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2008.04.21
部会・研究会活動 < 「青少年対象施設を中心とした各地区拠点施設のあり方」検討プロジェクト>
 
「青少年対象施設を中心とした各地区拠点施設のあり方」検討プロジェクト報告
2008年2月16日

大阪市人権施策推進審議会答申「今後の人権行政のあり方について」の検討

 2007年夏から開始した本プロジェクトも、ほぼ月1回ペースで会合を重ねて、7回目に至った。7回目の会合では、2007年12月に出された大阪市の人権施策推進審議会答申「今後の人権行政のあり方について」の内容検討を行なった。その際、検討の軸になる話題提供を、座長から下記3点に沿って行ない、その後、出席者で意見交換を行なうことにした。

(1)答申はこれまでの大阪市の人権行政をどう「検証」したのか?
(2)答申に示された「人権」にまつわる諸課題への理解等は、これで本当にいいのか?
(3)今後、この答申を使って、どのような運動を展開しうるのか?

以下、会合当日の検討内容をふりかえっておく。

(1)答申はこれまでの大阪市の人権行政をどう「検証」したのか?

 (1)について言えば、答申は「一部の事業において透明性・公平性・公正性が欠けていた」として、「同和行政の功罪から学んだことを十分に踏まえ」た上で、「市民からの幅広く意見を聴取」することや、市民に対して「積極的な情報提供・情報公開に努める」こと、「法令遵守」、「施策の検証」に「真摯に取組む」という。しかし、答申が考える「同和行政の功罪」とはなんなのかについては、文面から読み取ることができなかった。

 ただ、人権施策に関する「実態把握」と「市民からの意見聴取」や「当事者からの視点・評価」とをリンクさせる視点を答申では出しており、この視点は、(2)(3)の点からの検討ともつながる。したがって今後、大阪市の人権施策の具体化において、どのような方法で「実態把握」「市民からの意見聴取」「当事者からの視点・評価」の3つをリンクさせるのかが注目される。と同時に、「当事者からの視点・評価」や「市民からの意見聴取」という部分で、後述の内容とも重なるが、私たちがどれだけの提案・意見が出せるかも重要である。

(2)答申に示された「人権」にまつわる諸課題への理解等は、これで本当にいいのか?

 (2)については、人権施策に関して「諸課題を横断的な視点で見る」「すべての人にかかわる問題として捉える必要性がある」という形で、答申は「新たな人権行政の枠組みを考える」ために、「個別の人権課題に言及しない」というスタンスをとっている。このため、たとえば部落差別や子どもの人権に関する諸問題など、多様な人権に関する課題の個々に踏み込んだ検討を行わないことになり、答申の内容には不満の残る部分がある。

 その一方で、答申は、大阪市の行政を、日本国憲法の人権規定や国際的な人権諸条約等を実現する責務を負うと位置付けている。また、答申は「人権が尊重されるまち」のイメージを、「大阪で住み、働き、集い、学び、活動するすべての人たちが個人として尊重され、市民1人ひとりが互いに認め合い、受け容れ、共に生きるまち」「差別・不公正がなく、社会参加しようとする際に排除されず、安心して暮らすことができる心豊かで生きがいのあるまち」とする。

 こうしたイメージや法令にもとづく責務に沿って、大阪市の人権施策がどのように具体化されるか。また、その人権施策の具体化に向けて、(1)の論点との関係で、市民レベルからどのような提案を出すことができるか。ここが、今後の大阪市の人権施策を考える上で重要なポイントになるだろう。

(3)今後、この答申を使って、どのような運動を展開しうるのか?

 (3)については、答申は人権施策に関する「市民の参画と協働の推進」という課題意識に立ち、行政当局が「市民の意見や批判に耳を傾け」ることや、「当事者を含む市民の意見に真摯に耳を傾け、実態に学ぶ」こと、「市民と行政がそれぞれの役割を分担し、互いに補完しあう対等な協働関係の構築」といったことを提案している。また、答申には、市民レベルでの取り組みの活性化や行政との協働に向けて、たとえば「ネットワーク・交流の促進」「市民活動に対する支援」、人権尊重のまちづくりに向けてのリーダー養成や先進的活動事例の紹介といった提案も含まれている。さらに、人権施策の根拠となる「実態把握」についても、答申では「市民・当事者からの評価、意見、提案等を、さまざまな形で聴取し、施策に反映しなければならない」と述べている。

 こうした答申の諸提案はまだ抽象的な次元に止まっており、具体化は今後ということになるのであろう。ただ、今後は大阪市の市民活動への支援施策等を積極的に私たちが活用して、具体的に各地区の課題を指摘し、大阪市の市民活動への支援施策を有効活用して、独自の取組みを展開していくことも可能である。

 そこで重要になってくるのが、私たち部落解放運動や子どもの人権に関する運動関係者などに、今、自らの暮らす「まち」の課題を発見し、その課題を解決するための具体的なプランをつくり、市民活動への支援施策などを活用していく力がどれだけ備わっているのか、ということである。また、そのことに取組むスキル・ノウハウをどのようにして高めていくのか、ということである。今後はこうしたことへの取り組みを通じて、「我々運動側の自信と誇りを取り戻す」ことが必要といえるのではなかろうか。

 と同時に、このような市民レベルでの人権関係の取り組みを活性化するためにも、たとえば社会教育・生涯学習施策やまちづくり施策の充実が、大阪市の行政には求められるところである。その点では、やはり青少年会館条例の廃止や、現在検討されている人権文化センターの統廃合などは、人権施策推進審議会の目指す大阪市の人権行政の方向性ともずれているように思われる。

 

 今回の会合での議論も、どちらかというと(2)(3)の点を私たちとしてどう受け止めていくかに議論が集中した感がある。たとえば、「イベントだけの市民協働」に終わるのではなく、「アウトリーチ的な手法を使って、なんらかの課題のある家庭への日常的な支援のレベルでの協働をどうすすめるのか」といったことや、既存の各区レベルでの人権関連の諸活動や、虐待防止などに関する連携組織、小学校区単位の住民組織の活性化といったこと。また、公募によるNPOへの事業委託に際しての公募条件の提案や、NPOへの委託事業の継続性をどのように保障するか、市民利用施設のNPOへの長期貸し出し、NPO立ち上げ支援のあり方なども話題にのぼった。

 最後に、今後、大阪市の人権施策の枠組みが具体化される段階において、私たちの側からどのような課題を提起し、どのような政策提案を行なうのか。また、具体化された人権施策の枠組みを有効活用して、私たちがどのような課題に対して、どのような市民活動を展開するのか。こうした点については、私たちのプロジェクトだけでなく、ぜひとも部落解放・人権研究所の他の部会・プロジェクトの検討課題としても取り上げ、議論を積み上げていただきたい。

(文責:住友 剛)