上杉孝實さん
成人教育においては、学習の中で学習者がいかに主体となれるかが議論されているが、報告書のタイトルにもある「自己実現」「社会参加」との関連は、大きくわけてふたつある。一つは、学習を通じての自己実現・社会参加、二つめは学習の結果としての自己実現・社会参加である。
この報告書は前者を対象にしている。報告書は参加型学習を中心に、前半は日本とイギリス・アメリカの成人教育との比較、参加型の手法の問題、コーディネーター論といった理論研究、後半が成人教育のケーススタディになっている。報告書の検討を行っていた時期は、部落問題をめぐる議論の中で、「自立・交流・まちづくり」がスローガンになりつつあった時期であり、そうした視点からこれまで行われてきた実践の蓄積を紹介している。
花立都世司さん
成人教育全般としては、お茶・お花など講習講座が決まった科目で行われることにより、マンネリ化・固定化・少人数化が課題となっていた。また、部落における成人教育については、識字学級で学習を続ける人を、講習講座へどうつないでいくかも課題だった。
そこで、鍵になるのは人材養成・当事者のエンパワメントである。部落では交流という要素が重要だった。そこで、講習講座の対象を、地区内外に広げていった。また、識字と講習講座の間をどのようにつなぐのか、講習講座の内容をどうするかなどの課題もあった。いずれにせよ、科目がどんなものであれ、交流が深まり、課題が議論されることになる。
成人教育をすすめていく上では、担い手の問題がある。部落には人権文化センターがあり、社会教育指導員や社会教育主事がいる。しかし、内容に関しては、学校教育的なものではなく、コーディネーター的要素が多い。専門性がないのに講座を企画しないといけない状況にある。そこで、担い手の専門性をどう高めていけばよいのか、プログラムをどのように作っていくかが課題となっている。
大阪市の場合、予算が付いていることもあり、かなり実験的な取り組みが行われてきた。そのなかでうまくいった事例は現在でも残っている。ただし、個人個人の蓄積が多く、ある程度そのようなやり方は流通してはいるが、枠組みが形成されているわけではなく、拠り所があるわけでもない。ノウハウを共有化し、集団として積み上げていけるような仕組みが必要である。
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