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2006.05.17
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人権教育・啓発プログラム開発研究会報告
2006年2月23日
部落マイノリティ(出身者)に対する結婚忌避・差別に関する分析

内田龍史(部落解放・人権研究所)

  表題にある報告書の第一部は結婚差別が生じる背景についての考察、第二部は部落・部落外のカップルの聞き取りデータを用いた結婚差別を乗り越えるための条件を析出するための分析、最後は付録として、これまでに文字化された結婚差別に関する事件・文献をまとめている。

  結婚差別の要因として、部落差別特有の要因としては、家意識・偏見・人種主義(部落の人たちを、我々とは違う人たちとして差別する認識)や、厳しい部落差別認識があげられる。差別が見抜けなければ差別をなくしていくことにはならないが、あまりにも差別を厳しく認識することは忌避的な態度を生み出すこともある。配偶者選択要因として、どの社会にも存在する同類婚原理・内婚原理があげられる。それらが強く働きすぎると、何らかの異質性を持つ(とされる)人々が結婚市場から排除されることになる。また、通常結婚は幸せになるためになされているが、逆に言えば、幸せになるとは見なされない人との結婚は避けられる傾向がある。


結婚差別の現状と啓発への示唆

齋藤直子(奈良女子大学大学院)
田中欣和(関西大学)
笹倉千佳弘(夙川学院短期大学)

齋藤さん

 結婚差別は、結婚する前に生じる差別として考えられてきたが、結婚してから差別された/離婚した事例があることにも着目すべきである。

 反対の場面では露骨な反対だけではなく、婉曲的な反対や親族の反対(予測)が挙げられる。反対言説としては、非公開(部落出身だと言うな)・非居住(部落に住むな)・非運動(解放運動に参加するな)という条件や、「子どもを産むな」という条件もある。

 結婚前に、「部落は関係ないよ」と言われた事例については「差別させない」というものと「臭い物には蓋」の2種類があると考えられる。「臭い物には蓋」の場合、結婚後のトラブルの原因になることもある。

 また、複合差別もテーマである。女性が部落外出身の場合、女性は親に反発することが性別役割規範に反することになるが、結婚差別に対しては部落差別と性差別をともに乗り越える視点が必要となる。女性が部落出身の場合、運動に参加することによって家事労働がおろそかになるとみなされることがあるが、運動のあり方が福祉のようなケア役割にシフトしていることから、ケア役割の重視は、性別役割の見直しにとどまらず、運動の発展にも貢献するように思われる。

田中さん

 差別意識の現在については、確信的な差別者は少ないものの、いざ結婚となると動揺する層はかなり多い。揺らぐ背景には、身近な集団規範、想像上の社会規範(世間・さまざまな集団)、フォーマルな社会規範の三つがあると考えられる。これまで、差別がひどいという認識は進んだ意識であり、差別はないというのがおくれた意識という感じがあったが、結局学生に残ったイメージは低位性イメージだったように思う。それらが想像上の社会規範を生み出していると考えられる。

 相談事例については、これまで相談に乗ってきたいろいろなケースから、相談ノウハウ10箇条と言えるようなものをあげている。当事者を支え続けてくれるのは友だちであることが多い。

 結婚差別を取り上げた教材は非常に少ない。差別を教材化するときの問題として、ふたつの欠点がある。結婚差別の実際は多様であり、多様性に対応できないことと、結婚に親が反対する理由がよくわからないということである。しっかりとした教材を作ろうとすると、中編小説くらいの長さで、いくつかの事例を元に多少のフィクションを加える必要もある。

笹倉さん

 表題報告書では、文部省の道徳教育推進のための資料「峠」をとりあげている。文部科学省のものとしては、部落問題に関しては唯一の教材である。

 同和教育から人権教育への転換に伴って、教員内部で緊張感が揺らいできた。緊張感があることで固い構えになることもあるが、人権教育になってやりやすいという安易な雰囲気が学校現場にある。

 授業実践は、どうしても「べき」論になってしまう。とくに同和教育の場合は、教科教育よりも「べき」が強く出ることになる。しかし、現実の多様性に耐えうるだけの力をつけるためには、ゆらぎのある授業をすすめていくことがよいのではないか。

〈文責:内田龍史〉