齋藤さん
結婚差別は、結婚する前に生じる差別として考えられてきたが、結婚してから差別された/離婚した事例があることにも着目すべきである。
反対の場面では露骨な反対だけではなく、婉曲的な反対や親族の反対(予測)が挙げられる。反対言説としては、非公開(部落出身だと言うな)・非居住(部落に住むな)・非運動(解放運動に参加するな)という条件や、「子どもを産むな」という条件もある。
結婚前に、「部落は関係ないよ」と言われた事例については「差別させない」というものと「臭い物には蓋」の2種類があると考えられる。「臭い物には蓋」の場合、結婚後のトラブルの原因になることもある。
また、複合差別もテーマである。女性が部落外出身の場合、女性は親に反発することが性別役割規範に反することになるが、結婚差別に対しては部落差別と性差別をともに乗り越える視点が必要となる。女性が部落出身の場合、運動に参加することによって家事労働がおろそかになるとみなされることがあるが、運動のあり方が福祉のようなケア役割にシフトしていることから、ケア役割の重視は、性別役割の見直しにとどまらず、運動の発展にも貢献するように思われる。
田中さん
差別意識の現在については、確信的な差別者は少ないものの、いざ結婚となると動揺する層はかなり多い。揺らぐ背景には、身近な集団規範、想像上の社会規範(世間・さまざまな集団)、フォーマルな社会規範の三つがあると考えられる。これまで、差別がひどいという認識は進んだ意識であり、差別はないというのがおくれた意識という感じがあったが、結局学生に残ったイメージは低位性イメージだったように思う。それらが想像上の社会規範を生み出していると考えられる。
相談事例については、これまで相談に乗ってきたいろいろなケースから、相談ノウハウ10箇条と言えるようなものをあげている。当事者を支え続けてくれるのは友だちであることが多い。
結婚差別を取り上げた教材は非常に少ない。差別を教材化するときの問題として、ふたつの欠点がある。結婚差別の実際は多様であり、多様性に対応できないことと、結婚に親が反対する理由がよくわからないということである。しっかりとした教材を作ろうとすると、中編小説くらいの長さで、いくつかの事例を元に多少のフィクションを加える必要もある。
笹倉さん
表題報告書では、文部省の道徳教育推進のための資料「峠」をとりあげている。文部科学省のものとしては、部落問題に関しては唯一の教材である。
同和教育から人権教育への転換に伴って、教員内部で緊張感が揺らいできた。緊張感があることで固い構えになることもあるが、人権教育になってやりやすいという安易な雰囲気が学校現場にある。
授業実践は、どうしても「べき」論になってしまう。とくに同和教育の場合は、教科教育よりも「べき」が強く出ることになる。しかし、現実の多様性に耐えうるだけの力をつけるためには、ゆらぎのある授業をすすめていくことがよいのではないか。
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