調査研究

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2006.04.28
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人権教育・啓発プログラム開発研究会報告
2006年1月26日
自己実現・社会参加への誘導要因

上杉孝實(京都大学名誉教授)
花立都世司(浪速人権文化センター主査)

上杉孝實さん

 成人教育においては、学習の中で学習者がいかに主体となれるかが議論されているが、報告書のタイトルにもある「自己実現」「社会参加」との関連は、大きくわけてふたつある。一つは、学習を通じての自己実現・社会参加、二つめは学習の結果としての自己実現・社会参加である。

 この報告書は前者を対象にしている。報告書は参加型学習を中心に、前半は日本とイギリス・アメリカの成人教育との比較、参加型の手法の問題、コーディネーター論といった理論研究、後半が成人教育のケーススタディになっている。報告書の検討を行っていた時期は、部落問題をめぐる議論の中で、「自立・交流・まちづくり」がスローガンになりつつあった時期であり、そうした視点からこれまで行われてきた実践の蓄積を紹介している。

花立都世司さん

 成人教育全般としては、お茶・お花など講習講座が決まった科目で行われることにより、マンネリ化・固定化・少人数化が課題となっていた。また、部落における成人教育については、識字学級で学習を続ける人を、講習講座へどうつないでいくかも課題だった。

 そこで、鍵になるのは人材養成・当事者のエンパワメントである。部落では交流という要素が重要だった。そこで、講習講座の対象を、地区内外に広げていった。また、識字と講習講座の間をどのようにつなぐのか、講習講座の内容をどうするかなどの課題もあった。いずれにせよ、科目がどんなものであれ、交流が深まり、課題が議論されることになる。

 成人教育をすすめていく上では、担い手の問題がある。部落には人権文化センターがあり、社会教育指導員や社会教育主事がいる。しかし、内容に関しては、学校教育的なものではなく、コーディネーター的要素が多い。専門性がないのに講座を企画しないといけない状況にある。そこで、担い手の専門性をどう高めていけばよいのか、プログラムをどのように作っていくかが課題となっている。

 大阪市の場合、予算が付いていることもあり、かなり実験的な取り組みが行われてきた。そのなかでうまくいった事例は現在でも残っている。ただし、個人個人の蓄積が多く、ある程度そのようなやり方は流通してはいるが、枠組みが形成されているわけではなく、拠り所があるわけでもない。ノウハウを共有化し、集団として積み上げていけるような仕組みが必要である。


部落問題に対する意識形成調査研究

益田 圭(相愛女子短期大学)

 「部落問題に対する意識形成調査研究報告書」の前提となった聞き取り調査は、2000年くらいから始まっている。当初の目的は、「意図的ではない差別」の研究を中心に、パターン認知・パターンに沿った行動が「意図的ではない差別」を生み出すという仮説を、具体的な事象から考えること。そしてプラスへの変容がいかに起こるかを明らかにすることで、広範な意識形成過程を把握したい、というものだった。調査対象者は、解放大学修了者で、調査主体が意図的に選択した。

 益田論文「被差別部落に関する意識と人権意識の形成過程」は、心理学の立場から、<関与>および<多重コミットメント>という概念を用いて分析を行っている。研究結果から、本来業務と人権との関わりを明確化する、本来業務の中で人権をどう考えるのかを明確にするなど<関与>が高い形での啓発が必要であること、背景的文脈にあわせた啓発の必要性が提言されている。

 妻木論文「反差別に結びつく意識の形成要因」は、社会学の立場から、人間関係・社会関係に注目した分析を行っている。反差別意識の形成要因としては、<緊密な人間関係><接触><「反差別役割」の付与・取得>があげられる。

 <緊密な人間関係>は部落に対する意識形成についてプラスにもマイナスにも働く。<接触>については、いくつかの条件が必要なものの、部落出身者との対面的接触は、肯定的な意識を形成する。<「反差別役割」の付与・取得>は、役割が人の意識を規定していくという側面に着目している。

(文責 内田龍史)