヴァルナ制度というのはバラモン、クシャトリアなどの支配的な身分の人たちが持っているイデオロギーが組織化されていったものです。インドのカースト制度のなりたちはそういうものだと思っております。

  また、インドでは差別された集団というものがございまして、アンタッチャブルと先住民族といわれる人々でございます。アンタッチャブルは指定カーストSC、指定部族はSTと大きくくくっていいかと思います。こういった被差別集団のうち、SCとSTがどういった地域に多く住んでいるか、ということですが、指定部族につきましてはバングラディッシュの右側、東北あたりに集中して住んでいます。ほかにもあちらこちらに分布していますが、ここが一番多く、この人たちが先住民族として、独自の地位を保っています。また、先住民族とアンタッチャブルの関係はなかなか難しく、そんなに簡単に区分けできるものではなく、ある時期に例えば先住民族が編入されてアンタッチャブルになっていく、という例もあり、もともとは先住民族でも現在は指定カーストに位置づけされるという集団もあります。

  一方の指定カーストはだいたいインド全土おりますが、ケララ州と、グジャラート州は州の総人口の10%を切っています。私の資料の<1>を見ていただくと分かりますが(1991センサス結果)、ゴア州とグジャラート州の州別人口でいいますと、主要な州の中では非常に少なく、残りの主要な州になると、10%以上指定カーストの人々がいます。特に指定カーストの人たちが集中的に住んでいるのは、北部でございます。一番典型的なのが、ウッタルプラデシュ州(UP州)というところで、ネパールの下のほう、それからその右のビハ−ル州というところ、この二つにSCが非常に多く、ここだけで指定カーストの全人口の3分の1を占めています。さらにラジャスタン州やUP州の下、マディアプラテシュ州を含めると、指定カーストの全人口の半分を占めるという特徴があります。

  この一番多く集中している指定カーストの状況が一番大きな問題で、しかも地域的にいうと、この北部は、インドの全地域のなかでの後進地域になる、おくれている地域で、非常に大きな問題です。ビハール州はもうすべてが州別のいちばん最後に位置づけられ、識字率も含めていつでも一番最後になっており、ここをどう解決するかが一番大きな問題になっております。   

あ)憲法とSC、ST、OBC

  という関係でございますが、インドではBC(後進諸階級)という概念がございまして、backward classesですね、実はこのなかに、SC(指定カースト)、ST(指定部族)、OBC(その他の諸階級)の3つのカテゴリーが入っています。まず指定カーストですが、2001年のセンサスでは、総人口だけ出ていて10億2千700万人でございますが、SC、ST、OBCの集計はでておりませんので1991年センサスで申しますと、指定カーストが約16.8%、指定部族が約8.08%です。この大きな比率は現在もだいたい動いていないだろうと思います。それから、憲法はどういうことをいっているか、というとまず、不可触民制の廃止をいっています。

  憲法は不可触民制の廃止を宣言し、カーストなどを理由とする差別を禁止するとともに、それらを理由とする公務への雇用差別や、公的教育施設への入学拒否、一般施設への立ち入り拒否を禁止しています。消極的平等規定、つまり「・・・してはいけない」という消極的な規定がおかれています。ただし、それでおしまいではなく、もう1つ憲法が強いるのは積極的差別規定つまり、積極的な特別措置規定をおいています。つまり、指定カースト、指定部族の議席を留保、また公的雇用に関する特別の措置をする、という規定がおかれています。

  また憲法は、指定カースト、指定部族その他の弱者層などの教育上および経済上の利益の促進を国に義務づける、というふうになっています。弱者層というのはあとから申し上げます「OBC」です。

  指定カースト、とはどういうものかというと、ヒンドゥ教のもとで発生したバラモン、クシャトリア、バイシャ、シュードラ、アンタッチャブルと分かれたものがもとになり、ヒンドゥ教から出ているものですが、ヒンドゥ教徒だけではありません。たとえばシク教徒、それほど大きな集団ではありませんが、これはヒンドゥ教の兄弟宗ともいえるもので、シク教徒の4分の1が不可触カースト、といわれています。また、仏教徒(ブディスト)はだいたい800万程度ですが、これも含まれ、この3つが指定カーストの対象となっています。

  ただし、実は、ダリット(アンタッチャブル)というのはこういった宗教だけではなく、クリスチャンや、ムスレムのなかにもいるわけです。

  これはイスラム教やヨーロッパのキリスト教がインドのなかに入ってくる過程で、一番抑圧されていた地位にいた層が改宗をすることによって救われると考え、そうして多くの人々がイスラム教やキリスト教に転換したわけです。そんなわけで、一説にはインドのキリスト教徒の76%、ムスレムの86%がダリットであるといわれています。
  このようにクリスチャンやイスラム教徒のダリットは指定カーストに含まれていません。

  それから、指定部族のほうは少しおいておき、その他の後進諸階級ですが、これはほぼシュードラに該当するカーストでキリスト教徒、イスラム教徒の一部も含まれています。ただし、「クリーム層」とよばれる経済的、社会的に生活が向上していった部分については、最高裁はそれを排除しなさい、という判決をくだしました。さらに、OBCは指定カーストや指定部族も含めて50%未満にしなさい、というのが、最高裁の判決で、だいたい中央政府はこの線を守っています。しかし州はかなり独自なものをもっていて(資料<9>参照)、例えばマハラシュトラは、SC、ST、OBCなどの貧困層に公的雇用の80%を留保していますし、またケララはイスラム教徒やキリスト教徒の一部もOBCに含めており、州独自で公的レベルで公的雇用と高等教育に留保制度をもうけています。
  中央政府でも今はOBCに対して公的雇用の留保が実現しています。

  こうして、憲法上の要請にもとづき、指定カースト、指定部族は、中央、州などの議席、高等教育、公務・公職の三分野で留保システムの適用を受け、また、OBCは中央レベルで公的雇用の、各州レベルでは公的雇用と高等教育の面で留保制度の対象となっています。

  インドの州は従来の25くらいが、今はさらに新しく3つふえ、それぞれの州が自分たちの権限を持ちつつ中央がまとめていっているので、非常にややこしい状態です。

い)議席

  1932年のプーナ協定でございますが、アンベドカルは非常に分離選挙を主張したわけで、これは不可触カーストが独自の候補者を立てて、かつ、独自の選挙を不可触カーストだけの選挙区内でおこなうというやりかたですが、これに対してガンジーは抵抗し、断食をおこない結局、認めませんでした。そのかわり「留保制度」によって議会参加を保証する、すなわち一定の選挙区でSC、STの候補者にその選挙区の全有権者が投票する、という現行制度を決定しました。

  州の中でも80ほど、指定カーストの人数の多い地区がございます。インドがわかりにくいとイギリスの例を頭に描いていただくといいのですが、インドはイギリスと同じく小選挙区制です。その選挙区のなかで指定カーストや指定部族の割合い多い一定の選挙区に関しては立候補できるのはSCまたはSTだけである、というふうにしてそこに住んでいる

  有権者はSCやSTでない人々も含めてSCあるいはSTの候補者に投票する、というシステムです。こうやって一定の数の指定カースト、指定部族が議員として政治に参加できます。

  連邦下院の現在の留保議席のうち指定カーストが79、指定部族が39で、これはインディアの2002の最後にのっております。もしかしたら勘定がちがっているかもしれません。

  また、州についても各州議会での議員留保は、州内の人口に応じておこなわれています。

  パンチャーヤートとは州以下の県、市町村などの各地自体における議会のことをいいますが、それも同様のシステムでおこなわれています。

  次の、中央、州での政党の動向は省略したいとおもいますが、ただ、さきほどの話で少し出ましたが、これは連邦下院ですが、プラカシュ・アンベドカル、アンベドカルのたしかお孫さんだったと思いますが、それとラムダス・アタワレの二人が入っています。二人はインド共和党ですが、プラカシュ・アンベドカルはいくつか連合の党の代表として入っており、ラムダス氏は無所属で登録されています。この二人は非常に仲が悪く、どちらかというとラムダス氏は国民会議派寄りの姿勢で、これがアンベドカルさんとの考え方に非常におおきなちがいであります。

う)公的雇用

  資料<2>´のところを見てください。中央についても州についてもSC、STには公的雇用という保証がされていますが、ではどれくらい保証されているのか、ということになると結論から先に言うと、非常に小さいものです。81年の表を見ると全就業人口2億2千250万とありますが(今でも3億くらいと思います)ここにはインド独自の分け方としての、非組織部門と組織部門に区分され、組織部門はさらに公共部門と民間部門とにわかれていますが、公的雇用の対象となる部分はこの公共部門です。そうすると就業人口を100とした場合、非組織部門が89.7%となっていますから、9割弱になります。それに対して組織部門は10.3%で1割ちょっとになります。その1割ちょっとうち、公共部門は67.7%ということですから、1割ちょっとのさらに約7割弱が被差別カーストの雇用の対象になる部門であり、全就業人口の7%程度で非常に小さい規模だとわかります。

  資料の<3>は雇用規模がわかるもので、これはSC、STに関係なく全ての雇用状況がわかるものです。パブリックセクター(公的部門)は中央政府、州政府、准公務員、ローカルボディこれらを全部ふくめたものです。91年から99年までずっと見ても、どこも全部で1940万から1950万程度で、この数字はほとんどかわっていません。この程度の人数がSC、ST、OBCの公的雇用の対象になる部分です。これはインド全体の就業人口からいうと、非常に小さいものです。それから、ついでにプライベートセクター(私的部門)をみると、非農業部門で、10人以上の被雇用者があるところで、25人以上の雇用と24人以下の雇用について書かれていますが、両者合計して1991年で767万5000人ほど、で1999年になると869万8000人ほどですから100万ほどふえています。

  ただし、この民間部門、これは公的雇用の対象ではございませんから、つまり「問題は非常に小さい公的雇用の対象は保証されているが、あとはどうなるのか」ということにあります。

  1つにはインドではこの民間部門は比較的、賃金や生活条件の安定しているところなので、ここにどのようにしてSC、ST、OBCの人々が参加していくか、ということになります。

  またもう1つ、非組織部門といわれる、全体の9割を占めている部門に、被差別カーストの大部分が入っているということで、ここが大きな問題です。

  さて、公的雇用のうち中央政府の公務員における留保はどうなっているかというと、まずオープンな競争による全インド的基盤での直接的補充において、SC、ST、OBCへの留保の量は、それぞれ15%、7.5%、27%。それからオープンな競争以外の直接的補充もあるわけで、この場合は留保はSCが16.55%、STが7.5%、OBCが25.84%です。それで、途中から昇進ということが出てきてこの場合、SC、ST、の留保はそれぞれ、15%、7.5%。この昇進の場合OBCの留保はない、ということになっています。またハンディキャップのある人や前軍人にも留保が利用できるようになっています。

  このようになっていまして、中央政府公務員中のSC、STの代表については資料<2>を見ていただきたいのですが、現在の中央政府の公務員のなかのSC、STの比率はどうなっているかということです。Aが上級職、B中級職、Cが事務職、Dが現業、とおおきくくくられます。それぞれ、11.29、12.68、15.78、19.99です(その下のサファイ・カラムチャリは手作業による糞尿処理人のことです)。SC、STそれぞれの比率はトータルでは16.7%と6.17%です。そのなかでC、Dはかなりいいところまでいっていますが、A、Bはまだ少ないようです。ただし、この数字は明らかに上がってきていて、過去のグラフ(資料<4>)を見てみると、SC、STの割合が上昇していて、順調な延長上に位置しているというのが分かります。そんなわけで、上級、中級も含めて順調に上向線をたどっているといえるように思います。

  以上は中央政府のことですが、一方、州政府の公務員に占めるSC、STの比率のほうはどうかというと、これは州政府における排他的な管轄権のもとにあり、現在の資料はございません。ただ、古い資料(<5>)の比率を見ると、これは86から87年のものですが、同じようにABCDにわかれていますがC、Dは比較的多いようですが、A、Bは低いようです。

  ただしそのなかでも、グジャラートというところは、州の人口のなかで指定カーストは約7.15%ですが、その留保枠を7%にしています。そのなかでAクラスが9.6%までいっていて、Bクラスは11.49%といいところまでいっています。

  また、マハラシュトラは人口比でいくと7.14%ですが、留保枠は13%です。ここはブディストをふくんでいます。そのなかでAクラス6.90%、Bクラス7.91%といいところまでいっています。ですから、86年、87年段階でもいいところまでいっている地域があるわけです。

  ただ、グジャラートにしてもマハラシュトラにしても、商工業が盛んな地域という条件があります。一方さきほども言いましたような、ヒンディベルト地帯といわれるようなUP州やビハール州などの地域はどうかというと、非常に厳しいものです。

  例えばUP州は人口比21.16%に対してAクラス7.40%、Bクラス7.11%と非常に低く、Cクラス、Dクラスも低いものです。ビハール州に関しては資料もありません。州政府の公務員については以上のような実態であり、問題もあるわけです。

  ただ、州の政府公務員にしても、雇用状態は下降していることはなく、序々によくなっているはずです。インドは経済成長も順調ですし、国民所得も、一人当たりの所得も上がっておりますので、私は、おそらく問題なくあがってくると楽観的に考えております。

  この留保制度は1970年代以降、公務員だけでなく、公的雇用のほぼすべてに拡大されますが、この雇用規模に関してはさきほど資料<3>のところで説明しましたとおりです。このように留保制度は公務員だけでなく公的雇用のすべてに、どんどん拡大されていきました。

  それで、過去の中央政府関連公共企業体・公企業職員に占めるSCの割合ですが、これも同じような状況で(資料<6>参照)やはりABCDというクラスにわかれていて、それぞれ4.86%、6.17%、18.54%、30.82%と下にいくと留保枠をはるかに越えていますが上のほうはやはり満たされていないことがわかり、トータルするとそこそこな数になりますが、やはりこれをどうするかという問題があります。ただしこれは87年の資料なので、現在は順調に増えているのではないかと思います。

  次に公的雇用の問題点にうつりますが、半世紀にわたって、留保枠の改善に運用がなされてきていて、それなりの成果もあがってきておりますが、それと同時にそれにともなって問題も出てきております。それは、対象となった個人、家族または一部の有力なカーストと、それ以外の人々のあいだに格差がひろがっていくという問題です。留保制度を受けていて、一定の家族や個人が留保枠で大学へ行ったとする、また同じ留保枠で、公務員であるとか公的企業に就職しますね。そうすると、収入も安定してきて、その次の代、子どもの時代になってきたら、一定の安定した収入と地位がありますから、次の代ではすでに恵まれた世代になってくるのです。そうやってまた次の代が高等教育の留保枠によって高等教育を受け、公的雇用のほうにはいっていくという一定の家族で循環している、という問題が出てきます。これはカーストについても同じことで一部の有力なカーストが最初の段階でうまくやると、あと循環してくるのですね。全体のうちで特定のカーストや家族だけがぐっと上がってきて、他の人たちがワリをくうことになる。被差別集団の内部で格差が拡大していくという問題です。

  最後の専門的な職種ですが、参入が非常にむすかしいところでございます。資料<7>にあるように大学教員などですが、連邦大学の教授は86年のデータですが、0%、州大学で0.61%という割合で非常に低いものです。現在はどうなっているかというと、私は上がってきているのではないかと思います。これはあとでふれますが、高学歴のSCやSTの生徒に対して、補助金がずいぶん出るようになっていて、こういったものを利用して入ってくる学生が出てくるだろうと思われます。もちろん一方では差別や学力格差の問題は出てきますが、それを乗り越える人たちが出てきて、こういった分野にも進出してきているのではないかと思います。

え)高等教育

  時間がありませんので簡単にいきます。次に高等教育ですが、格差はあるものの、少しずつ縮小してきているといわれています。ただし、ドロップアウト率がものすごく高いという問題があります。また、公的雇用の場合と同じ問題があり、留保枠の恩恵というのが、結果として特定の家族、カーストのなかで循環しているため、格差が出てくるというものです。これについては一定の見直しが必要ではないかと思います。

お)その他の諸政策

  その他の諸政策は、資料<10>のところですが、これはだいたい90年から始まる5ヵ年計画について押川さんが作られたものですが、基本的にはこのような様々なプロジェクトは現在も続いております。特別部分計画、特に指定カーストに関する優先区分が指定されている主要政策・措置、たとえば経済政策で言うと、所得創出/職業訓練、総合的農村開発計画は続行していますし、失対事業のジャワハルラール雇用計画は中央政府と州が半分ずつで受けもっておりましたが、1999年からこれと違うものにおきかわっております。それから、制度金融というものの普及に関しての全国指定カースト・指定部族の指定金融開発公社、これは二分されて、それぞれに分かれております。このような小さな変更はありますが、大枠としては、こうした事業は今でも続けられております。

  また、アンタッチャビリティに関する法律はいくつかあり、1955年の不可触民制犯罪法は76年に市民権保護法に変わっております。また、1989年にはSC、ST(残虐行為阻止)法、それに1993年には、手作業による糞尿処理人の雇用と乾燥便所架設(禁止)法もできました。1976年には間接的なものですが奴隷的労働禁止法ができております。奴隷的労働禁止法についてですが、南アジア全体に奴隷問題があり、ネパールでもそうですが、カマイヤシステム、ハリアシステム、ハルアシステムなどのシステムがございます。これは一種の農奴制度で、現在でもインドで13州ほどこういった奴隷的労働が残っているといわれています。インドでも「ハリ」という言葉がありますが、これはネパールで「耕作する人」という意味があり、借金をかたにして、それを機会に強制労働させられるという、反封建的な生産関係を背景にしているわけです。現在では一番大きな問題になるのは、ビハール州とUP州の東のほうで、このあたりが一番半封建的生産関係が強く残っているといわれています。しかし、全体的に見ると、70年代あたりから農村にも「緑の革命」といわれる形で資本主義的な波がおしよせてきているので、古い生産関係は、奴隷的労働禁止法もできていることもあり、だんだんと資本主義的な搾取関係、要するに、必要なときに日雇い労働で日雇い賃金でやとうという形に変わっていくと思います。もちろんこれは自動的な流れではなく、いろいろな努力がなされた結果として変化していくわけです。ここに新しい問題も出てくると思います。

  それから経済福祉の諸政策については、あとでレジュメを読んでおいてください。1960年代中期までの改革、また70年代末から本格化していく様子、それから80年代以降、現在にもつながるプログラムが発表されています。

  また指定カーストの経済状況ですが、これは地域差はありますが、やはり農業部門の比率が非常に高くなっています。ケララは指定カーストの比率も低いところで、むしろヤシノミ産業や水産業が中心です。それからケララはだんとつで識字率が高く、サービス産業に従事している知識レベルの高いダリットが非常に多くなっています。実際、私たちが以前インドに行ったときのガイドさんもダリットの人でした。そのように地域によっての差はあります。

  それから、貧困線以下の人口比率の推移ですが、(資料<12>)ここは1点だけいっておきますと、インドにおける貧困線以下の人口比率は非常に高く、政府が発表した公的な数字が29.9%ですが、これを専門家が修正して39.3%と発表しています。このなかに大きくSC、STの人々が重なるだろうと予想できます。

  また、教育制度についてですが、ここにおいては非常にドロップアウトする率が高く、いったん登録はして、いいところまでいっても最終的にドロップしてしまい、日本の水準では想像もできないほどの状況です。ただし、ケララは非常にいいようです。とはいっても、1学年から5学年までのプライマリレベルまでの登録率が高いということで、そのあとのミドルレベル、セカンダリレベルとなると、急にドロップアウトの率が高くなります。

  これは非常に大きな問題ですが、インド全体の教育レベルは非常に上がってきていてそこのレジュメにあるように高等教育ではカレッジ数がふえてきていて、ものすごい拡大をしてきております。ですから、問題はこのように拡大していく高等教育のなかで、SC、STの生徒たちがどのように位置づけられていくかということになります。

  それから、識字率についてですが、これは2001年センサスでは、急速な識字率の上昇、とあり、政府は「前例のない進歩である」と、高い評価をしています。日本の現状からいったらたいしたことはありませんが、インドでの進歩はめざましいもののようです。では、この識字率の上昇とSC、STの関係はどうなのかというと、この表だけではちょっと分かりません。

  また、SC、STのための教育対策というところは次に述べる予定であった政府の現行各種プログラムと重なるところがありますが、簡単に言いますと、全ての州で初等レベル(プライマリレベル)の授業料は無料になっています。またたいていの州ではSC、STの生徒にたいして、シニアセカンダリ(11級から12級)まで授業料は無料としています。それからさらに、テキストも無料、制服文具、学校かばんも無料で与えています。また特にSC、STの集中している地域では栄養支援プログラムを行い、タミルナド州では給食を実施しているようです。それから、補習のためのコーチシステムや奨学金の留保、さまざまな奨学金がありますが、そのなかの一部をSC、STの生徒に留保していたり、大学に通うSC、STの学生に対しては試験について、いわば「げたをはかす」制度も作られております。ですから、こういった教育対策は非常に大きな力になってきていると思います。

  それから、政府の現行各種プログラムについては、時間もありませんし、アトランダムにならべているだけで申し訳ないですが、あとで読んでおいてください。

  そのなかで1点だけ、現在、かつての福祉省が改称されまして、Social Justice and Empowerment省となり、ここがSC担当となっています。

  また、部族(ST)については99年から別の省が作り出されMinistry of Tribal Affairs が創設されました。

  こうやってみますと、SC関係は今までもいろんな援助を拡大し続けてきていますが、近年はST関係の援助に対して非常に力を入れられているという印象を受けます。STは非常に識字率が低いのですが、その理由は様々な経済的、教育的な問題があるからで、この新しい省を作ることによって、この問題に取り組もうとしているのではないかと思われます。

  以上で報告は終わりですが、質問があったらお願いします。

※ホームページ掲載にあたり、内容に関して最小限の訂正をいたしました。